認知症、症状、アプローチ|2025.3.14|最終更新:2025.3.14|理学療法士が執筆・監修しています
序文
認知症は、超高齢社会の日本において重要な課題であり、患者自身、家族、そして社会全体に多大な影響を及ぼします。特にリハビリテーション職は、患者の身体機能や認知機能を維持し、BPSD(行動・心理症状)を軽減するための専門的なアプローチが求められます。本記事では、認知症の中核症状と周辺症状、そしてそれらに対する具体的なリハビリテーションのアプローチについて詳述します。
認知症の症状とリハビリの課題
中核症状:記憶障害、見当識障害、実行機能障害
中核症状は、認知症患者が日常生活で直面する最も基本的な困難の一部です。
- 記憶障害: 短期記憶が最初に影響を受け、物忘れが頻繁になります(例:会話の内容をすぐに忘れる)。進行するにつれ、長期記憶にも影響が及び、家族や自身の名前を忘れることがあります(1)。リハビリでは、記憶補助具(カレンダー、リマインダーアプリ)やルーチンの強化を用いた介入が効果的です。
- 見当識障害: 時間、場所、人物を認識する能力が低下します。例えば、自宅にいながら「帰りたい」と言い始める場合があります(1)。これには、環境の調整(例えば、時計や地図を目に見える位置に置く)や、日々のスケジュールを明確にすることで対応できます。
- 実行機能障害: 計画や判断能力の低下が見られ、複雑な家事や金銭管理が困難になります。リハビリでは、タスクを簡素化し、手順を分かりやすく伝えるサポートが求められます。
周辺症状(BPSD:不安、興奮、幻覚、抑うつなど)
BPSDは介護者の負担を増大させる主な要因であり、患者との関係性を複雑化させます。
- 不安と興奮: 不安感や混乱が興奮状態を引き起こすことがあります。例えば、環境の変化や慣れない場所にいると「帰りたい」と強く訴える場合があります(2)。これには、安心感を与える声かけや環境調整が有効です。
- 幻覚と妄想: 他者が存在しない場面で「誰かがいる」と訴えることや、物を盗まれたと誤解する妄想が発生する場合があります(2)。患者の感情に共感しつつ、穏やかな環境を保つことが重要です。
抑うつ: 認知症患者は自分の変化に気づき、それが抑うつにつながることがあります。これは活動量の低下や社会的孤立を助長します。リハビリでは、社会参加を促す活動や軽い運動を通じて抑うつの改善を目指します。
認知症リハビリのアプローチ
非薬物療法の重要性
薬物療法が効果を示さない、または副作用が懸念される場合、非薬物療法が中心となります。以下は代表的な非薬物療法の例です:
- 音楽療法: 患者の興味を引き出し、感情の安定を図る手法です。特に馴染みのある音楽を使うことで、懐かしさが記憶を刺激し、ストレスを軽減する効果があります(3)。
- 回想療法: 昔の写真や物語を通じて過去の思い出を引き出し、会話や感情を活性化させる方法です。これにより、自己認識を保ち、社会的つながりを強化します(3)。
- 環境調整: 視覚的、聴覚的刺激を減らし、混乱を最小限にする環境を整えます。例えば、静かな空間を確保することや、日常の物品を一定の場所に配置することで、不安感を軽減します。
身体的アプローチと認知的アプローチ
- 身体的アプローチ:
身体機能の維持は認知症患者の生活の質に直結します。具体的には、バランストレーニングや筋力強化、柔軟性向上を目的とした運動が推奨されます。転倒リスクを軽減することで、自信を持って生活を続けられるよう支援します(4)。 - 認知的アプローチ:
認知トレーニングでは、記憶力や注意力を活性化するタスクが使用されます。例えば、パズルや簡単な数字遊び、または会話を通じた記憶の促進が有効です。これらの活動は、患者にとって「できること」を増やし、達成感を得る場面を作ることを目的としています(5)。
身体的アプローチと認知的アプローチを並行して行うことで、身体と脳の相互作用を高め、包括的な支援を提供します
おわりに
認知症患者に対するリハビリテーションは、多面的なアプローチが求められます。中核症状や周辺症状に適切に対応し、非薬物療法や身体的・認知的介入を活用することで、患者の生活の質を大きく向上させることができます。私たち専門職が持つスキルと知識を駆使し、一人ひとりに合わせた最善のケアを提供し続けましょう。