認知症、ケア、予防|2025.2.28|最終更新:2025.2.28|理学療法士が執筆・監修しています
序文
近年、認知症は医療や介護の現場だけでなく、社会全体において重要な課題として注目されています。特に日本は超高齢社会に突入し、認知症の有病率が上昇する中で、リハビリテーション職が果たすべき役割はますます大きくなっています。本記事では、認知症の動向や原因疾患、社会的影響、そして予防とリハビリテーションの可能性について考察し、これからの取り組み方を探ります。
認知症患者の推移
認知症は、今後ますます社会的・医療的な課題となることが予測されています。世界では2019年に約5,740万人だった認知症患者数が、2050年までに約1億5,280万人に達すると見込まれています[1]。
日本国内においても、2030年までに約523万人が認知症を発症するとされ、軽度認知障害(MCI)を含む認知機能低下者を含めると、人口の約10%が影響を受ける可能性があります[2]。
リハビリテーション職に携わる私たちは、こうした増加傾向に対応するための重要な役割を担っています。
認知症の主な原因疾患と特徴
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も一般的なタイプであり、症例の72%を占めます[3]。高齢になるほど発症率が高まり、早期発見・介入が予後を大きく左右します[4]。
血管性認知症
脳卒中や小さな脳卒中、または血管損傷による脳への血流不足が原因で発症します。このタイプは全症例の約16%を占め、予防的介入が重要です[3]。
その他のタイプ
パーキンソン病による認知症や、他のさまざまな形式が少数ながら存在します。それぞれ異なるアプローチが求められます[3]。
認知症による社会的影響とリハビリの役割
ケアの負担
一人暮らしの高齢者が増加する中、家族や友人の負担を軽減するための包括的なケア体制が求められます。リハビリテーション職としては、患者や家族が安心して暮らせるよう、身体的・精神的ケアを支えるプログラムを構築することが不可欠です。
経済的影響
認知症による世界経済への損失は2019年時点で約1.3兆ドルに上ります[1]。認知症の社会的コストは今後も増加すると予測されています。厚生労働省の研究班による2060年までの推計では、医療費: 2055年に最大で2兆8,632億円、介護費: 2060年に最大で11兆3,142億円、インフォーマルケアコスト: 2060年に最大で10兆1,174億円、総疾病費用(上記3費用の合計)は、2015年の15兆89億円から2060年には24兆2,630億円に増加すると推計されています[5]。日本でも医療費の増加が懸念される中、リハビリを通じた機能維持や改善の取り組みがコスト抑制に貢献できます。
予防とリハビリの可能性
教育水準の向上や生活習慣の改善
教育へのアクセスが向上すれば、2050年までに世界で約600万人の認知症患者を減らせる可能性があります[6]。
リスク要因への対応
喫煙、肥満、高血糖といったリスク要因への介入は、リハビリテーションの現場でも実践可能な領域です。また、患者とのコミュニケーションや活動を通じて、認知機能の維持を目指す取り組みは、リハ職としての強みを活かす場面と言えるでしょう[6]。
おわりに
認知症患者の増加が予測される中、私たちリハビリテーション職が提供する支援の重要性はますます高まります。患者一人ひとりの生活の質を向上させることはもちろん、予防的アプローチによって社会全体の負担を軽減することも期待されています。専門職としての知識と技術を活かし、患者や家族、そして社会に貢献できる新たな可能性を共に模索していきましょう。
参考文献
内閣官房. 認知症施策推進関係者会議(第2回), 2024.
厚生労働省. わが国における認知症の経済的影響に関する研究. 2014.