脳卒中、疫学、リスク管理|2024.11.8|最終更新:2024.11.8|理学療法士が執筆・監修しています
序文
脳卒中は、日本国内での主要な疾患の一つであり、高齢化の進行とともにその発症率が上昇傾向にあります。特に、生活習慣病との関連が深く、早期の予防や適切なリスク管理が今後ますます重要になると考えられています。本稿では、脳卒中の最新疫学データをもとに、日本における発症動向、リスク要因、及び予防の重要性について医療従事者向けに詳述します。
日本における脳卒中の疫学
発症率・死亡率
日本における脳卒中の発症率は、1980年代以降、全体としては低下傾向にあります。これは主に高血圧管理の進展や、喫煙率の減少による影響と考えられています。しかし、高齢化が進行する中、65歳以上の高齢者における発症率は引き続き高水準にあり、今後も増加が予測されています。
厚生労働省のデータによれば、2023年の時点で、日本における年間脳卒中発症者数は約13万人、そのうち死亡者数は約4万人と報告されています。脳卒中後の機能障害によるQOL低下も社会的課題となっており、後遺症による介護やリハビリテーションを必要とする患者が増加しています[1]。
性別・年齢層の違い
脳卒中のリスクは、男性でやや高く、特に40代から60代にかけての働き盛り世代での発症が目立ちます。一方、女性では閉経後にリスクが上昇し、高齢女性における脳卒中発症が増加傾向にあります。特に高齢者では、脳梗塞だけでなく、脳出血やくも膜下出血のリスクも増大します。
国際的な比較においても、日本は世界的に見ても脳卒中の発症率が高い国に位置付けられており、特に高齢者に対する予防対策が今後の重要課題となっています。
地域格差
日本国内における脳卒中発症率には、地域差が存在することが知られています。特に、東北地方や中国地方などの一部地域では、他の地域に比べて高い発症率が報告されており、これは食生活(特に塩分摂取量の多さ)や高血圧の管理不十分さと関連していると考えられます。
リスクファクターと予防
高血圧
脳卒中のリスク要因として最も重要なのは高血圧であり、全てのタイプの脳卒中に関連します。複数の大規模臨床試験によって、高血圧管理が脳卒中リスクを大幅に低減させることが確認されています[2]。
治療目標としては、65歳未満では130/80 mmHg未満、65歳以上では140/90 mmHg未満が推奨されています。高齢者では降圧薬の調整が難しい場合が多く、薬物療法と生活習慣の両面からアプローチする必要があります。
糖尿病と脂質異常症
糖尿病患者は脳梗塞リスクが高く、血糖コントロール不良が脳血管障害の進行を加速させます。糖尿病患者における厳密な血糖管理が脳卒中予防に有効であることが確認されています。
脂質異常症もまた、動脈硬化を促進し、脳卒中リスクを高める因子です。スタチン療法によるLDLコレステロール低下が脳卒中再発予防に寄与することが報告されており[4]、適切な脂質管理が重要です。
喫煙と飲酒
喫煙は脳卒中全体のリスクを著しく増加させます。特に、喫煙者では非喫煙者に比べて脳梗塞リスクが2倍以上に上昇することが多くのエビデンスで示されています[5]。また、受動喫煙もリスク要因であるため、禁煙指導が重要です。
過度の飲酒も脳卒中リスクを上昇させます。適度な飲酒は一部の研究で保護効果が示されていますが、大量飲酒は特にくも膜下出血や脳出血のリスクを高めます。飲酒習慣に対する適切なカウンセリングが推奨されます
二次予防
運動療法:週に150分以上の中等度の有酸素運動は、脳卒中リスクを有意に低減することが示されています。
食事療法:DASH食や地中海式食事法は、脳卒中予防に有効な食事プランとして広く支持されています。特に、塩分摂取を減らし、野菜、果物、全粒穀物を豊富に摂取することが推奨されます。
薬物療法:脳卒中既往歴のある患者に対する二次予防も、非常に重要な課題です。抗血小板療法(アスピリン、クロピドグレル)や抗凝固療法(心房細動患者にはDOACを推奨)に加え、スタチン療法、RAA系阻害薬による血圧管理などが二次予防の柱となります。
おわりに
日本における脳卒中の疫学は、高齢化の進行に伴い変化しており、特に65歳以上の高齢者において発症リスクが増加しています。医療従事者として、リスク因子を適切に管理し、予防策を実行することが、脳卒中による社会的負担を軽減するための重要な役割を果たします。