呼吸機能、嚥下機能、リハビリ|2025.8.8|最終更新:2025.8.8|理学療法士が執筆・監修しています
序文
高齢者の肺炎は、その罹患率と死亡率の高さから、在宅・地域包括ケアにおける重要な課題です。特に、嚥下機能の低下や活動量の減少を背景とした誤嚥性肺炎の増加は顕著であり、肺炎を繰り返すことでADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)が著しく低下するリスクがあります。このような状況において、呼吸リハビリテーションは単なる急性期治療の一環としてだけでなく、再発予防、機能維持、そして住み慣れた地域での生活を支える上で不可欠な要素となります。本記事では、在宅や地域で高齢者肺炎患者に関わるリハビリテーション専門職の皆様へ、呼吸リハビリテーションの基本事項と、その実践における留意点について解説します。
高齢者肺炎の特徴と呼吸リハビリテーションの必要性
高齢者の肺炎は、若年者とは異なる特徴をもちます。
- 非典型的な症状:
発熱や咳などの典型的な症状が出にくく、倦怠感、食欲不振、意識障害など非特異的な症状のみの場合も少なくありません[1]。 - 併存疾患の多さ:
心疾患、脳血管疾患、慢性呼吸器疾患など、複数の併存疾患を持つことが多く、病態を複雑化させます[2]。 - 嚥下機能の低下:
加齢による嚥下反射の低下や口腔機能の低下は、誤嚥性肺炎の大きなリスク因子となります[3]。 - 易感染性:
免疫機能の低下により感染しやすく、重症化しやすい傾向にあります[4]。
このような高齢者の肺炎に対し、呼吸リハビリテーションは以下のような多角的な効果をもたらします[5]。
- 呼吸機能の改善:
適切な呼吸法や排痰手技により、換気を促進し、呼吸筋機能を維持・向上させます。 - 嚥下機能の改善:
肺炎の最大の原因である誤嚥に対し、嚥下体操や嚥下訓練を通じて誤嚥リスクを軽減します。 - ADL・QOLの維持・向上:
肺炎による臥床や活動量低下を防ぎ、早期離床と活動量増加を促すことで、ADLの低下を最小限に抑え、生活の質を向上させます。 - 再発予防:
生活指導や環境調整を通じて、肺炎の再発リスクを低減します。 - 廃用症候群の予防:
臥床による筋力低下や関節拘縮などの廃用症候群を予防し、身体機能の維持を図ります。
呼吸リハビリテーションの基本アプローチ
在宅・地域での呼吸リハビリテーションは、患者さんの生活環境や身体機能、そして介護状況に合わせて個別化されたアプローチが求められます。
1. 評価
- 呼吸機能評価:
呼吸音、呼吸パターン、SpO2、呼吸回数、努力呼吸の有無などを観察します。 - 身体機能評価:
筋力、関節可動域、バランス能力、ADL(食事、更衣、入浴、排泄、移動など)を評価します。特に、転倒リスクや活動性との関連も考慮します。 - 嚥下機能評価:
嚥下反射、口腔内状況、食事摂取時のむせの有無、食事形態などを評価します。必要に応じてVE/VF検査の結果も参考にします。 - 栄養状態評価:
体重変化、BMI、血清アルブミン値などを確認し、低栄養の有無を評価します。 - 精神・認知機能評価:
意欲、理解力、認知症の有無などを評価し、リハビリテーションへの参加意欲や指示理解度を把握します。 - 生活環境評価:
住居の段差、手すりの有無、介護者の有無や介護力など、生活環境を把握し、安全な生活を送るための課題を特定します。
2. 介入
呼吸理学療法
- 呼吸介助法:
咳嗽介助、体位ドレナージなど、効果的な排痰を促します。 - 呼吸訓練:
口すぼめ呼吸、腹式呼吸など、効果的な換気を促し、呼吸困難感を軽減します。 - 胸郭可動域訓練:
胸郭の柔軟性を保ち、十分な換気量を確保します。
嚥下リハビリテーション
- 間接訓練:
嚥下体操、発声練習、口腔ケアなど、嚥下関連筋の機能改善や口腔環境の衛生状態を保ちます。 - 直接訓練:
適切な姿勢での食事、食事形態の調整、一口量の指導、嚥下時の注意点(ごっくんと飲み込むなど)の指導を行います。 - 栄養状態の改善:
適切な食事形態や栄養補助食品の活用を検討し、低栄養の改善を図ります。 - 早期離床・活動促進:
段階的に座位・立位時間を増やし、起立性低血圧の予防とバランス能力の改善を図ります。 - 歩行訓練:
患者さんの能力に合わせて、自宅内や屋外での歩行訓練を指導しま - 口腔ケア:
肺炎予防に繋がるうがい・手洗いの徹底、口腔ケアの重要性を指導します。 - 栄養指導:
誤嚥しにくい食事形態や、十分な栄養を摂取できるような食事内容について、管理栄養士と連携して指導します。 - 服薬指導:
薬剤師と連携し、服薬管理の徹底を促します。 - 住宅改修の提案:
必要に応じて、手すりの設置や段差の解消など、安全な生活環境を整備するための助言を行います。 - 介護者への指導:
家族や介護者に対し、リハビリテーションの意義や介助方法、緊急時の対応などを指導し、協力を促します。
3. 多職種連携の重要性
高齢者肺炎に対する呼吸リハビリテーションは、リハビリテーション専門職単独で行うものではありません。医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、ケアマネジャー、介護士など、多職種が密に連携し、情報共有と共通認識のもとで介入を進めることが不可欠です。カンファレンスなどを通じて、患者さんの状態変化、リハビリテーションの進捗、今後の目標などを共有し、それぞれの専門性を活かした包括的なサポート体制を構築することが、患者さんのADL・QOL維持向上、そして肺炎の再発予防に繋がります。
おわりに
高齢者肺炎に対する呼吸リハビリテーションは、急性期治療後の継続的なケアとして、また肺炎の再発予防という観点から、リハビリテーション職の役割はますます重要になっています。リハビリテーション専門職の皆様には、患者さん一人ひとりの状態や生活背景に合わせたオーダーメイドのリハビリテーションを提供し、多職種連携を積極的に推進することで、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活を送れるようにサポートしていってください。






















