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車椅子選定で失敗したくない。既製品を「オーダーメイド級」に変えるクッション調整術

車いす、クッション 、座圧|2026.6.26|最終更新:2026.6.26|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 既製品クッションの成否を分けるのは、「何を選ぶか」だけではなく、「どう座らせ、どう微調整するか」
  • 座位姿勢そのものが骨盤配向や坐骨部圧に大きく影響し、クッションの効果は座り方で変わる
  • 骨盤を先に整える→支持面を広げる→比較して再評価するという順番で考える
3分で読めるよ

序文

車椅子クッションの選定でうまくいかないとき、若手療法士ほど「もっと高価なクッションが必要なのでは」と考えがちです。ですが実際には、失敗の多くはクッションそのものより、骨盤のズレを見逃したまま座らせていることや、調整を一発で決めてしまうことにあります。

既製品でも、座面条件・骨盤位置・支持面の作り方を丁寧に整えると、体感も圧分散もかなり変わります。この記事では、既製品クッションを「オーダーメイド級」に近づける考え方を整理します。

失敗の本質は「クッション選び」より「座位のズレ」

座位姿勢は、骨盤配向や坐骨部圧に大きく影響します。
Kooらの研究では、同じ対象でも姿勢の違いで坐骨部圧は変化し、クッションの種類によってその影響の受け方も異なりました[1]。
またSprigleらは、上肢リーチの違いにはクッションやバックサポート高さ以上に、実際にとられた座位姿勢の影響が大きいと報告しています[2]。
つまり、「良いクッションを入れたのにうまくいかない」ケースでは、まず座位のズレを疑うべきです。

さらに、いわゆる“ポジショニング用”のクッションが、常に良い結果を生むわけでもありません。
Timmらは、標準クッションと比較して、ポジショニングクッションでピーク圧や後方骨盤傾斜が増えた条件があったと報告しました[8]。
若手療法士が覚えておきたいのは、「矯正っぽく見える形」=「その人に合う形」ではないという点です。

既製品を「オーダーメイド級」に近づける3つの調整術

1)クッションの前に、骨盤が置ける土台を整える

既製品クッションを生かす第一歩は、クッション単体ではなく、骨盤が真ん中に収まりやすい土台を作ることです。
Sprigleらは、座面輪郭の評価によって、骨盤後傾・骨盤斜位・局所的な荷重集中を把握できると述べています[3]。
臨床では、座幅・座面奥行・足台高・バックサポートとの関係を整えずにクッションだけ替えても、斜め座りや滑り座りが残りやすいです。
既製品を活かすコツは、「骨盤をクッションに合わせる」のではなく、「骨盤が乗りやすい条件を先に作る」ことです。

2)「柔らかいか硬いか」ではなく、支持面をどう広げるかで考える

Gil-Agudoらは、SCI者で複数の車椅子クッションを比較し、圧分布や接触面積の特徴がクッションごとに異なることを示しました[4]。
またDamiaoらのシステマティックレビューでも、圧傷害予防に対して万能な単一素材・単一設計は示されていないとまとめられています[6]。
つまり臨床では、「フォームが良い」「エアが良い」と単純化するより、その人の骨盤・大腿・体幹条件に対して、どこで受けて、どこから逃がすかで考えるほうが実践的です。

ここで既製品を“オーダーメイド級”に近づける発想が有効です。
たとえば、左右差が強いなら骨盤を水平に近づける微調整、後傾が強いなら殿部だけで沈まず大腿後面でも支持できる調整、仙骨部リスクが高いなら後方へ荷重を集めすぎない調整が重要になります。
Taskerらは、3次元的に輪郭づけられた座面形状が、圧傷害の代理指標を改善したと報告しています[9]。
既製品でも、インサート調整・エア量調整・薄い補助パッド・ベース条件の見直しで、輪郭づけの思想を部分的に再現できます。
これは論文の結果をそのままというより、複数研究を踏まえた臨床的な応用です[3][4][9]。

3)一発で決めず、「比較して再評価する」

最近のSonenblumらの報告では、クッション評価では複数のクッション構成を比較し、圧マッピングを使ってより良い選択肢を絞る実践が示され、臨床家は実際にインターフェース圧を低下させていました[5]。
つまり、経験年数が浅いほど大事なのは、「最初に思いついた1枚に決めること」ではなく、2〜3パターンを比べることです。 加えて、座ってすぐの見た目だけで判断しないことも重要です。
Cascioliらは、座面の形状や硬さが、座ってから落ち着くまでの“settling down time”に影響すると報告しました[10]。
臨床では、座らせた直後の姿勢や圧だけで決めず、数分置いて再確認するほうが失敗は減ります。

失敗しにくい選定フロー

私が若手に勧めたい流れはシンプルです。
まず、今の車椅子で骨盤後傾・斜め座り・滑り・大腿支持不足を観察します。
次に、足台高、座面奥行、バックサポート、必要ならベース条件を見直し、骨盤が中央に置ける土台を作ります。
そのうえで、既製品クッションを2〜3案比較し、どれが最も“楽に正中に近づけるか”をみます。
ここで見るべきは「圧の数字」だけでなく、姿勢の再現性・滑りにくさ・上肢操作のしやすさ・本人の違和感の少なさです[1][2][5]。

そして最終的には、“クッション単独”ではなく“適合した車椅子+クッション”として評価する視点が欠かせません。
BrienzaらのRCTでは、skin protection cushion を適合した車椅子とともに用いることで、圧瘡発生率を下げたと結論づけています[7]。
つまり、若手療法士が本当に避けるべき失敗は「クッション選びのミス」そのものではなく、適合評価を飛ばしてしまうことです。

おわりに

既製品クッションを「オーダーメイド級」に変えるコツは、特別な裏ワザではありません。
骨盤を先に整えること、支持面を広げること、比較して再評価すること。
この3つを外さなければ、既製品でも結果はかなり変わります。

若手療法士ほど、クッションの“種類”に目が向きやすいものです。ですが本当に大切なのは、その人の身体と車椅子の間に、どんな座位を作れているかです。選定で迷ったら、「このクッションは何か」ではなく、「この調整で骨盤はどう変わったか」を問い直してみてください。

参考文献

[1] Koo TK, Mak AF, Lee YL. Posture effect on seating interface biomechanics: comparison between two seating cushions. Arch Phys Med Rehabil. 1996;77(1):40-47. PMID: 8554472.

[2] Sprigle S, Wootten M, Sawacha Z, et al. Relationships among cushion type, backrest height, seated posture, and reach of wheelchair users with spinal cord injury. J Spinal Cord Med. 2003;26(3):236-243. PMID: 14997965.

[3] Sprigle S, Schuch J, Song D. Using seat contour measurements during seating evaluations of individuals who use wheelchairs. Assist Technol. 1993. PMID: 10148621.

[4] Gil-Agudo A, de la Peña-González A, del Ama-Espinosa A, et al. Comparative study of pressure distribution at the user-cushion interface with different cushions in a population with spinal cord injury. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2009;24(7):558-563. PMID: 19447532.

[5] Sonenblum SE, McDonald A, Maurer C, et al. Reducing pressure with the goal of improving outcomes: a retrospective chart review of cushion evaluations and recommendations at one seating clinic. Disabil Rehabil Assist Technol. 2024. PMID: 37177785.

[6] Damiao J, Gentry T. A systematic review of the effectiveness of pressure relieving cushions in reducing pressure injury. Assist Technol. 2024;36(5):373-377. PMID: 34813723.

[7] Brienza D, Kelsey S, Karg P, et al. A randomized clinical trial on preventing pressure ulcers with wheelchair seat cushions. J Am Geriatr Soc. 2010;58(12):2308-2314. PMID: 21070197.

[8] Timm M, Samuelsson K. Wheelchair seating: A study on the healthy elderly. Scand J Occup Ther. 2016;23(6):458-466. PMID: 26958931.

[9] Tasker LH, Shapcott NG, Watkins AJ, et al. The effect of seat shape on the risk of pressure ulcers using discomfort and interface pressure as surrogate measures. Prosthet Orthot Int. 2014. PMID: 23685919.

[10] Cascioli V, Liu Z, Heusch AI, et al. Settling down time following initial sitting and its clinical value in seating assessment for wheelchair users with spinal cord injury. Clin Biomech. 2011. PMID: 21684748.

執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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