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リハビリテーションに関連する疫学 認知症④ 認知症進行期のリハビリテーション

認知症、リハビリテーション、生活の質|2025.6.13|最終更新:2025.613.|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 進行期認知症では、失われた機能を取り戻すよりも「生命と生活の質を守る」ことが大切
  • 運動・ADL・嚥下・行動心理症状(BPSD)への多面的アプローチは、身体機能の急速な低下と介護負担の増大を抑制できる
  • 成功の鍵は、専門職横断のチーム連携と本人・家族を巻き込んだパーソンセンタードな環境づくり
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序文

わが国では高齢化に伴い、中等度から重度の進行期認知症を抱える方が急増しています。この段階では運動機能の低下やBPSD、誤嚥性肺炎、転倒などの合併症が問題となり、患者さんの生活の質(QOL)とご家族の介護負担に大きく影響します。しかし、適切に設計されたリハビリテーションを実践すれば、進行期であっても「できること」を引き出し、ADL の維持や合併症の予防に寄与できます。本稿では最新のエビデンスと政策動向を踏まえ、リハビリテーション専門職が現場で活用できるポイントを整理します。

進行期リハビリの目的と基本原則

進行期では廃用や拘縮、誤嚥などの二次的悪化を防ぎ「現状をできる限り保つ」ことが主要目的となります。覚醒や注意を高めるために音楽やアロマ、触覚ボールなどの感覚刺激を組み合わせ、残存能力を最大限に活用することが有用だと考えられています。また、患者さんのライフヒストリーや価値観に合わせ、「好きだった歌に合わせ立ち上がりを促す」などの個別化課題を設定するパーソンセンタードケアも有効性が認められています[1]。

エビデンスに基づく身体・生活機能介入

  • 運動療法
    週に2回から3回、1セッション当たり45分から60分、12週間から16週間の期間で多要素プログラム(有酸素運動、筋力強化、バランス練習)を組み合わせるとバランス能力、ADLの皆瀬が報告されています。座位での足踏み、セラバンドを用いた上肢抵抗運動、支持具付きトレッドミル歩行など、強度を段階的に調整しながら実施することが有効です[2]。
  • ADL トレーニングと環境調整
    部分介助の原則を守りつつ、衣服を色分けして自発的な更衣を促す、ベッド周囲の手すり高さを調整して安全な寝返りを誘導するなど、環境を「できる動き」に合わせて整備します。OT は用途別に取っ手形状を変えた調理器具や、段差識別を助ける床色分けテープなどを提案し、自立度と自己効力感の維持を図ります[3]。
  • 嚥下・栄養管理
    ST とPTが連携し、頸部伸展制限や側臥位など個別化した姿勢調整を行います。嚥下前体操(舌・口輪筋ストレッチ)、フェイシャルマッサージ、呼吸筋トレーニングは誤嚥リスク低減と食事量確保に有効です。栄養士は食形態の段階設定(ソフト食からミキサー食まで)ととろみ水分の粘度管理を行い、体重減少と脱水を防ぎます[4]。
  • BPSD への非薬物アプローチ
    感覚統合、回想法、ハンドマッサージ、アニマルセラピー、園芸活動が有効とされています。同じ時間帯・同じスタッフが同じ手順で介入するルーティン化により、不安や徘徊、不穏の発生率を低減できます[5]。

評価とモニタリング

定量的指標として、Functional Assessment Staging(FAST)、改訂Barthel Index、Pain Assessment in Advanced Dementia(PAINAD)などを用いて経時変化を追跡します。週1回のモニタリングで筋肉量(BIAや下腿周囲長など)、5回椅子立ち上がり時間、反復唾液嚥下テストなどをチェックし、悪化傾向が見られた場合は即座に運動量と生活環境を再調整します。患者さん本人が自分の変化を視覚的に理解できるよう、写真やシンプルなグラフを用いた説明を取り入れると動機づけが高まります。

ICT・ロボティクス・補助デバイスの活用

近年はセンサー付きウェアラブル端末で24時間の歩数・体位変換を自動記録し、廃用予兆を早期に察知する仕組みが普及しつつあります[6]。下肢装着ロボットを用いた立ち上がり訓練は、介助量と腰痛リスクを軽減しながら可動性を高めます[7]。また、嚥下内視鏡(FEES)画像をAIで解析し誤嚥リスクをスコア化する研究も進み、定量的フィードバックが可能になりつつあります[8]。

チーム連携と家族・社会資源

週1回の多職種カンファレンスでPT・OT・ST・看護師・栄養士・薬剤師・ケアマネジャーが情報を共有し、短期目標を一致させた上でタスクを分担します。家族には安全な移乗方法、ジェスチャーや視覚手がかりを用いたコミュニケーション技法、レスパイトケア利用の選択肢を説明し、介護負担を軽減します。地域包括ケアシステムの中で訪問リハや通所リハと連携し、「施設と在宅が切れ目なくつながる」支援体制を整えることが重要です。政策面でも日本の「認知症施策推進基本計画(2024)」はリハ専門職の活用を位置づけています[9]。

おわりに

進行期認知症リハビリテーションの本質は、「できないこと」ではなく「まだできること」と「穏やかに暮らせること」を最大化する点にあります。多面的アプローチ、継続的モニタリング、テクノロジーの導入、そして家族・地域を巻き込んだチーム連携を通じて、患者さんとご家族双方のQOLを守り続けることが私たち専門職の使命です。今後は制度改革やデジタルヘルスの進展を取り込み、生活に根ざしたリハビリテーションをさらに深化させていきましょう。

参考文献

[1] Hall AJ, Manning F, Goodwin V. Key Considerations When Providing Physical Rehabilitation for People with Advanced Dementia. Int J Environ Res Public Health. 2023 Feb 26;20(5):4197.

[2] Russ, J, Christopher Weyh and Christian Pilat. “High-intensity exercise programs in people with dementia — a systematic review and meta-analysis.” German Journal of Exercise and Sport Research 51 (2020): 4 – 16.

[3] Tappen RM. The effect of skill training on functional abilities of nursing home residents with dementia. Res Nurs Health. 1994 Jun;17(3):159-65.

[4] Chen LL, Li H, Lin R, Zheng JH, Wei YP, Li J, Chen P, Chen HY. Effects of a feeding intervention in patients with Alzheimer’s disease and dysphagia. J Clin Nurs. 2016 Mar;25(5-6):699-707.

[5] Wang G, Albayrak A, van der Cammen TJM. A systematic review of non-pharmacological interventions for BPSD in nursing home residents with dementia: from a perspective of ergonomics. Int Psychogeriatr. 2019 Aug;31(8):1137-1149.

[6] Cote AC, Phelps RJ, Kabiri NS, Bhangu JS, Thomas KK. Evaluation of Wearable Technology in Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med (Lausanne). 2021 Jan 11;7:501104.

[7] Kapsalyamov, Akim, Prashant Kumar Jamwal, Shahid Hussain and Mergen H. Ghayesh. “State of the Art Lower Limb Robotic Exoskeletons for Elderly Assistance.” IEEE Access 7 (2019): 95075-95086.

[8] Weng W, Imaizumi M, Murono S, Zhu X. Expert-level aspiration and penetration detection during flexible endoscopic evaluation of swallowing with artificial intelligence-assisted diagnosis. Sci Rep. 2022 Dec 15;12(1):21689.

[9] 厚生労働省. 認知症施策推進基本計画. 2024

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執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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