痛み、物理療法 、寒冷刺激|2026.8.14|最終更新:2026.8.14|理学療法士が執筆・監修しています
序文
捻挫、打撲、肉離れ、術後、慢性腰痛、肩こり。臨床では「痛いなら冷やす?温める?電気をかける?」という場面が毎日のようにあります。結論から言うと、“とりあえず冷やす”は安全そうに見えて、いつも正解ではありません。物理療法は、炎症を抑えるためだけの手段ではなく、痛みを下げる、運動しやすくする、過敏な神経系を落ち着かせるなど、目的によって使い分ける必要があります。この記事では、若手療法士が臨床で迷いやすい「炎症期・亜急性期・慢性期」の考え方に沿って、冷却・温熱・電気刺激の基本を整理します。
急性炎症期:冷却は「痛みと腫れの管理」に使う
受傷直後から数日間は、発赤、熱感、腫脹、疼痛、機能低下といった炎症所見を確認します。
この時期の目的は、炎症をゼロにすることではなく、過剰な腫脹や痛みをコントロールし、保護と安全な範囲での活動につなげることです。
急性軟部組織損傷に対する冷却のシステマティックレビューでは、冷却単独の効果にはばらつきがあり、痛み・腫脹・可動域に対して一貫して大きな効果があるとは言い切れないとされています[1]。一方で、足関節捻挫を対象とした研究では、間欠的な冷却が通常の冷却方法より痛み軽減に有利だった可能性が示されています[2]。
つまり、冷却は必ずしも「治癒を早める魔法」ではありません。しかし、急性期に痛みが強い、熱感がある、腫脹が増えている、荷重や運動開始の妨げになっている場合には、短時間の冷却を使う価値があります。
臨床では、次のように考えると使いやすいです。
冷却を選びやすい場面:受傷直後、熱感が明らか、腫脹が増えている、痛みで荷重や運動が難しいとき。
冷却を長引かせすぎない方がよい場面:熱感が乏しい、慢性的なこわばりが主症状、冷やすと動きにくくなる、感覚障害や循環障害がある場合。
近年は、急性軟部組織損傷に対して「PEACE & LOVE」という考え方も提案されています。急性期はProtection(保護)、Elevation(挙上)、Avoid anti-inflammatory modalities(抗炎症を目的とした物理療法を避ける)、Compression(圧迫)、Education(教育)を重視し、その後はLoad(負荷)、Optimism(前向きな気持ち)、Vascularisation(血流を促す活動)、Exercise(運動)へつなげるという流れです[3]。ここで重要なのは、急性期から“完全安静+冷却だけ”で終わらせないことです。
覚えておきたいポイントは、冷却のゴールは「冷やしたこと」ではなく、「痛みが下がって、必要な保護・圧迫・挙上・軽い運動につながったか」です。
亜急性期〜慢性期:温熱は「動きやすさ」を作るために使う
炎症のピークが過ぎ、熱感や腫脹の増悪が目立たなくなってきたら、温熱療法が選択肢になります。
温熱の主な狙いは、血流増加、筋緊張の緩和、疼痛軽減、運動前の準備です。
腰痛に対する表在温熱・冷却のレビューでは、急性〜亜急性腰痛に対してヒートラップが短期的に痛みや機能障害を軽減する可能性が示されています[4]。また、急性非特異的腰痛を対象とした低温持続温熱療法の研究でも、痛みや障害の改善が報告されています[5]。
ここで大切なのは、温める=慢性痛だけではないということです。
急性期でも、炎症所見が強くない腰痛や筋スパズム主体の痛みでは温熱が有効な場合があります。一方で、捻挫直後で腫れて熱を持っている足関節に、いきなり温熱を長時間行うのは適しません。
臨床判断では、病期だけでなく「今、目の前の組織がどう見えるか」を見ます。
温熱を選びやすい:熱感や腫脹の増悪がない、筋緊張やこわばりが強い、動き始めが痛い、慢性痛、運動前に可動性を出したい場面。
温熱を避ける:急性外傷直後の強い腫脹・熱感、出血リスクが高い状態、感覚障害、循環障害、悪性腫瘍部位、感染が疑われる部位など。
温熱で痛みが下がったら、そこで終わらせず、可動域練習、軽い筋収縮、荷重練習、日常動作練習へつなげることが重要です。
物理療法は「治療の主役」というより、運動療法に入るための入口として使うと臨床的に活きます。
痛みが強いとき:電気刺激は「運動につなげる鎮痛」と考える
痛みが強い患者さんでは、徒手療法や運動療法を始めようとしても、防御性収縮や恐怖心でうまく進まないことがあります。
このようなとき、TENSや干渉波などの電気刺激は、痛みを一時的に下げて、動ける状態を作る補助として使いやすい方法です。
TENSに関する大規模なレビューでは、TENSはプラセボや無治療と比較して、使用中または使用直後の痛みを軽減する中等度の確実性のエビデンスがあると報告されています[6]。一方で、干渉波については、単独ではプラセボより有効な可能性があるものの、他の介入に追加した場合の優位性は明確ではなく、他の治療より優れているとは言い切れないとされています[7]。以前のレビューでも、干渉波単独の効果や長期的な有効性については慎重な解釈が必要とされています[8]。
つまり、電気刺激は「かければ治る」ものではありません。ただし、痛みのために運動ができない患者さんに対して、“今この場の痛みを下げる”目的なら有効に使える可能性があります。
臨床では、電気刺激後に次の変化を確認します。
痛みのNRSは下がったか。
可動域は広がったか。
荷重や歩行がしやすくなったか。
患者さんの恐怖感は減ったか。
その後の運動療法の質が上がったか。
この評価がないまま毎回同じように電気をかけると、物理療法が「なんとなくのルーティン」になります。
若手療法士ほど、介入前後で変化を測る習慣を持つことが大切です。
おわりに
「冷やすか、温めるか、電気をかけるか」は、物理療法の種類から考えるのではなく、今の目的から逆算するのが基本です。
急性炎症期で熱感や腫脹が強いなら、冷却は痛みと腫れの管理に役立ちます。
炎症が落ち着き、こわばりや動きにくさが中心なら、温熱で運動しやすい状態を作ります。
痛みが強くて動けないなら、TENSや干渉波を鎮痛の補助として使い、その後の運動療法につなげます。
大切なのは、物理療法を「単独の治療」として終わらせないことです。冷やした後に何をするのか。温めた後にどう動かすのか。電気刺激で痛みが下がった後にどの活動へつなげるのか。ここまで考えられると、物理療法は強力な臨床ツールになります。





















