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リハビリテーションに関連する疫学 高齢者骨折④

心理ショック、抑うつ、社会的サポート|2025.2.14|最終更新:2025.2.14|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 高齢者は骨折後に心理的な不安や抑うつ、社会的孤立が生じやすい
  • 心理サポートとして認知行動療法や動機付け面接法が有効
  • 家族サポートやグループ介入、ピアサポートなども全体的な回復を支える役割を果たす
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序文

高齢者の骨折リハビリテーションは、身体機能の回復だけでなく、心理的および社会的側面も重要な役割を果たします。高齢者は骨折後、身体的な機能低下だけでなく、精神的な不安、うつ病、社会的孤立など、多くの心理的・社会的問題に直面します。これらの要因がリハビリへの意欲を低下させ、回復を遅らせることが多く、患者の生活の質(QOL)や機能回復に大きな影響を与えます。したがって、医療従事者はリハビリテーションにおいて、身体的な治療だけでなく、心理的および社会的支援を統合的に提供することが重要です。今回は、これらの側面について深掘りし、包括的なリハビリテーションアプローチの実践方法を探ります。

骨折後の心理的影響

(1) 骨折による心理的ショックと不安感

骨折後の患者は、心理的ショックを経験することが少なくありません。大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折のような重度の骨折では、患者はこれまでの日常生活が一変する可能性に直面し、深い不安感恐怖感を抱くことがあります[1]。このような状況では、患者は将来の機能回復や自立生活の維持に対する希望を失いやすく、うつ症状を発症するリスクが高まります。

特に、高齢者は若年者よりも適応能力が低く、突然の身体的な変化に対応するのが困難な場合が多いため、リハビリに対する意欲の低下が顕著に見られます。このような心理的な負担は、リハビリテーションへの参加率や進行度に大きな影響を与えます。

(2) 骨折による抑うつ症状のリスク

複数の研究によると、高齢者は骨折後に抑うつ症状を発症するリスクが高いことが示されています。特に大腿骨近位部骨折を経験した高齢者のうち、23%が術後に抑うつ症状を呈するとの報告があります[2]。抑うつは、リハビリテーションに対するモチベーションを著しく低下させ、回復が遅れる原因となるため、早期の介入が必要です。

うつ症状は以下のような悪循環を生むことが多いです:

社会的孤立の進行: 友人や家族との交流が減り、孤独感が強まることで心理的な症状が悪化します。

活動量の減少: 精神的な落ち込みが身体活動を避ける行動に繋がり、結果的に筋力低下や再骨折リスクの増加に寄与します。

社会的孤立と骨折後の影響

(1) 高齢者における社会的孤立のリスク

高齢者は、加齢に伴い、友人や配偶者を失ったり、社会的な活動から距離を置くことが多くなります。さらに、骨折による移動能力の低下が加わると、これまでの日常生活や社会的交流が困難になり、社会的孤立が進行します[3]。社会的孤立は、抑うつや不安症状のリスクを高め、QOLを著しく低下させます。

(2) 社会的孤立の心理的影響

孤立状態に陥ると、患者は「自分は誰からも必要とされていない」という感覚に苛まれることがあります。これは、自尊心の低下無力感を引き起こし、リハビリへの参加意欲がさらに低下します。その結果、リハビリテーションの効果も限定的となり、長期的な回復が難しくなることが多いです。

骨折後の心理的サポートと介入方法

(1) 認知行動療法(CBT)

認知行動療法(CBT)は、骨折後に生じる不安感や抑うつ症状の緩和に効果的な心理療法の一つです[4]。CBTでは、患者のネガティブな思考パターンを特定し、それをポジティブに変えるための技術を学びます。これにより、患者はリハビリに対してより前向きな姿勢を持つことができ、機能回復への意欲が高まります。

具体的には以下のような介入が行われます:

  • 現実的な目標設定: リハビリの目標を小さなステップに分け、達成感を感じやすいように調整します。
  • ポジティブな自己対話: 自分に対して励ましの言葉をかけることで、リハビリに対する自信を持たせます。

(2) 動機付け面接法(Motivational Interviewing)

動機付け面接法は、患者自身がリハビリへの意欲を高め、自らの回復を促進するための技術です[5]。リハビリに対して消極的な患者に対し、内的な動機を引き出し、自己効力感を向上させることが目的です。このアプローチにより、患者がリハビリに対して自主的かつ積極的に取り組む姿勢を持つことが期待されます。

社会的サポートと地域包括ケアの役割

(1) 家族との連携

家族は、骨折後の高齢者にとって最も身近な支援者であり、重要な役割を果たします。家族が積極的にリハビリテーションに関わり、日常生活をサポートすることで、患者の心理的な安心感が向上します[6]。また、家族が患者のリハビリ進行状況を把握し、励ましや支援を行うことで、リハビリへのモチベーションが維持されやすくなります。

家族のサポートとしては、以下のような点が挙げられます:

  • 日常的な声掛けや励まし: 骨折後の回復過程で、家族のポジティブな言葉が患者の心理的安定を助けます。
  • リハビリへの積極的な参加: リハビリテーションのセッションに同行し、リハビリ内容を理解し、家庭でもサポートを行う。

(2) 地域包括ケアシステムの活用

日本では、地域包括ケアシステムが整備されつつあり、住み慣れた地域で医療・介護・リハビリを一体的に受けられる体制が構築されています。骨折後の高齢者が、住み慣れた地域で安心してリハビリを続けられることは、心理的な安定にもつながります。具体的には、訪問リハビリやデイケアサービス、訪問介護などが提供され、社会的な孤立を防ぐことが可能です。

地域包括ケアシステムの利点として、以下が挙げられます:

  • 多職種連携のサポート: 医師、理学療法士、作業療法士、介護士が連携して患者を支援。
  • 地域での社会的交流機会の提供: デイケアサービスなどを通じて、他の高齢者との交流機会を持ち、孤立を防ぐ。

(3) グループリハビリとピアサポート

リハビリテーションをグループ形式で行うことは、患者に社会的なつながりを提供し、孤立感を軽減するための有効な方法です。他の同様の経験を持つ患者と交流することで、励まし合いや情報共有が行われ、リハビリへのモチベーションが向上します[7]。また、ピアサポート(同じ経験を持つ仲間からの支援)は、心理的な支えとなり、患者がリハビリに対して前向きに取り組む姿勢を促します。

おわりに

高齢者の骨折リハビリテーションにおいては、身体機能の回復だけでなく、心理的および社会的側面のケアが不可欠です。骨折による不安感や抑うつ、社会的孤立に対する適切なサポートは、リハビリへの参加意欲を高め、全体的な回復を促進します。認知行動療法や動機付け面接法などの心理療法、家族や地域包括ケアシステムの支援、ピアサポートなどを通じて、患者のQOLを向上させる全人的アプローチが求められます。医療従事者は、患者一人ひとりの心理的・社会的ニーズに応じた包括的なケアを提供することで、長期的な回復をサポートし続けることが重要です。

参考文献

[1] van, et al. The prevalence and prognostic factors of psychological distress in older patients with a hip fracture: A longitudinal cohort study. Injury. 2020 Nov;51(11):2668-2675.

[2] Heidari, et al. Prevalence of depression in older people with hip fracture: A systematic review and meta-analysis. Int J Orthop Trauma Nurs. 2021 Feb;40:100813.

[3] Mandl, et al. The Effect of Social Isolation on 1-Year Outcomes After Surgical Repair of Low-Energy Hip Fracture. J Orthop Trauma. 2024 Apr 1;38(4):e149-e156.

[4] Hofmann, et al. The Efficacy of Cognitive Behavioral Therapy: A Review of Meta-analyses. Cognit Ther Res. 2012 Oct 1;36(5):427-440. doi: 10.1007/s10608-012-9476-1. Epub 2012 Jul 31.

[5] Rimayanti, et al. Gently steering – the mechanism of how motivational interviewing supported walking after hip fracture: A qualitative study. PEC Innov. 2022 Aug 24;1:100078.

[6] Mashhadi-Naser, et al. Benefits of a family-based care transition program for older adults after hip fracture surgery. Aging Clin Exp Res. 2024 Jul 13;36(1):142. doi: 10.1007/s40520-024-02794-8.

[7] Temizkan, et al. Effects of vocational rehabilitation group intervention on motivation and occupational self-awareness in individuals with intellectual disabilities: A single blind, randomised control study. J Appl Res Intellect Disabil. 2022 Jan;35(1):196-204.

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執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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