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リハビリテーションに関連する疫学 高齢者骨折①

骨折、高齢者、リハビリ|2024.12.27|最終更新:2024.12.27|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 日本の高齢化に伴い、高齢者の骨折が増加しており、特に大腿骨近位部骨折が多い
  • 転倒や骨粗鬆症が主な原因であり、早期のリハビリテーションが重要
  • 地域包括ケアシステムの強化と技術の活用が課題解決に寄与する
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序文

日本は世界でも有数の高齢化社会となっており、高齢者に特有の健康問題が深刻化しています。特に転倒や骨粗鬆症に起因する骨折は、高齢者の健康寿命に大きな影響を及ぼす問題です。骨折は身体的なダメージにとどまらず、生活の質を低下させ、要介護状態への移行や医療・介護費用の増加につながるため、医療界全体で注目されています。この記事では、高齢者に多発する骨折の原因や影響、リハビリテーションの役割、そして今後の課題について検討します

高齢化社会と骨折の増加

日本は急速に高齢化が進んでおり、65歳以上の人口が総人口の30%を超えています[1]。この高齢化に伴い、転倒や骨粗鬆症に起因する骨折がますます増加しています。特に、大腿骨近位部骨折は高齢者の寝たきりや要介護状態への移行に大きく影響し、医療・介護システム全体に重い負担をかけています。
年間10万人当たりの骨折発生率は大腿骨近位部骨折で男性217人、女性567人と報告されており、女性の方が骨粗鬆症のリスクが高いため、発生率も高い傾向にあります[2]。これらの骨折は、健康寿命を短縮させるだけでなく、医療費や介護費の増加も招いています。

骨折の原因と影響

(1) 転倒と骨折

高齢者の骨折の主な原因は「転倒」です。加齢に伴い、筋力やバランス感覚が低下するため、転倒のリスクが高まり、それが骨折につながります。特に転倒しやすい環境や、視覚・聴覚の低下、薬物による副作用がリスク要因として挙げられます[3]。

(2) 骨粗鬆症と骨折

骨粗鬆症は、骨密度が低下し骨が脆くなる疾患であり、高齢者の骨折リスクを大幅に高めます。特に閉経後の女性では骨密度の急激な低下が見られ、大腿骨近位部、手首、脊椎の骨折が一般的です。日本では骨粗鬆症を抱える患者は約1,300万人に上るとされており[4]、高齢者骨折の背景にはこの疾患の存在が大きく影響しています。

(3) 骨折の健康影響

骨折は単に骨の損傷に留まらず、全身の機能低下死亡率の上昇を引き起こします。特に大腿骨近位部骨折の術後1年以内の死亡率は8%〜14.8%であり[5]、リハビリの遅れや寝たきり状態がさらなる合併症(肺炎や深部静脈血栓症など)を引き起こすことも多いです。

骨折後のリハビリテーションの役割

(1) 早期リハビリの重要性

骨折後のリハビリテーションは、早期に開始することが非常に重要です。複数の研究によると、骨折後に早期にリハビリを開始することで、機能回復が促進され、退院後の生活自立が改善されるとされています[6]。特に、大腿骨近位部骨折では手術後3日以内に歩行を開始することで、30日死亡率が低下し、早期回復が期待できます[7]。

(2) リハビリの具体的な目標

高齢者骨折のリハビリには、以下の目標が設定されます。

  • 可動域の回復: 骨折部位の関節や筋肉の柔軟性を取り戻し、拘縮を防ぐこと。
  • 筋力強化: 特に下肢の筋力を強化し、再度の転倒リスクを減らす。
  • バランス能力の向上: 転倒予防のため、バランス能力を向上させるエクササイズが中心となる。
  • ADL(日常生活動作)の回復: 食事やトイレ、着替えなど、日常生活で必要な基本動作の自立を目指す。

これらの目標は、リハビリチーム(医師、理学療法士、作業療法士など)が連携し、患者ごとに個別化されたリハビリ計画に基づいて進められます。

(3) 心理的・社会的側面へのアプローチ 骨折後のリハビリでは、身体的な回復だけでなく、心理的な支援も重要です。骨折を経験した高齢者は、不安感や抑うつ感を抱きやすくなります。心理的な不調はリハビリへのモチベーションを低下させ、回復が遅れる要因となります[8]。このため、リハビリチームには精神的なサポートや、家族との連携も求められます。

 高齢者骨折のリハビリに関する現状の課題

(1) 医療リソースの不足

高齢者人口の増加に伴い、骨折リハビリを提供する医療機関や専門スタッフの不足が深刻化しています。特に地方では、専門的なリハビリ施設が不足しているため、リハビリを受ける機会が限られています。このような地域格差は、患者の回復度に大きな影響を与えます[9]。

(2) 継続的なフォローアップの重要性

骨折後のリハビリは、退院後も継続的に行うことが重要です。しかし、退院後に適切なフォローアップがなされないことが多く、機能回復が中途半端なまま終わるケースが散見されます。訪問リハビリや外来リハビリの導入を促進し、退院後の生活環境に応じたリハビリ支援が必要です。

(3) 二次骨折予防の未対応

骨折後の再発(再骨折)リスクを予防するためには、骨粗鬆症の治療や転倒予防が重要です。しかし、骨折治療に集中し、再骨折予防のための包括的なアプローチが十分に取られていないことが課題となっています。例えば、適切な栄養管理(カルシウム・ビタミンD補給)や運動プログラム、薬物療法(ビスフォスフォネートなど)を組み合わせたリスク管理が不可欠です。


今後の展望:リハビリテーションの発展と課題解決に向けて

高齢者骨折リハビリにおける今後の課題として、まずは地域包括ケアシステムの強化が求められます。これは、高齢者が住み慣れた地域で必要なリハビリやケアを受けられる体制を整えることを目指しています。また、最新の技術(AIやリモートリハビリ)を活用することで、医療リソースの効率的な利用が進み、地域格差の解消に繋がる可能性があります。

おわりに

高齢者の骨折とリハビリテーションは、日本の高齢化社会において重要な課題です。特に、転倒予防と骨粗鬆症治療を強化し、早期リハビリを促進することが健康寿命の延長につながります。地域包括ケアの拡充や新技術の導入によって、医療リソースの効率的な活用と地域格差の解消が期待されます。

参考文献

[1] 総務省統計局. (2022). 日本の人口動態統計.

[2] Tsukutani, et al. Epidemiology of fragility fractures in Sakaiminato, Japan: incidence, secular trends, and prognosis. Osteoporos Int. 2015 Sep;26(9):2249-55.

[3] Gillespie, L. D., et al. (2012). Interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Sep 12;2012(9):CD007146.

[4] Iki, et al. Epidemiology of bone and joint disease – the present and future – . Epidemiology of osteoporosis and osteoporotic fracture in Japan. Clin Calcium. 2014 May;24(5):657-64.

[5] Correa, et al. EVALUATION OF PREDICTIVE FACTORS OF IN HOSPITAL MORTALITY IN PATIENTS WITH PROXIMAL FEMORAL FRACTURE. Acta Ortop Bras. 2020 Jan-Feb;28(1):40-43.

[6] Hattori, et al. The association between early rehabilitation and ambulatory ability at discharge in patients with hip fractures at acute-phase rehabilitation wards: a survey of the Japan Association of Rehabilitation Database. Nagoya J Med Sci. 2023 Aug;85(3):455-464.

[7] Heiden, et al. Early Ambulation After Hip Fracture Surgery Is Associated With Decreased 30-Day Mortality. J Am Acad Orthop Surg. 2021 Mar 1;29(5):e238-e242.

[8] Phillips, et al. New-Onset Depression Following Hip Fracture Is Associated With Increased Length of Stay in Hospital and Rehabilitation Centers. SAGE Open 5 (2015): n. pag.

[9] World Health Organization. (2020). Rehabilitation in health systems: Guide for action.

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執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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