高齢者、骨折、リハビリ|2025.1.10|最終更新:2025.1.10|理学療法士が執筆・監修しています
序文
高齢者の骨折は、一次骨折の後に続く二次骨折のリスクが高くなることが知られています。一次骨折を経験した高齢者は、特に大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、手首骨折など、再び骨折をする可能性が高まり、生活の質(QOL)の低下やさらなる医療・介護の負担増加につながります。再骨折を防ぐためには、骨密度の維持や転倒リスクの軽減など、早期からの予防的なリハビリと包括的なリスク管理が不可欠です。今回の連載では、二次骨折のリスク要因と、それに対する具体的な予防策、薬物療法の役割について見ていきます。
二次骨折のリスク要因
(1) 骨粗鬆症の進行
一次骨折後の患者の多くは、既に骨粗鬆症を患っている場合が多く、これが二次骨折の最も大きなリスク要因となります[1]。骨粗鬆症は、骨密度の低下と骨の脆弱化を引き起こし、軽度の外傷でも骨折しやすい状態を作り出します。特に閉経後の女性や、栄養不足、長期間のステロイド使用者などに多く見られます。
(2) 転倒リスクの増加
高齢者の転倒は、筋力の低下、バランス感覚の悪化、視覚や聴覚の低下、薬物の影響など、複合的な要因によって引き起こされます。特に脳卒中やパーキンソン病、糖尿病などの既往歴がある場合、転倒リスクが大幅に上昇します[2]。また、転倒リスクの高い住環境(段差、滑りやすい床、十分な照明のない場所)も大きな要因となります[3]。
(3) 一次骨折後の機能低下
一次骨折後のリハビリが不十分であったり、骨折部位の治癒が遅れる場合、歩行や日常生活動作(ADL)が以前よりも制限され、活動量が減少します。これにより、筋力や骨密度がさらに低下し、再度の転倒・骨折リスクが増加します。特に大腿骨近位部骨折は、歩行機能に直接影響するため、機能低下が著しいです[4]。
二次骨折予防のためのリハビリテーションと運動療法
(1) 筋力強化とバランス訓練
二次骨折の予防には、筋力強化とバランス訓練が極めて重要です。特に下肢の筋力(大腿四頭筋、腓腹筋など)は、転倒を防ぐ上で不可欠です。レジスタンス運動やスクワット、サイドレッグレイズなどのエクササイズを取り入れることで、筋力を向上させます。また、バランス訓練には、以下のようなプログラムが効果的です。
- 片脚立ち訓練: 安定した場所に手を置きながら片脚で立ち、バランス能力を鍛える。
- 重心移動訓練: 前後・左右に重心を移動し、足元のバランス感覚を向上させる。
- 歩行補助具の使用: 杖や歩行器を使いながら、安全に歩行能力を維持・向上させる。
特にOtago Exercise Programme(OEP)などのエビデンスに基づいた転倒予防プログラムは、転倒リスクを減らし、再骨折のリスク軽減に有効であることが示されています[5]。
(2) 自宅環境の改善
自宅内の転倒リスクを減らすことは、二次骨折予防において重要です。環境的なリスク要因を特定し、以下の改善を行うことが推奨されます。
- 滑りにくい床材を使用する。
- 手すりの設置(特に階段やトイレ、浴室)。
- 段差を無くす、または目立つ形でマーキングを行う。
- 十分な照明を確保し、夜間も転倒しないようにライトを設置する。
これらの対策は、高齢者の自立を支えるだけでなく、二次骨折のリスクを大幅に低減します。
(3) 転倒予防プログラムの活用
転倒リスクを軽減するために、地域で行われる転倒予防プログラムに参加することが有効です。これには、バランストレーニング、筋力強化エクササイズ、教育セッションなどが含まれており、転倒リスクが高い高齢者に対する包括的な介入が行われます。参加者の中には、自宅でも簡単にできるエクササイズが提供されることが多く、日常生活での活動量を維持するためのサポートが提供されます[6]。
栄養管理と骨粗鬆症治療の役割
(1) 栄養管理:カルシウムとビタミンDの補給
骨密度の維持には、カルシウムとビタミンDの十分な摂取が不可欠です。カルシウムは骨の主要成分であり、骨形成を支えるために必要です。ビタミンDは腸管でのカルシウム吸収を促進する役割を担っています。高齢者ではビタミンDの合成が低下している場合が多いため、日光浴やサプリメントによる補充が推奨されます[7]。
(2) 骨粗鬆症治療の薬物療法
骨粗鬆症による二次骨折の予防には、適切な薬物療法が不可欠です。ビスフォスフォネート、デノスマブ、テリパラチドなどの治療薬が、骨密度の低下を抑え、骨折リスクを減少させるエビデンスがあります[8]。これらの薬剤は、定期的な骨密度測定と併用して管理されるべきであり、適切なフォローアップによって治療の効果をモニタリングすることが推奨されます。
薬剤性骨粗鬆症とその他のリスク管理
(1) 薬剤性骨粗鬆症のリスク
特定の薬剤、特にステロイドや抗てんかん薬などの長期使用は、薬剤性骨粗鬆症のリスクを高めます。これらの薬剤は、骨の形成を抑制し、骨密度の低下を招くため、使用期間が長い患者は注意が必要です。医師は、必要に応じてこれらの薬剤の使用を調整し、骨密度の低下を防ぐために代替治療法を検討することが求められます[9]。
(2) その他のリスク管理
転倒リスクをさらに軽減するため、以下のような生活習慣改善が推奨されます。
- 禁煙: 喫煙は骨形成を抑制し、骨折リスクを高めることが知られています。
- 適度なアルコール摂取: 過度な飲酒は骨密度の低下と転倒リスクの上昇を引き起こすため、適度な飲酒に留めることが重要です。
- 薬剤の見直し: 転倒リスクを高める睡眠薬や降圧剤の見直しが必要です。これには、多職種の協力が不可欠であり、医師、薬剤師、リハビリ専門職が連携して対応します。
おわりに
高齢者における二次骨折の予防には、リハビリテーション、栄養管理、薬物療法、転倒予防が一体となった包括的なアプローチが必要です。筋力強化やバランス訓練によって転倒リスクを軽減し、栄養や薬物治療で骨密度を維持することで、再度の骨折を防ぐことが可能となります。また、定期的なフォローアップと環境の改善を通じて、患者の生活の質を向上させる取り組みが求められます。医療従事者は、患者の個別ニーズに合わせたリスク管理を行い、二次骨折の予防に努めることが重要です。