痛み、主観的評価、客観的評価|2024.8.16|最終更新:2024.8.16|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 主観的痛み評価ツールとして、NRSはVASやVRSよりも高いコンプライアンス率と使いやすさから推奨されている
- 幼児や言語能力が限られた患者には、顔の表情を使ったface scaleが痛み評価に適している
- 客観的な痛み評価にはfMRIやEEG、CPOT、BPSなどのツールがあり、特定の状況で有用性が確認されている
序文
痛みは患者さんが最も訴える症状の一つであり、医療者にとってその評価は非常に重要です。しかし、痛みは主観的な経験であり、客観的な評価が難しいという側面もあります。ここでは、痛みの主観的な評価と客観的な評価について、その特徴を解説し、より正確な痛みの評価へと繋げられるような情報を提供します。
痛みの主観的評価
痛みの強さのツール
視覚アナログスケール(VAS):紙の上に10cmの線を引いて、左端に「0(痛みなし)」、右端に「100(これまでで一番強い痛み)」と書き、患者に「現在の痛みがどの位置にあるか」を指し示してもら、距離を測定する。
数値評価スケール(NRS):0(痛みなし)から10(想像できる最悪の痛み)で評価。
言語評価スケール(VRS):0:痛くない、1:少し痛む、2:かなり痛む、3:耐えられない程痛む、の4段階で答えてもらう段階的スケール
VASとNRSの有用性を調査したシステマティックレビューでは、NRSはVASやVRSよりも高いコンプライアンス率、より良い反応性、使いやすいという観点から推奨されるツールであることが報告されています[1]。
幼児や言語能力が限られた集団では、さまざまなレベルの痛み体験を表す一連の顔の表情を示すface scaleを使用することが推奨されています[2]。
痛みの性質のツール
McGill Pain Questionnaire(MPQ)[3]:感覚的、感情的、評価的の側面を含む、疼痛の多次元的性質を捉えるために設計されています。
MPQは広く使用されているものの、MPQ はさまざまな文化的状況で痛みの経験のすべての側面を捉えることはできないため、様々な国の言語に翻訳され、それぞれの有用性について調査が行われています。
SF-MPQ:MPQの短縮バージョン[4]:15の感覚と情動の記述子で構成されており、それぞれの強度を0(なし)から3(重度)で評価します。SF-MPQは、標準MPQと同様に治療による違いを示し、標準MPQと高い相関を持つことが確認されています。
日本語バージョンも開発されており、その信頼性、妥当性が認められています[5]。
痛みの客観的評価
機能的磁気共鳴画像法 (fMRI):侵害受容に対する中枢神経系の機能的変化を捉えるために使用されます。
有害刺激に対しては左視床、右前帯状皮質、両側前島皮質、左背後島皮質、有害な冷気に対しては前帯状皮質、扁桃体、有害な筋肉刺激に対しては後帯状皮質と前帯状皮質、楔前部、背外側前頭前野、小脳の活性化を引き起こす可能性が高いことが報告されています[6]。
脳波(EEG):脳皮質の自発的な同期したシナプス後神経活動を高い時間分解能で直接明らかにすることができる評価方法です。
両側の側頭部で記録された有害条件下のピークα波は、有害条件下で報告されたNPSと相関していることが報告されています[7]。
クリティカルケア疼痛観察ツール (CPOT):表情、体動、筋緊張、人工呼吸器の同調or発語の各項目を点数化して評価(点数が高いほど痛みが強い)。
侵襲的人工呼吸器装着患者の体位変換時の疼痛状況の評価に有用であることが報告されています[8]。
behavioral pain scale(BAD):表情、上肢の動き、人工呼吸器との同調の各項目を点数化して評価(点数が高いほど痛みが強い)。
ICU患者の疼痛評価として有用であることが報告されています[9]。
おわりに
痛みの評価は、患者の治療とQOL向上において不可欠な要素です。主観的評価と客観的評価の両方を効果的に活用することで、医療者はより正確な診断と適切な治療計画を立てることができます。NRSやface scaleといった主観的評価ツールは、患者の痛みの強度を迅速かつ簡便に把握するのに役立ちます。一方、fMRIやEEG、CPOT、BPSなどの客観的評価ツールは、痛みの生理的側面を理解するための貴重なデータを提供します。これらのツールを組み合わせて使用することで、個々の患者に最適な痛み管理が実現し、治療の効果を最大化することが可能です
参考文献
[1]
Hjermstad, et al. Studies comparing Numerical Rating Scales, Verbal Rating Scales, and Visual Analogue Scales for assessment of pain intensity in adults: a systematic literature review. J Pain Symptom Manage. 2011 Jun;41(6):1073-93.
[2]
McGrath, et al. Core outcome domains and measures for pediatric acute and chronic/recurrent pain clinical trials: PedIMMPACT recommendations. J Pain. 2008 Sep;9(9):771-83.
[3]
Melzack, et al. The McGill Pain Questionnaire: major properties and scoring methods. Pain. 1975 Sep;1(3):277-299.
[4]
Melzack, et al. The short-form McGill Pain Questionnaire. Pain. 1987 Aug;30(2):191-197.
[5]
Arimura, et al. Pain questionnaire development focusing on cross-cultural equivalence to the original questionnaire: the Japanese version of the Short-Form McGill Pain Questionnaire. Pain Med. 2012 Apr;13(4):541-51.
[6]
Duerden, et al. Localization of pain-related brain activation: a meta-analysis of neuroimaging data. Hum Brain Mapp. 2013 Jan;34(1):109-49.
[7]
Nir, et al. Pain assessment by continuous EEG: association between subjective perception of tonic pain and peak frequency of alpha oscillations during stimulation and at rest. Brain Res. 2010 Jul 16:1344:77-86.
[8]
Vázquez, et al. Pain assessment in turning procedures for patients with invasive mechanical ventilation. Nurs Crit Care. 2011 Jul-Aug;16(4):178-85.
[9]
Kotfis, et al. Methods of pain assessment in adult intensive care unit patients – Polish version of the CPOT (Critical Care Pain Observation Tool) and BPS (Behavioral Pain Scale). Anaesthesiol Intensive Ther. 2017;49(1):66-72.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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