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痛みを再考する④ 非薬物療法・運動療法

痛み、非薬物療法、運動療法|2024.8.30|最終更新:2024.8.30|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 非薬物療法には、TENSや超音波療法、温熱療法、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス瞑想などがあり、痛みの緩和やリラクゼーション効果が期待できる。
  • 運動療法は、エンドルフィンの分泌促進、筋力と柔軟性の向上、姿勢改善、精神的なリフレッシュを通じて、痛みの管理に効果的である。
  • 痛み管理には、薬物に頼らない様々な方法があり、非侵襲的かつ持続的な効果が得られるため、長期的な痛み管理に適している。
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序文

前回は痛みの神経生理学的メカニズムや化学的メディエーターについてまとめました。今回は痛みに対する非薬物療法と運動療法の効果についてまとめていきます。薬物療法は有効ですが、医療費の増大やポリファーマシーの問題があるため、非薬物療法の重要性はますます高まっています。特に運動療法は、単に痛みの軽減だけでなく、身体機能の改善、生活の質の向上、そして長期的な健康維持にも貢献します。非薬物療法が痛みの軽減や機能回復にどのように作用するかをまとめていきます。

非薬物療法

電気刺激療法(TENS)[1]

概要
経皮的電気神経刺激(TENS)は、小さな電極を皮膚に貼り付け、低周波の電気パルスを送る治療法です。

メカニズム
電気パルスは神経繊維を刺激し、痛み信号の伝達を妨げることで痛みを緩和します。また、末梢組織から中枢神経系への入力が下行抑制系を活性化し、エンドルフィン(自然鎮痛剤)の分泌を促進して痛覚過敏を軽減します。

適応症
慢性的な痛み(腰痛、肩こり、膝痛など)、急性の筋肉痛、術後の痛みなど。

利点
非侵襲的であり、副作用が少ないため、長期的な痛み管理に適しています。

超音波療法[2]

概要
超音波療法は、高周波の音波を利用して、深部組織に微細な振動を引き起こし、治癒を促進する治療法です。

メカニズム
超音波の波動は、細胞の微細な運動を促し、血流を改善し、組織の酸素供給を増加させます。また、細胞の修復過程を刺激し、炎症を軽減します。

適応症
筋肉や靭帯の損傷、腱炎、関節炎など。

利点
非侵襲的であり、深部組織に効果的に作用します。

温熱療法[3]

概要
温熱療法は、体の特定の部位を温めることで、痛みや筋肉の緊張を和らげる治療法です。

メカニズム
温熱は血管を拡張させ、血流を増加させます。これにより、酸素と栄養素の供給が向上し、老廃物の除去が促進されます。また、筋肉の弛緩を促し、痛みを緩和します。

適応症
筋肉のこりや緊張、関節炎、慢性的な腰痛や肩こりなど。

利点
簡便であり、日常生活でも取り入れやすい治療法です。

認知行動療法(CBT)[4]

概要
認知行動療法(CBT)は、患者の思考や行動のパターンを変えることで、痛みの認識や反応を改善する心理療法です。

メカニズム
痛みの認知や感情にアプローチし、否定的な思考パターンをポジティブに変えることで、痛みに対するストレス反応を減少させます。また、痛みによる行動制限を克服するためのスキルを提供します。

適応症
慢性的な痛み、不安、うつ症状など。

利点
薬物を使わずに痛みを管理でき、長期的な効果が期待できます。

マインドフルネス瞑想[5]

概要
マインドフルネス瞑想は、現在の瞬間に集中し、心身のリラクゼーションを促進する方法です。

メカニズム
深呼吸や瞑想により、心拍数や血圧が低下し、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が減少します。これにより、痛みの感受性が低下し、リラクゼーション効果が得られます。

適応症
慢性的な痛み、ストレス、不安、うつ症状など。

利点
薬物を使用せず、自己管理が可能であり、継続的な練習により効果が持続します。

運動療法[6]

エンドルフィンの分泌促進[7]

概要
運動によって脳内でエンドルフィンが分泌されます。エンドルフィンは、自然の鎮痛剤として働き、痛みを感じにくくする効果があります。

メカニズム
エンドルフィンは、脳内のオピオイド受容体に結合し、痛み信号の伝達を抑制します。これにより、痛みの認識が低下し、気分が高揚します。

筋力と柔軟性の向上[8]

概要
定期的な運動は筋力を増加させ、柔軟性を高めることで、痛みの原因となる負荷を軽減します。

メカニズム
筋力が強化されると、関節や骨にかかる負担が軽減され、正しい姿勢や動作を維持しやすくなります。また、柔軟性が向上することで、筋肉や関節の可動域が広がり、痛みの原因となる筋肉の緊張や硬直が緩和されます。

姿勢改善[9]

概要
運動は筋肉のバランスを改善し、正しい姿勢を維持するために必要な筋力を強化します。これにより、痛みの原因となる姿勢の乱れが解消されます。

メカニズム
特定の筋肉を強化し、ストレッチを行うことで、筋肉のアンバランスが解消され、正しい姿勢を維持できるようになります。これにより、痛みを引き起こす不均衡な負荷が軽減されます。

精神的なリフレッシュ[10]

概要
運動はストレスを軽減し、気分を改善する効果があります。これにより、痛みの感受性が低下し、痛みに対する耐性が向上します。

メカニズム
運動はストレスホルモン(コルチゾール)のレベルを低下させ、気分を高揚させる神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)の分泌を促進します。これにより、ストレスや不安が軽減され、痛みの感受性が低下します。

おわりに

今回は非薬物療法と運動療法についてまとめました。非薬物療法と運動療法は、薬物に頼らずに痛みを管理する効果的な方法です。これらの方法は非侵襲的で副作用が少なく、長期的な痛み管理に適しており、患者にとって持続的な効果が期待できます。適切な療法を選び、継続的に実施することで、痛みのない快適な生活を送ることが可能です。

参考文献

[1] Vance, et al. Using TENS for Pain Control: Update on the State of the Evidence. Medicina (Kaunas). 2022 Sep 22;58(10):1332.

[2] Papadopoulos, et al. The Role of Ultrasound Therapy in the Management of Musculoskeletal Soft Tissue Pain. Int J Low Extrem Wounds. 2020 Dec;19(4):350-358.

[3] Malanga, et al. Mechanisms and efficacy of heat and cold therapies for musculoskeletal injury. Postgrad Med. 2015 Jan;127(1):57-65.

[4] Ehde, et al. Cognitive-behavioral therapy for individuals with chronic pain: efficacy, innovations, and directions for research. Am Psychol. 2014 Feb-Mar;69(2):153-66.

[5] Zeidan, et al. Mindfulness meditation-based pain relief: a mechanistic account. Ann N Y Acad Sci. 2016 Jun;1373(1):114-27.

[6] Ambrose, et al. Physical exercise as non-pharmacological treatment of chronic pain: Why and when. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2015 Feb;29(1):120-30.

[7] Thorén, et al. Endorphins and exercise: physiological mechanisms and clinical implications. Med Sci Sports Exerc. 1990 Aug;22(4):417-28.

[8] Tseng, et al. Strength and aerobic training attenuate muscle wasting and improve resistance to the development of disability with aging. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1995 Nov:50 Spec No:113-9.

[9] Kim, et al. Effect of an exercise program for posture correction on musculoskeletal pain. J Phys Ther Sci. 2015 Jun;27(6):1791-4.

[10] Vaegter, et al. Endogenous Modulation of Pain: The Role of Exercise, Stress, and Cognitions in Humans. Clin J Pain. 2020 Mar;36(3):150-161.

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執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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