痛み、肩痛、運動|2024.10.11|最終更新:2024.10.11|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 肩痛の有病率は年齢とともに増加し、中年期でピークに達し、女性に多く見られることが多い
- 肩痛の原因には、回旋筋腱板障害や肩甲上腕骨関節炎、インピンジメント症候群などがある
- 運動療法が最も効果的であり、徒手療法の追加が推奨されていますが、物理療法の有効性は低い
序文
今回は肩関節痛の概要から介入方法についてまとめていきます。肩関節痛は、整形外科やリハビリテーション領域において非常に一般的な症状の一つです。患者の生活の質を著しく低下させる原因となり、適切な診断と治療が求められます。しかし、肩関節の解剖学的構造や機能は複雑であり、原因の特定が難しい場合も少なくありません。肩関節痛の理解を深めることで、より効果的な介入ができるようになると思います。
肩痛の概要
疫学[1]
有病率:全体16%(0.67〜 55.2%)。プライマリケア2.36%(1.01~4.84%)。
年間発生率:37.8/1000人(7.7〜62件)。
リスク因子
年齢: 有病率は年齢とともに増加し、中年期 (45~64 歳) でピークに達する。
性別: 男性よりも女性に多い。
職業: 反復動作、頭上での作業、振動などの身体的要因。
心理社会的要因: ストレス、仕事への満足度の低さ、社会的支援の不足はリスクの増加と関連。
その他の要因: 遺伝、生活習慣要因 (喫煙、アルコール)、併存疾患、睡眠障害など。
肩痛の原因組織[2]
回旋筋腱板障害 (約10%):繰り返しの動作や外傷によって、腱板筋が炎症や断裂をお越して生じる。
癒着性関節包炎 (五十肩) (約6%):肩関節を包む関節包が炎症を起こし、癒着することで関節の動きが制限される。
肩甲上腕骨関節炎(約2~5%):肩関節の関節軟骨が変性し、痛みや可動域制限が生じる。
インピンジメント症候群:上肢挙上時に上腕骨頭が肩峰や肩峰下靭帯と衝突し、腱板や滑液包を挟み込むことで痛みや炎症が生じる。
上腕二頭筋腱障害:上腕二頭筋の長頭腱が、肩関節の中で繰り返しの摩擦を受けることで炎症や断裂が生じる。
関節唇病変:肩関節の安定性を保つための軟骨組織である関節唇が、外傷や繰り返しの運動によって損傷される。
肩鎖関節障害:外傷や繰り返しの運動によって肩の先端にある肩鎖関節が不安定になる状態。
肩痛への介入
肩痛患者への介入に関するメタ解析では、治療運動が最も痛みや機能障害の改善に有効であることが報告されています[3]。
肩痛を有する労働者を対象に、運動と人間工学的介入の効果を調査したメタ解析では、肩の痛み>3/10の労働者に対する運動介入ではMCIDを越える効果を示したが、痛み<3/10の労働者では差がなかったことが報告されています[4]。
肩峰下痛に対する保存療法の効果を調査したシステマティックレビューでは、運動療法が強く推奨され、徒手療法は追加治療として強く推奨、レーザー療法、体外衝撃波療法、パルス電磁エネルギー、超音波などの物理療法は有効性が認められなかったことが報告されています[5]。
肩峰下疼痛症候群患者21名を対象に、通常介入に回旋筋腱板の高強度有酸素インターバルトレーニング(HIIT)を行った際の効果を調査したところ、HIIT介入を追加することで肩の痛みと障害指数がより改善したことが報告されています[6]。
凍結肩患者40名を対象に、神経筋運動介入の効果を調査したところ、痛みと肩の屈曲、内旋、外旋の自動可動域の改善に有効であることが報告されています[7]。
おわりに
今回は肩関節痛についてまとめました。肩関節痛は肩の構造的および機能的な複雑さにより、原因の特定が難しいこともありますが、しっかりとした臨床的評価と最新のエビデンスに基づいたアプローチを駆使することで、適切なケアが可能となります。
参考文献
[1]
Lucas, et al. A systematic review of the global prevalence and incidence of shoulder pain. BMC Musculoskelet Disord. 2022 Dec 8;23(1):1073.
[2]
Meislin, et al. Persistent shoulder pain: epidemiology, pathophysiology, and diagnosis. Am J Orthop (Belle Mead NJ). 2005 Dec;34(12 Suppl):5-9.
[3]
Marinko, et al. The effectiveness of therapeutic exercise for painful shoulder conditions: a meta-analysis. J Shoulder Elbow Surg. 2011 Dec;20(8):1351-9.
[4]
Picón, et al. Effects of Workplace-Based Intervention for Shoulder Pain: A Systematic Review and Meta-analysis. J Occup Rehabil. 2021 Jun;31(2):243-262.
[5]
Pieters, et al. An Update of Systematic Reviews Examining the Effectiveness of Conservative Physical Therapy Interventions for Subacromial Shoulder Pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2020 Mar;50(3):131-141.
[6]
Berg, et al. High-Intensity Shoulder Abduction Exercise in Subacromial Pain Syndrome. Med Sci Sports Exerc. 2021 Jan;53(1):1-9.
[7]
Wang, et al. Positive effects of neuromuscular exercises on pain and active range of motion in idiopathic frozen shoulder: a randomized controlled trial. BMC Musculoskelet Disord. 2023 Jan 20;24(1):50.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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