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生活期を支える 転倒⑦ 排尿障害

転倒、 転倒予防、排尿障害|2024.7.5|最終更新:2024.7.5|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 排尿障害は転倒リスクを高める
  • 尿失禁は対象者によって関連性は異なる
  • 骨盤底筋トレーニングは尿失禁や転倒予防に有効
3分で読めるよ

序文

前回は変形性股関節症患者の転倒についてまとめました。今回は排尿障害についてまとめます。排尿障害は生活の質に大きな影響を与えるだけでなく、転倒リスクの増加にも関与しています。特に高齢者において、尿失禁や頻尿といった下部尿路症状は、夜間のトイレへの移動や急な動作を伴うため、転倒の危険性を高める要因となります。医療者として、排尿障害を持つ患者の転倒リスクを的確に評価し、適切な予防策を講じることは、患者の安全と生活の質向上に重要です。

排尿障害の転倒リスク

入院患者の転倒リスク評価ツールに下部尿路症状がどれくらい含まれているかを調査したレビュー論文では、入院患者を対象とした転倒リスクスケール11個のうち9個に下部尿路症状が含まれており、頻尿、尿失禁、夜間頻尿が主に含まれている症状だったことが報告されています[1]。

高齢入院患者284人を対象に、転倒リスクを高める因子を調査したところ、尿失禁が転倒リスクの高さと有意に関連していたことが報告されています[2]。

転倒を経験した入院患者185人を対象に、転倒に関連する因子を調査したところ、尿失禁のオッズ比は8.47だったことが報告されています[3]。

在宅サービスを受けている高齢者30人を対象に、3か月以内の転倒発生に関連する因子を調査したところ、尿失禁が転倒発生と関連した因子であることが報告されています[4]。

65歳以上の地域在住高齢者5989人を対象に、2年ごと計4回の追跡期間中の骨折リスクに関連する因子を調査したところ、下部尿路症状と骨折リスクとの間には有意な関連は認められなかったことが報告されています[5]。

高齢認知症患者159人を対象に、転倒に関連する因子を調査したところ、尿失禁が転倒の唯一の独立した関連因子だったことが報告されています[6]。

以上をまとめますと、転倒リスクに対して頻尿、尿失禁、夜間頻尿といった下部尿路症状が重要な要素として含まれています。特に尿失禁は転倒リスクの高さと有意に関連しており、オッズ比は8.47と高い値を示しています。また、在宅高齢者や認知症患者でも尿失禁が転倒リスクの独立した因子として認識されています。一方で、地域在住高齢者における長期的な骨折リスクには下部尿路症状との有意な関連は見られませんでした。これらの結果から、排尿障害は特に入院患者や高齢者の転倒リスクを高める重要な因子であることが示唆されます。

排尿障害の転倒リスクへの介入

尿失禁を有する高齢女性の転倒予防についてのレビュー論文では、筋力およびバランストレーニング、家庭内環境の調整が転倒予防に有効であることが報告されています[7]。

尿失禁を有する女性を対象に、尿失禁の改善に有効な方法を調査したシステマティックレビューでは、骨盤底筋トレーニングまたは骨盤底筋トレーニング+バイオフィードバック介入が尿失禁の改善に有効だったことが報告されています[8]。

切迫性尿失禁を有する高齢者88人を対象に、30分×週2回×12週間の二重課題+骨盤底筋トレーニングの効果を調査したところ、介入群の方がバランス能力、歩行能力、転倒リスク、転倒恐怖が改善したことが報告されています[9]。

転倒により大腿骨近位部骨折受傷した高齢患者109人を対象に、排尿習慣訓練の効果を調査したところ、介入によって尿失禁の発生率が減少することが報告されています[10]。

以上をまとめますと、排尿障害を持つ高齢者に対する転倒予防には、包括的なアプローチが求められます。筋力とバランストレーニング、家庭環境の調整が転倒予防に効果的であることが示されています。特に、骨盤底筋トレーニングやバイオフィードバックを併用することで、尿失禁の改善が期待され、日常生活の安定性が向上します。切迫性尿失禁を持つ高齢者に対する運動介入では、バランス能力や歩行能力の向上が確認され、転倒リスクと転倒恐怖の軽減にもつながります。さらに、排尿習慣訓練は尿失禁の発生率を減少させ、転倒リスク管理において重要な役割を果たします。これらの介入策は、排尿障害患者の安全で質の高い生活の確保に寄与します。

おわりに

今回は排尿障害の転倒リスクと予防についてまとめました。排尿障害を抱える高齢者の転倒リスクを軽減するためには、筋力およびバランストレーニング、家庭環境の調整、骨盤底筋トレーニングなどの包括的な介入が必要です。これらの介入は、尿失禁の改善を通じて日常生活の安定性を向上させるだけでなく、患者の転倒恐怖を軽減し、バランス能力や歩行能力の向上にも寄与します。排尿障害を持つ患者に対する適切な転倒予防策を講じることは、患者の安全と生活の質向上につながります。

参考文献

[1] Roggeman, et al. The role of lower urinary tract symptoms in fall risk assessment tools in hospitals: a review. F1000Res. 2020 Apr 3:9:F1000 Faculty Rev-236.

[2] Falcão, et al. Risk of falls in hospitalized elderly people. Rev Gaucha Enferm. 2019;40(spe):e20180266.

[3] Najafpour, et al. Risk Factors for Falls in Hospital In-Patients: A Prospective Nested Case Control Study. Int J Health Policy Manag. 2019 May 1;8(5):300-306.

[4] Solis, et al. Examining Fall Recurrence Risk of Homebound Hispanic Older Adults Receiving Home Care Services. Hisp Health Care Int. 2017 Mar;15(1):20-26.

[5] Marshall. et al. Lower Urinary Tract Symptoms and Risk of Nonspine Fractures among Older Community Dwelling U.S. Men. J Urol. 2016 Jul;196(1):166-72.

[6] Lee, et al. Urinary incontinence: an under-recognized risk factor for falls among elderly dementia patients. Neurourol Urodyn. 2011 Sep;30(7):1286-90.

[7] Reaves, et al. Reducing Falls in Older Women with Urinary Incontinence. Adv Geriatr Med Res. 2023;5(4):e230011.

[8] Alouini, et al. Pelvic Floor Muscle Training for Urinary Incontinence with or without Biofeedback or Electrostimulation in Women: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2022 Feb 27;19(5):2789.

[9] Mihaľová, et al. Pelvic floor muscle training, the risk of falls and urgency urinary incontinence in older women. Z Gerontol Geriatr. 2022 Feb;55(1):51-60.

[10] Córcoles-Jiménez, et al. Preventing Functional Urinary Incontinence in Hip-Fractured Older Adults Through Patient Education: A Randomized Controlled Trial. J Appl Gerontol. 2021 Aug;40(8):890-901.

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執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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