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包括的な摂食嚥下のリスクをチェック!質問紙やチャートによる評価方法3選【嚥下理学療法⑫】

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評価聖隷式嚥下質問紙KTバランスチャート|2023.5.5|最終更新:2023.5.5|理学療法士が執筆・監修しています

包括的な摂食嚥下のリスク評価

前回は様々な側面のフレイルについてまとめました。

 

今回は、摂食嚥下障害のリスクを包括的に評価することができるツールをご紹介いたします。

 

いずれの評価も、誰でも簡単に行える評価になっていますが、あくまでリスクの有無の評価なので、介入する際にはより詳細な評価が必要となることを予め認識しておいてください。

本記事でわかること

✅ EAT-10は短時間でリスクを判定できる。

✅ 聖隷式嚥下質問紙は、感度、特異度が高い質問紙評価。

✅ KTバランスチャートは、対象者の全体像を把握するのに有用。

 

EAT-10[1]による評価と特徴

 

Eating Assessment Tool-10(EAT-10)は、2008年にBelafskyらが開発した質問紙です。


食べ物や飲み物の摂取、喉のつかえ感、嚥下の問題などを「0点:問題なし」から「4点:非常に問題あり」の5段階で評価します。

 

嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で評価した嚥下障害に対して、カットオフ値3点とした場合に感度85%、特異度82%と信頼性が高い質問紙となっています[2]。

 

 評価内容とカットオフ値

1 飲み込みの問題で体重が減少した 0:問題なしー4:非常に問題あり
2 飲み込みの問題が、外食に行くための障害になっている 0:問題なしー4:非常に問題あり
3 液体を飲み込む時に、余分な努力が必要だ 0:問題なしー4:非常に問題あり
4 固形物を飲み込む時に、余分な努力が必要だ 0:問題なしー4:非常に問題あり
5 錠剤を飲み込む時に、余分な努力が必要だ 0:問題なしー4:非常に問題あり
6 飲み込むことが苦痛だ 0:問題なしー4:非常に問題あり
7 食べる喜びが飲み込みによって影響を受けている 0:問題なしー4:非常に問題あり
8 飲み込む時に、食べ物がのどに引っかかる 0:問題なしー4:非常に問題あり
9 食べる時に咳が出る 0:問題なしー4:非常に問題あり
10 飲み込むことはストレスだ 0:問題なしー4:非常に問題あり

カットオフ値:

  • 3点以上:摂食嚥下機能の問題を認める可能性が高い。

 

聖隷式嚥下質問紙[3]による評価と特徴

 

聖隷式嚥下質問紙は15項目から構成され、肺炎の既往、栄養状態、口腔・咽頭・食道機能、声門防御機能などが反映された構造となっています。

ここ2、3年の嚥下の状態について「A:重い症状、頻度の多い症状」「B:軽い症状、頻度が少ない症状」「C:症状なし」の3段階で評価します。

「A」は実際に日常生活に支障がある状態、「B」は気になる程度という基準で問診を行います。


嚥下造影検査で評価した嚥下障害の有無に対して、感度92%、特異度90.1%と信頼性が高い質問紙となっています。

 

 評価内容と評価基準

 

1 肺炎と診断されたことがありますか? A:繰り返す

B:一度だけ

C:なし

2 痩せてきましたか? A:明らかに

B:わずかに

C:なし

3 飲み込みにくいと感じることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

4 食事中にむせることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

5 お茶を飲むときに、むせることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

6 食事中、食後、それ以外にも、喉がゴロゴロ(痰がからんだ感じ)することがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

7 のどに食べ物が残る感じがすることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

8 食べるのが遅くなりましたか? A:たいへん

B:わずかに

C:なし

9 硬いものが食べにくくなりましたか? A:たいへん

B:わずかに

C:なし

10 口から食べ物がこぼれることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

11 口の中に食べ物が残ることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

12 食物や酸っぱい液が胃からのどに戻ってくることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

13 胸に食べ物が残ったり、つまった感じがすることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

14 夜、咳で眠れなかったり、目覚めることがありますか? A:しばしば

B:時々

C:なし

15 声がかすれてきましたか? A:たいへん

B:わずかに

C:なし

判定基準

「A:重い症状=4点」 「B:軽い症状=1点」「C:症状なし=0点」

  • 8点以上:摂食嚥下障害の疑いあり

KTバランスチャート[4]による評価と特徴

KTバランスチャート(KTBC)は2015年に小山らにより作成された包括的な評価ツールです。


KTBCは、対象者の弱みを補いながら、可能性や強みを引き出す支援スキルとケアリングが内包され、多職種連携による治療・ケア・リハビリテーションを展開していくための視覚的共通言語として活用できるように作られています。

 

それぞれの13項目を評価指標に沿って1〜5点でスコア化し、レーダーチャートを作成するのが特徴的です。


全体像が視覚的に示されるため、どの職種、当事者、家族でも何が不足していて、どう変化していっているのかがわかりやすくなっています

 

信頼性や妥当性についても検証され、臨床で用いるのに適している評価ツールとなっています[5]。
点数自体の意味よりも、各点数がその方の食べることにどのように影響しているか、どこに着目してアプローチすれば良いかの指標となることに意味があります。

 評価内容と判定基準

1 食べる意欲 1:促しや援助しても食べようとしない

2:促しや援助で少し食べる

3:促しや援助で半量食べる

4:促しや援助でほとんど食べる

5:介助の有無に関わらず食べようとする,食べたいと意思表示する

2 全身状態 1:(全般)発熱があり,意識レベルは不良

2:(急性期)何らかの急性疾患による発熱はあるが37.5℃以下に解熱するときがある。もしくは意識レベ ルが概ね良好 

(回復期・生活期)発熱があり,たびたび治療が必要となる

3:(急性期)3日以上37.5℃以下で意識状態が概ね良好

(回復期・生活期)1 カ月に1-2回37.5℃以上の発熱があり,治療を要することがある

4:(急性期)7日以上発熱はなく,意識レベルは概ね良好

(回復期・生活期)1カ月に1-2回37.5℃以上の発熱があるが,とくに治療をしなくても解熱する

5:発熱はなく,意識レベルは良好

3 呼吸状態 1:絶えず痰貯留があり、1日10回以上の吸引が必要

2:痰貯留があり,1日5-9回の吸引が必要

3:痰貯留があり,1日5回未満の吸引が必要

4:痰貯留があるが,自力で喀出が可能

5:痰貯留や湿性嗄声がない

4 口腔状態 1:口腔衛生が著しく不良で,歯や義歯に歯科治療が必要

2:口腔衛生が不良で,歯や義歯に歯科治療が必要

3:口腔衛生は改善しているが,歯や義歯の治療は必要

4:口腔衛生は良好だが,歯や義歯の治療は必要

5:口腔衛生は良好で,歯や義歯の治療は必要としない

5 認知機能 1:食事中の認知機能が著しく低く,覚醒レベルも低く,全介助が必要

2:食事中の認知機能が低く,全介助が必要

3:食事中の認知機能が低く,一部介助が必要

4:食事中の認知機能は概ね保たれているが,介助を必要とすることがある

5:食事中の認知機能は良好で,介助なしで食事摂取可能

6 咀嚼・送り込み 1:食べるための口・舌・頬・あごの動きのすべてがかなり困難

2:食べるための口・舌・頬・あごの動きのいずれかがかなり困難

3:食べるための口・舌・頬・あごの動きのいずれかが困難だが,何らかの対処法で対応できる

4:食べるための口・舌・頬・あごの動きのいずれも概ね良好

5:食べるための口・舌・頬・あごの動きのすべてが良好

7 嚥下 1:嚥下できない,頻回のむせ,呼吸促迫,重度の誤嚥

2:嚥下は可能だが,むせや咽頭残留,呼吸変化を伴う

3:嚥下は可能だが,むせ・咽頭残留・複数回嚥下・湿性嗄声のいずれかを伴うが,呼吸変化はなし

4:嚥下可能で,むせはない,咽頭残留はあるかもしれないが,処理可能,良好な呼吸

5:嚥下可能で,むせ・咽頭残留はなく,良好な呼吸

8 姿勢・耐久性 1:ベッド上で食事の姿勢保持が困難,あるいはベッド上ですべての食事をしている

2:リクライニング車いすで食事の姿勢保持が困難で,かなりの介助が必要

3:介助によりリクライニング車いすで食事の姿勢保持が可能

4:介助により普通型車いすで食事の姿勢保持が可能

5:介助なしで普通の椅子で食事の姿勢保持が可能

9 食事動作 1:すべての食物を皿から自分の口に運び、咀嚼嚥下する食事動作に相当の介助が必要。自力では食事動作の25%未満しかできない、あるいは経管栄養

2:介助が必要。自力で食事動作の25%以上50%未満を行う

3:一部介助が必要。自力で食事動作の50%以上を行う

4:食事動作に間接的な介助のみ(準備や見守り)が必要で、自立している。(食事時間が長くかかる症例も 含める)

5:食事動作が完全に自立している。(自助具を使用する場合も含む)

10 活動 1:寝たきり,ベッドからの移乗・トイレ・食事・更衣などすべてに介助が必要

2:介助で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能だが,めったに外出はしない

3:介助で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能。さらに介助でよく外出する

4:自力で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能だが,めったに外出はしない

5:自力で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能。1人で外出が可能,あるいは介助でよ く外出する

11 摂食状況レベル 1:人工栄養のみ,もしくは間接嚥下訓練のみ

2:少量の経口摂取は可能(直接嚥下訓練含む)だが,主に人工栄養に依存

3:半分以上が経口摂取で,補助的に人工栄養を使用

4:形態を変えた食事や飲料を経口摂取,人工栄養は使用しない

5:形態を変えずに食事や飲料を経口摂取,人工栄養は使用しない

12 食物形態 1:口からは何も食べていない

2:ゼリーやムース食を主に食べる

3:ペースト食を主に食べる

4:咀嚼食を主に食べる

5:普通食を主に食べる

13 栄養状態 1:栄養状態がとても悪い

2:栄養状態が悪い

3:栄養状態が悪くない

4:栄養状態が良い

5:栄養状態がとても良い

※各段階の判定

3ヵ月の体重減少の有無と BMI で総合評価する。

3ヵ月の体重変化

3 ヵ月の体重減少5%以上:0 点

3 ヵ月の体重減少3%以上 5 %未満:1 点

3 ヵ月の体重減少3%未満 or 不明:2点

3ヵ月の体重減少なし:3 点

BMI

BMI18.5未満,不明:0 点

BMI18.5-20,BMI30以上:1 点

BMI20.1-29.9:2 点

総点数

合計0, 1点:栄養状態がとても悪い

合計2点:栄養状態が悪い

合計3点:栄養状態が悪くない

合計4点:栄養状態が良い

合計5点:栄養状態がとても良い

判定基準:

点数による基準は示されていません。

おわりに

 今回は、包括的な評価が行えるツールを紹介しました。包括的な評価は全体像を把握することには適していますが、摂食嚥下障害を100%検出できるわけではなく、実際にどこにどのような障害が存在しているかについては詳細な検査が必要になります。それぞれの評価の特徴を理解した上で使用することが大切です。

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参考文献

[1] Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 117(12):919-24, 2008.

[2] Zhang PP, Yuan Y, Lu DZ, et la, Dysphagia. Diagnostic Accuracy of the Eating Assessment Tool-10 (EAT-10) in Screening Dysphagia: A Systematic Review and Meta-Analysis. 2023 Feb;38(1):145-158.

[3] 中野雅德,藤島一郎他:スコア化による聖隷式嚥下質問紙評価法の検討 日摂食嚥下リハ会誌24(3):240-246,2020

[4] 小山珠美編集:口から食べる幸せをサポートするための包括的スキル-KTバランスチャートの活用と支援第2版-,医学書院,2017.

[5] Maeda K, Shamoto H, Wakabayashi H, et al. Reliability and Validity of a Simplified Comprehensive Assessment Tool for Feeding Support: Kuchi‐Kara Taberu Index. Journal of the American Geriatrics Society. 2016 Dec;64(12):e248-e252.