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オーラルフレイル、社会的フレイル、フレイル|2023.4.28|最終更新:2023.4.28|理学療法士が執筆・監修しています
オーラルフレイル・社会フレイル・精神心理的フレイル
前回は、摂食嚥下とも関連が深いサルコペニアとフレイルの評価方法についてまとめました。今回は、フレイルの身体面以外の側面である口腔、社会、精神心理面のフレイルについてみていきます。後述しますが、いずれも摂食嚥下障害に関係してきますので、評価を行うことが大切です。
✅ 口腔機能が低下すると、食べる能力が低下する ✅ 社会とのつながりが減っても食べる機能は低下する ✅ 精神面、認知面が低下すると、食べる意欲が低下する |
オーラルフレイル
オーラルフレイルは滑舌低下、食べこぼし、むせやすくなる、かめない食品が増える、口の乾燥などの口腔機能全般が低下している状態を表し、フレイルに関連する老化現象の一つとされています。
オーラルフレイルでみられる口腔機能の低下は、摂食嚥下機能にも影響を及ぼします。開口や閉口範囲の制限、歯の減少、咀嚼や舌機能の低下、口腔乾燥などがあれば、食べることができる食物や食形態が制限され、食欲も低下してしまいます。また、食べることに時間がかかることで食べている間に疲れてしまい、食べる量が減ってしまいます。食べる量が減ってしまえば、栄養不良となるため、筋力や身体機能が低下し、身体機能のみならず、摂食嚥下機能の低下も進行してしまいます。
このように、オーラルフレイルは摂食嚥下にも深く関わっており、全体的なフレイルの悪化の危険因子にもなるため、早期からの評価・介入が必要になります。
評価方法[1]:
オーラルフレイルの評価方法については、現在様々な評価指標が用いられており、統一したものはありません。ここでは、東京大学の研究で用いられた指標をご紹介いたします。
- 残歯数
歯科衛生士がZsigmondy-Palmer法を用いて評価。
判定:20本未満
- 咀嚼能力
噛むと緑から赤に変化する色変わりチューインガム(XYLITOL:ロッテ、東京)を用いて測定しました。参加者は、食べ物を噛むのと同じ要領で60秒間ガムを噛むように指示された。ガムの赤色光発色を色差計(Color Reader CR-13; KONICA MINOLTA, Tokyo, Japan)を用いて評価しました。
判定:<Q1/5: M, 14.2; W, 10.8
- 口腔運動機能(「た」)
口腔内ジアドキネシス(「パ」「タ」「カ」)が用いられた(7)。参加者は、各音節を5秒間、できるだけ速く繰り返し発声するよう求められた。音節は、唇、舌先、舌背の3つの主要な調音器官を評価することができる。咬合回数はデジタルカウンター(T.K.K.3350 digital counter; Takei Scientific Instruments, Ltd., Niigata, Japan)を用いて測定し、口腔内ジアドキネシスは各音節ごとに1秒あたりの咬合回数として算出した。
判定:<Q1/5: M, 5.2; W, 5.4
- 舌圧
舌圧は、手持ちの風船プローブとマノメーター(JMS舌圧測定器;GC、東京、日本)を用いて測定した(8)。参加者は、風船を口蓋の前方部に置き、舌を上げて風船を口蓋にできるだけ強く押し付けるように指示された。
判定:<Q1/5: M, 27.4; W, 26.5
- かたいものを食べるときの主観的困難
判定:食べにくさを感じる。
- お茶やスープなど液体を飲み込むときの主観的困難
判定:飲み込みにくさを感じる。
評価基準:
- 1−2項目に該当:プレオーラルフレイル
- 3項目以上該当:オーラルフレイル
社会的フレイル
社会的フレイルには孤食、社会的孤立、閉じこもりといった社会とのつながりが減ることが含まれています。社会的フレイルは他の身体、認知、精神心理的フレイルよりも先行して生じると考えられています[2]。社会的フレイルの状態では、他者との交流が減少するため、会話の機会の減少や食べる意欲の低下につながります。また、外出する機会が減少するため全身の身体機能の低下にもつながります。会話が減ることで口腔機能が低下します。食べる意欲の低下は栄養状態の悪化につながります。口腔機能や栄養状態の低下、身体機能の低下は、嚥下機能の低下にもつながります。つまり、摂食嚥下障害を有する人では、その上流に社会的フレイルが影響を及ぼしている可能性があるので、摂食嚥下においても社会的フレイルの評価は必要になってきます。
評価方法[3]:
上述のように、社会的フレイルの評価指標は統一されていません。ここでは、日本の地域在住高齢者を対象とした研究で用いられたMakizakoらの評価指標をご紹介いたします。
- 外出頻度が減った
- 友人を訪れることがない
- 友人や家族の役に立っている気がしない
- 独居
- 誰とも話さない日がある
判定基準:
2項目以上該当:社会的フレイル
精神心理的フレイル
精神心理症状もまた、摂食嚥下に影響を与える要因の1つです。例えば、認知機能が低下すれば、食物認知が低下し、食べる行為が阻害される可能性があります。また、抑うつ症状があれば、食欲が低下し、栄養状態が悪化する危険性があります。さらに、不安や緊張状態が強くなると、食べる行為にも不安や緊張を抱くようになり、摂食嚥下が阻害される可能性もあります。加えて、精神心理症状を有する人に処方される抗うつ薬や抗不安薬といった精神心理系の薬剤は、覚醒状態の低下や口腔乾燥など摂食嚥下に影響を与える副作用が生じる危険性が高いため、内服薬の確認も大切になります。
精神心理的フレイルには、まだ明確な定義は存在していません。先行研究では、認知機能の低下や抑うつ症状、不安などの精神心理的症状と身体的フレイルが併存している状態を精神心理的フレイルの状態だとしている報告が多いです。
評価方法[4]:精神心理的フレイル
先述の通り、精神心理的フレイルにはまだ明確な定義はありません。ここでは、Shimadaらが行った精神心理的フレイルの調査で用いられた評価方法を紹介します。
身体的フレイル+抑うつ状態=精神心理的フレイル
- 身体的フレイル(表現型モデル)
歩行速度低下 | 2.4mの歩行路+スタートとゴールの前後に2m。
判定基準:<1.0m/秒 |
筋力低下(握力) | スメドレー型握力計使用。
カットオフ:男性<26kg、女性<17kg |
疲労感 | 「最近2週間で、理由もなく疲れを感じたことがありますか?」
判定基準:「はい」と回答。 |
身体活動低下 | 「健康のために中等度レベルの身体活動やスポーツをしていますか?」
「健康のために低レベルの身体運動をしていますか?」 判定基準:両方「いいえ」 |
体重減少 | 「過去6ヶ月間に2kg以上体重が減少しましたか?」
判定基準:「はい」 |
- 抑うつ状態(GDS-15)
1 | 毎日の生活に満足していますか? | はい:0点
いいえ:1点 |
2 | 毎日の活動力や周囲に対する興味が低下したと思いますか? | はい:1点
いいえ:0点 |
3 | 生活が空虚だと思いますか? | はい:1点
いいえ:0点 |
4 | 毎日が退屈だと思うことが多いですか? | はい:1点
いいえ:0点 |
5 | 大抵は機嫌よく過ごすことが多いですか? | はい:0点
いいえ:1点 |
6 | 将来の漠然とした不安に駆られることが多いですか? | はい:1点
いいえ:0点 |
7 | 多くの場合は自分が幸福だと思いますか? | はい:0点
いいえ:1点 |
8 | 自分が無力だなと思うことが多いですか? | はい:1点
いいえ:0点 |
9 | 外出したり何か新しいことをするより、家に痛いと思いますか? | はい:1点
いいえ:0点 |
10 | 何よりもまず、物忘れが気になりますか? | はい:1点
いいえ:0点 |
11 | いま生きていることが素晴らしいと思いますか? | はい:0点
いいえ:1点 |
12 | 生きていても仕方がないと思う気持ちになることがありますか? | はい:1点
いいえ:0点 |
13 | 自分が活気に溢れていると思いますか? | はい:0点
いいえ:1点 |
14 | 希望がないと思うことがありますか? | はい:1点
いいえ:0点 |
15 | 周りの人があなたより幸せそうに見えますか? | はい:1点
いいえ:0点 |
判定基準:
- 5点以上:うつ傾向
- 10点以上:うつ状態
評価方法[5]:認知的フレイル
認知的フレイルは、精神心理的フレイルの1つと考えられることもあれば、独立した状態と考えられることもあり、その位置付けはまだ明確になっていません。認知機能が低下すると、食事や飲み物を正しく認識することができず、飲食行動が生じない、あるいは不適切な行動が生じるようになります(先行期の障害)。また、口腔内に食べ物や飲み物を入れても、口腔内を知覚することが難しくなり、咀嚼や嚥下反射が生じにくくなります(準備期、口腔期の障害)。さらに、食事に注意を向け続けることが難しくなることで嚥下のタイミングがズレてしまい、誤嚥のリスクが高くなります。このように、認知機能と摂食嚥下にも関連性があるため、摂食嚥下を考える際には認知機能についても考慮する必要があります。認知的フレイルには、まだ明確な定義はありませんが、以下のような定義で調査をされていることが多いです。
認知機能低下+身体的フレイル
- 認知機能低下:Mini Mental State Examination(MMSE)、Montoreal Cognitive Assessment(MoCA)、Clinical Dementia Rating(CDR)など。
- 身体的フレイル:Fried基準
おわりに
今回は、摂食嚥下に関連する状態として、フレイルのサブタイプについてまとめました。フレイルはいずれの側面においても摂食嚥下に影響を及ぼすため、評価を行い、適切なタイミングで十分な介入を行う必要があります。
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地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7
— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
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参考文献
[1] Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, et al: Oral frailty as a risk factor for physical frailty and mortality in community-dwelling elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2018; 73(12): 1661-7.
[2] Tanaka T, Takahashi K, Suthutvoravut U, et al: Social frailty: A most important risk factor of frailty and sarcopenia in community-dwelling elderly. Innovation in Aging 2017; 1(S1): 381-382.
[3] Makizako H, Shimada H, Tsutsumimoto K, et al: Social frailty in community-dwelling older adults as a risk factor for disability. J Am Med Dir Assoc 2015; 16: 1003.e7-1003.e11.
[4] Shimada H, Lee S, Doi T, et al: Prevalence of psychological frailty in Japan: NCGG-SGS as a Japanese national cohort study. J Clin Med 2019; 8(10): 1554.
[5] Li X, Zhang Y, et al. Exercise interventions for older people with cognitive frailty-a scoping review. BMC Geriatr. 2022 Sep 1;22(1):721