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姿勢と上肢機能が大事?嚥下理学療法のポイント① 

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姿勢体幹上肢機能|2023.5.12|最終更新:2023.5.12|理学療法士が執筆・監修しています

序文

前回までは主に嚥下理学療法に必要な評価についてまとめてきました。今回からは、主に姿勢を中心に、実際の食事場面での観察のポイントと介入例についてまとめていきます。

本記事でわかること

✅ 食事前の座位姿勢の良し悪しで、円滑な摂食嚥下が可能かが左右される

✅ 体幹が安定し上肢機能が十分に発揮できないと、食べ物を口に運ぶことはできない

✅ 食べ物を噛んでいる最中も姿勢の影響を受ける。

 

姿勢と嚥下の関係性

 

摂食嚥下を円滑に行うためには、筋活動や姿勢で生じる圧力と重力が重要となります。以前、嚥下関連筋群についてまとめましたが、嚥下関連筋群は下顎骨、舌骨、甲状軟骨、胸骨、鎖骨、肩甲骨など、複数の骨に付着しており、その筋肉の数も多くなっています。摂食嚥下を行う際には、これらの筋肉がタイミング良く協調して働く必要があります。嚥下関連筋群は体幹の骨にも付着しているため、姿勢が変化すると姿勢を制御するために活動するようになり、筋緊張が高くなります。嚥下関連筋群が姿勢制御のために働くようになると、摂食嚥下の際に協調した活動が阻害されてしまいます。

食事を始める前に、安全に食事ができる姿勢かどうかを確認する必要があります。以下に、主な観察のポイントと介入のポイントをまとめます。

 

観察ポイント 介入ポイント
正面 頭部は水平位か。
(姿勢反射は適切に機能しているか)
  • 筋緊張異常などで頸部の可動域に制限があれば、ストレッチ等で可動性を改善する。
  • 座位バランス練習等で、頭頸部の立ち直り反応の練習を行う。
肩甲骨や骨盤は水平位か。
  • 徒手的に水平位に誘導し、修正可能かを評価する。
  • 修正可能:その状態を維持できるような座位練習や下垂側の肩甲骨・骨盤を支えるようにタオルなどで姿勢調整を行う。
  • 修正不可:肩甲骨や脊椎の可動域運動を行い修正可能な状態にする。修正可能となったら、上記介入を行う。
  • それでも修正が難しい場合には、シーティングで姿勢調整を行う。
体幹は正中位か。
(側屈、側弯、回旋はないか)
  • 徒手的に正中位に誘導し、修正可能かを評価する。
  • 修正可能:その状態を維持できるような座位練習や体幹を正中位に誘導するようにタオルなどで姿勢調整を行う。
  • 修正不可:脊椎の可動域運動を行い修正可能な状態にする。修正可能となったら、上記介入を行う。
  • それでも修正が難しい場合には、シーティングで姿勢調整を行う。
側面 骨盤が後傾し、仙骨座りになっていないか。
  • 前滑りが生じている場合には、大腿部に縦長に丸めたタオルを挿入する、滑り止めシートをしく、座面角度を後方に傾けるなどの環境調整を行う。
  • 骨盤前傾位で座れるように、股関節、脊椎の可動域運動や座位練習を行う。
下顎を前方に突き出していないか。
  • 脊椎後弯が影響している場合:
  • 車椅子の背ばり調整、タオルなどで脊椎弯曲を修正、体幹伸展筋強化、骨盤後傾位の修正など。
  • テーブルや椅子など環境が影響している場合:
  • 頸部軽度屈曲位で捕食できるように環境調整を行う。
頸部伸展位になっていないか(ベッド上またはリクライニング車椅子)。
  • 枕やヘッドレストの位置を調整し、頸部軽度前屈位になるようにする。
  • 後頭下筋群や頸椎伸筋群の柔軟性を高める。

 

 

先行期(認知期)

 

先行期は、食物を認知し、どのように食べるかを考え、手や食具を用いて口まで運ぶまでの過程です。ここでは、頭頚部のコントロールと上肢操作時の体幹の安定が必要になります。例えば、椅子座位で骨盤や体幹が正中位からズレて、座位姿勢が乱れていると、頸部周囲筋は姿勢保持のために活動するため、筋緊張が高くなります。筋緊張が高くなると、頸部の可動範囲が狭くなり、視覚情報に対する定位反応など姿勢反射が十分に行えなくなります。また、体幹が不安定で姿勢制御が行えないと、ひじ掛けやテーブルを押さえるなど、上肢も姿勢の安定のために使用されます。姿勢の安定のために上肢が使用されると、上肢で食具を操作して食べ物を取ること、食べ物を口まで運ぶことが難しくなります。

 

症候 介入ポイント
食べ物に視線を向けることができない。
(眼球や頸部の動きが制限されている)
  • 徒手的に姿勢を変化させ、筋緊張が緩む場所を探す。
  • 緩む位置で姿勢保持が可能か評価し、難しければクッション等でその姿勢を保持できるようにサポートする。
  • 眼球や頸部の自動運動で動きの改善を図る。
上肢操作の際に姿勢が崩れる。 上肢機能が低下している:

  • 肘をついて上肢の重さを除いた状態で食事ができるように環境を調整する。
  • 上肢の空間保持機能を高める。

姿勢調節機能が低下している:

  • 座位練習で体幹の安定性を高める。
  • 体幹を保持できるようにクッション等でサポートする。
食べ物をすくえない。
  • 食べ物の形態や位置に合わせて上肢や体幹を動かせるように、上肢操作や座位の重心移動練習を行う。
  • 箸やスプーンの操作練習を行う。
  • 自助具の使用など、食具を工夫する。
食べ物を口元まで運べない。
(IP屈曲、回内外、肘屈曲などの制限)
上肢の筋力、可動域が低下している:

  • 上肢の空間保持機能を高める。
  • 各関節のモビライゼーションや筋のストレッチで可動域を広げる。
  • 柄の長い食具を使う。
顔面を食べ物に近づけることができない。 体幹や頸部の筋力、可動域制限がある:

  • 体幹の前後移動の重心移動能力を高める。
  • 脊椎、骨盤、股関節の屈曲可動域を広げる。
  • 体幹伸筋群の遠心性収縮機能を高める。

 

 

準備期

 

準備期は、食物を口腔内に取り込み、咀嚼をして、嚥下運動が生じるまでの過程です。この過程では、開口して食物を取り込む、舌で口腔内に運ぶ、閉口して食物を保持する、咀嚼をして食物を嚥下しやすい形態にするという動きが行われます。ここでは、正常な顎関節と舌の運動が求められます。顎関節と舌の運動も、姿勢により影響を受けます。

顎関節は楕円関節であり、左右の関節面が均等な位置にある時に、最も効率良く動くことができます。また、下顎には舌骨を通じて頸部や体幹の筋肉とつながりがあるため、顎関節の運動は頸部や体幹の姿勢の影響を受けます。また、舌の運動を行う外舌筋も舌骨に付着しているため、頸部や体幹の姿勢の影響を受けます。

 

症候 介入のポイント
開口が十分行えない。
開口幅が狭い。
頸部、体幹が傾いている:

  • 姿勢を正中位に誘導し、開口幅の変化を評価する。
  • 変化があれば、その位置で姿勢が保てるようにポジショニング、座位姿勢保持練習を行う。

顎関節の動きに制限がある:

  • 顎関節のモビライゼーションを行う。
  • 重度であれば、歯科受診を勧める。
舌で食べ物を取り込むことができない。
舌の前方突出が不十分。
顎を突き出した姿勢をしている場合:

  • 顎を引いた姿勢になれるように、頸部の可動域を改善させる。
  • 骨盤、脊椎のアライメントを整えるためにクッション等でポジショニングを行い、顎を引いた姿勢が保持できるようにする。

姿勢は悪くないが、舌の動きが不良な場合:

  • 舌の自動運動を促し、舌の動きを高める。
  • 徒手的な操作が必要な場合には、STや歯科の先生に依頼する。
閉口できない。 顎関節の動きが不良な場合:

  • 顎関節のモビライゼーションを行う。
  • 重度であれば、歯科受診を勧める。

閉口に関連する筋の筋力低下がある場合:

  • 口を閉じる練習、閉じた状態を維持する練習を行い、筋力を強化する。
咀嚼が十分に行えない。 顎関節の動きが不良な場合:

  • 顎関節のモビライゼーションを行う。
  • 咀嚼に関連する筋群の筋緊張を評価し、過緊張になっている筋の緊張を緩める。
  • 重度であれば、歯科受診を勧める。

座位姿勢が不良な場合:

  • 姿勢を正中に戻して頭頸部と顎関節の位置関係を整える。

咀嚼の筋力低下がある場合:

  • 噛み合わせが整っているか確認し、不良であれば歯科受診を勧める。
  • 噛み合わせが正常であれば、咀嚼運動で筋力および筋持久力の強化を行う。
食塊形成が十分に行えない。
舌が十分に動かせない。
座位姿勢が不良な場合:

  • 座位姿勢が正中位で安定するようにシーティングを行い、体幹と頭頸部の位置関係を整える。
  • 座位バランス練習を行い、姿勢調整能力を高める。

舌自体の動きが制限されている場合:

  • 舌の自動運動を促し、舌の動きを高める。
  • 舌骨のモビライゼーションを行い、舌骨の可動性を改善する。

おわりに

今回は先行期から準備期における問題点に対して、理学療法として介入できるポイントをまとめました。しかし、実際の場面ではより多くの因子の影響を受けているため、多面的な評価および介入が必要になります。理学療法士だけで解決しようとせず、他職種と協力して介入をしていく必要があります。

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参考文献

[1] 内田学 他. 姿勢から介入する摂食嚥下 脳卒中患者のリハビリテーション. MEDICAL VIEW, 2017.