会員登録はこちら

まずは14日間無料体験
すべてのコンテンツが利用可能です

嚥下理学療法⑰ 脳卒中 座位編①

[no_toc]

姿勢調整、筋緊張、上肢操作|2023.6.9|最終更新:2023.6.9|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回はベッド上レベルの患者さんに対しての介入例をまとめました。今回からは座位レベルの患者さんの介入例についてまとめていきます。座位レベルの患者さんでは、ベッド上とは異なり抗重力姿勢になるため、姿勢調節能力がより必要になります。また、自分で食事をするためには、上肢操作も必要になります。いずれも脳卒中患者さんでは障害されやすい能力であり、理学療法士が得意とする領域ですので、積極的に介入していく必要があります。

本記事でわかること

✅ 脳卒中患者さんでは姿勢調節が障害されやすい

✅ 筋緊張異常は姿勢の乱れと関係する

✅ 麻痺手だけでなく、非麻痺手も食事動作には必要

座位姿勢調整

 脳卒中患者さんでは、筋緊張異常によって座位姿勢が崩れやすく、痙性麻痺、弛緩性麻痺いずれでも体幹が傾くことが多くなります。そのため、弛緩性では筋収縮の促通を、痙性では過剰な筋緊張の抑制を行い、姿勢制御能力の向上を目指します。また、座位能力の向上と並行して、クッションやタオル、背張りを調整して食事に適した座位姿勢を保てるように環境設定を行うことも大切です。

 椅子に座っている時に骨盤後傾、脊柱後弯している方に対しては、抗重力伸展活動が行えるような介入を行います。骨盤前傾を徒手的または三角マットなどを用いて誘導し、同時に脊柱伸展を促していきます。骨盤を前傾位にすることで、運動連鎖によって脊柱を生理的弯曲の状態に誘導することができます。徒手的に骨盤前傾が難しい場合もあります。原因としては、ハムストリングスの短縮股関節屈曲制限腰椎および胸椎の後弯変形など構造的な要因があります。その際には、まず改善可能な構造的要因への介入から始めます。構造的な要因が改善された段階で、先述のような機能的な要因への介入を行います。

 腰椎-骨盤-股関節の連動した動きを引き出したい場合には、バランスクッションやバランスボールなど座面が不安定になる物品を用います。前後・左右・回旋・回転など、様々な動きを行うことで、座面の重心移動やそれに伴う姿勢反射も促すことができ、姿勢制御能力を高めることができます。

 脳の広範囲が障害されている患者さんでは、伸展パターンが強くなっていることも少なくないと思います。伸展パターンが強く出ている患者さんでは、脊柱起立筋を始めとした背筋群や背面の皮膚などの軟部組織の伸張性が全体的に低下しており、頭頚部が後屈位になりやすくなります。また、股関節や膝関節の屈曲制限、尖足拘縮など下肢も伸展パターンが強くなるため、普通の椅子に座ることが難しくなります。このような筋緊張亢進によって安定した座位姿勢が難しい場合には、ストレッチやシーティングとともに、振動刺激を併用することも有効です[2]。周波数を細かく設定できる医療用のマッサージ器が望ましいですが、市販の一般用のマッサージ器でも十分効果が得られます。

 座位姿勢の安定には、胸郭の可動性も重要です。片麻痺患者さんでは、屈曲パターンによって上肢が屈曲・内転・内旋しやすく、胸郭に上肢を押し付けるような姿勢になります。上肢の痙性麻痺に対しては様々な介入が行われますが、胸郭はなおざりにされてしまうことが少なくありません。上肢の屈曲パターンが軽減したとしても、胸郭の硬さが残ってしまいます。胸郭の可動性に左右差があると、体幹が側屈・回旋してしまい、姿勢が乱れてしまいます。胸郭のストレッチや肋間筋のモビライゼーションなどを行い、胸郭の柔軟性を改善させることで可動性を高めます。

上肢操作

 脳卒中患者さんでは、上述のように姿勢制御が難しくなるため、上肢も姿勢保持のために使用してしまいます。上肢が姿勢保持に使用されてしまうと、片麻痺が重度の患者さんでは食事動作ができなくなってしまいます。麻痺が軽度であっても、姿勢保持に使用する上肢は筋緊張が高くなるため、上肢から肩甲帯を通じて頭頚部の嚥下に関わる筋群の緊張も高くなり、結果として摂食嚥下に悪影響を及ぼします。その際には、まず姿勢制御能力を高めて安定した座位保持ができるようにすることが大事です。

 安定した座位保持の練習と並行して、食事動作に必要な上肢の動きとそれに必要な姿勢調節の練習を行います。利き手が非麻痺側の場合には、麻痺側上肢で食器を持ったり押さえたりする練習を行います。片手だけで食事をしてみていただければお分かりになると思いますが、食べ物をすくう際に食器が動いてしまったり、食器を動かせないことで残り少なくなった食べ物をすくうことができないといった問題が生じます。右手だけでも食べやすい食事内容にするという対応もできますが、好きな食べ物を食べるという欲求を満たすためにも、食器を操作する手の機能を獲得することも大切です。利き手が麻痺側の場合には、上肢機能の改善を目指します。上肢の空間保持リーチ動作前腕の回内外手指の動きなど、食事動作に必要な能力の強化を行います。具体的な方法については、その方の有している身体機能、認知機能、精神状態など様々な要素を加味した上で、反応が良い方法を検討していくことが有用です。

 食事動作に必要な能力の向上と並行して、獲得した能力を実際の食事場面に反映させていく作業も必要になります。椅子やテーブルの高さ、食器の深さ、食器の中に入っている食べ物の量などに応じて上肢の高さ調節、自分の身体と食べ物との距離に応じた身体の重心移動と上肢のリーチ、食器や食物の形態に合わせた前腕の回内外と食具の操作、食べ物を捉えらた状態を維持したまま口まで運ぶための平衡調節など一連の動作の練習を行います。おはじきやビーズなどで模擬的に行い、可能であれば実際に食物を使用したり、食事場面に介入することも有効です。

おわりに

 座位レベルの脳卒中患者さんに対しての嚥下理学療法例として、姿勢と上肢操作への介入についてまとめました。今回記載したものはあくまで一般的な例なので、実際の患者さんの能力や介入による反応を見ながら、介入内容を調整していくことが大切です。

本記事の執筆・監修・編集者

✅記事執筆者(宇野先生)のTwitterはこちら↓↓

✅記事監修(✅編集(てろろぐ

関連する記事 

✅ 前回記事はこちら

✅ 栄養に関する人気記事はこちら

あなたにおすすめの記事

参考文献

[1] 吉田剛, 他. 理学療法実践レクチャー 栄養・嚥下理学療法. 医歯薬出版株式会社, 2018.

[2] Christian Avvantaggiato, et al. Localized muscle vibration in the treatment of motor impairment and spasticity in post-stroke patients: a systematic review. Eur J Phys Rehabil Med. 2021 Feb;57(1):44-60.