誤嚥、口腔 、嚥下|2025.7.25|最終更新:2025.7.25|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 誤嚥性肺炎は顕性誤嚥だけでなく、咳反射を伴わない不顕性誤嚥が多い
- 病態の中心は気道クリアランスの低下と口腔内細菌叢の変化
- 評価には種々の検査と画像評価を組み合わせた多面的アプローチが不可欠
序文
誤嚥性肺炎は、高齢者肺炎の大多数を占めるといわれる代表的な疾患です。摂食・嚥下障害に起因する微量の唾液や食物の気道侵入が、免疫力の低下した高齢者の肺に重篤な炎症を引き起こします。本稿では、誤嚥性肺炎の病態メカニズムを整理し、現場で役立つ評価手順を具体的に解説します。
誤嚥のタイプと誘因
誤嚥には、嚥下時に咳を伴い本人も周囲も気づく「顕性誤嚥」と、咳反射が起こらずサイレントに進行する「不顕性誤嚥」があります。不顕性誤嚥は高齢者で特に問題となり、肺炎発症時点で嚥下障害が初めて顕在化するケースも少なくありません[1]。
- 感覚機能低下:咽頭・喉頭感覚の鈍麻により、侵入物を感知できず咳が出にくくなる。
- 咳嗽閾値の上昇:パーキンソン病や糖尿病性ニューロパチーでは咳反射中枢の感受性が低下しやすい。
- 誘因疾患:脳卒中、頭頸部がん術後、サルコペニア、長期臥床、認知症、鎮静薬や抗うつ薬使用など。
さらに、高齢者では多剤併用(polypharmacy)による抗コリン作用[2]や鎮静作用が嚥下反射を不安定にし、夜間不顕性誤嚥が増加します。臨床で「咳がほとんど出ないのに酸素化が急に悪化した」「繰り返す微熱」が見られた際は、まず不顕性誤嚥を疑うことが重要です。
病態メカニズム
誤嚥性肺炎の病態は、大きく「侵入する細菌量×侵入頻度」と「宿主防御能」の二つの掛け合わせと捉えると理解しやすいです。
汚染内容物の侵入
- 口腔内衛生不良で増殖する嫌気性菌・グラム陰性桿菌が混入した唾液[3]。
- 食塊や胃食道逆流物が咽頭に停滞しやすい夜間の臥位。
- 経鼻胃管や気管切開チューブ留置に伴う咽頭運動低下[4]。
宿主防御機構の破綻[5]
- 線毛運動低下:喫煙歴・COPD・高齢そのものにより輸送効率が低下。
- 咳反射減弱:咳に必要な肺活量・呼気筋力・気道感覚いずれも落ちる。
- 免疫機能低下:低栄養、低アルブミン血症、糖尿病で好中球機能が低下。
これらの相互作用により、微小誤嚥が慢性化→好中球浸潤→細胞外マトリックス破壊→肺胞ガス交換障害と進行します。慢性炎症が長期化すると肺繊維化や気管支拡張を来し、その後の肺炎再発リスクがさらに高まります。
臨床評価
| 評価項目 | 評価内容 |
| ① リスク因子 | 意識レベル、既往歴、薬剤歴、ADLなど |
| ② 簡易嚥下テスト | 反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)など |
| ③ 姿勢・呼吸機能評価 | SpO₂、呼吸パターン、胸郭可動域、咳嗽力など |
| ④ 画像評価 | VE、VF、レントゲン |
| ⑤ 身体、心理面評価 | GDS、HADS、握力、SPPBなど |
各職種の役割
- 医師:診断確定・治療方針決定(抗菌薬選択、嚥下評価指示)、急変対応、全体マネジメント
- ST:VF/FEESによる嚥下機能精査、嚥下訓練プログラム立案・実施、食形態・一口量指導
- 看護師:口腔ケア実践・モニタリング、食事介助・姿勢調整、バイタル・SpO₂観察による早期異常検知
- PT・OT:体幹・頸部姿勢制御訓練、呼吸筋強化・排痰介助、離床・ADL向上支援、食事動作の環境整備
- 管理栄養士:栄養状態評価(栄養スクリーニング、GLIM)、経口/経管栄養プラン作成、テクスチャ調整食の提案
- 薬剤師:抗菌薬・鎮静薬などの適正使用支援、副作用や嚥下機能に影響する薬剤の見直し・減薬提案
これらの役割を相互に共有し、週次カンファレンスや電子カルテの共通テンプレートを用いてリアルタイムに情報更新することで、誤嚥性肺炎の予防と再発防止に向けた「切れ目ない連携」が実現します。
おわりに
誤嚥性肺炎の発症と再燃を防ぐ鍵は、嚥下機能の早期評価と介入、そして口腔衛生・呼吸機能・栄養状態を包括的に支える多職種連携にあります。リハビリ専門職は、病態メカニズムを踏まえたうえで、安全かつ効果的なプログラムを設計し、チームのハブとして患者と家族の生活を支援しましょう。
参考文献
[1]
Ramsey D, et al. Silent aspiration: what do we know? Dysphagia. 2005 Summer;20(3):218-25.
[2]
Castejón-Hernández S,et al. Association between anticholinergic burden and oropharyngeal dysphagia among hospitalized older adults. Aging Clin Exp Res. 2021 Jul;33(7):1981-1985.
[3]
Akata K, et al. The significance of oral streptococci in patients with pneumonia with risk factors for aspiration: the bacterial floral analysis of 16S ribosomal RNA gene using bronchoalveolar lavage fluid. BMC Pulm Med. 2016 May 11;16(1):79.
[4]
Gomes GF, et al. The nasogastric feeding tube as a risk factor for aspiration and aspiration pneumonia. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2003 May;6(3):327-33.
[5]
Palmer PM, Padilla AH. Risk of an Adverse Event in Individuals Who Aspirate: A Review of Current Literature on Host Defenses and Individual Differences. Am J Speech Lang Pathol. 2022 Jan 18;31(1):148-162.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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