認知運動乖離、脳 、身体|2025.9.26|最終更新:2025.9.26|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 可動域があっても運動指令が筋へ適切に伝達されない「認知運動解離(Cognitive Motor Dissociation: CMD)」という状態が存在する
- CMDでは、fMRIやEEGによって指令処理や認知レベルの応答が認められるにも関わらず、行動としては運動が表出されない
- CMD患者は通常の意識障害群よりも予後が良好
序文
関節可動域(ROM)は確保されているのに、意図した動作が実行できない―このような臨床観察に対し、筋骨格の問題だけでなく「脳–身体」の接続や神経機構に着目することは、若手療法士としての視点を広げる上で極めて重要です。今回は、なぜそのような現象が生じているのか、評価方法から介入のヒントまで紹介します。
認知運動解離(CMD:Cognitive Motor Dissociation)とは?
CMDとは、意識や運動指令を処理する脳の機能は保持されているにもかかわらず、身体を動かす行動が見られない状態を指します[1]。
外見上は昏睡や遷延性意識障害と見分けがつかない場合がありますが、脳内の高次運動ネットワークは活動していることがあり、運動意図の存在が示唆されます。
例えば、fMRIで「テニスをしているところを想像してください」という指示を与えると、健常者と同様に補足運動野などの運動関連領域が活性化するケースが報告されています[2]。
これは、患者が指令を理解し、運動計画を立てているにもかかわらず、その意図が運動出力に変換されないことを意味します。
この現象は、運動計画領域と運動実行系(皮質脊髄路や脳幹経路)間の情報伝達障害、または抑制性ネットワークの過剰活動によって生じると考えられています。
CMDの存在は、外見的な反応の有無だけで患者の意識や運動能力を判断する危険性を示しており、神経科学的評価の重要性を裏付けています。
CMDの評価法と臨床的意義
CMDの検出には、運動イメージ課題を用いたfMRI、あるいはEEGベースのブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)が活用されます[3]。
CMDと診断される患者は、通常の意識障害患者に比べて、1年後の行動的意識や機能回復の可能性が高いことが報告されています[3]。
よってCMDの早期検出は、リハビリ計画や家族への説明、方針決定において重要な意味を持ちます[1]。
「可動域はあるのに動けない」のメカニズムを脳–身体の視点から理解する
可動域の確保だけでは運動が成立しないのは、筋・関節の物理的条件と脳が運動をどう「実行」させるかの段階が異なるからです[4]。CMDはまさにその「実行段階」と「認知・指令処理」の間に断絶がある典型例です[1]。
脳内では、運動意図が補足運動野や前運動野から一次運動野へと伝達され、さらに脊髄・筋へアウトプットされる一連の経路が必要ですが、このどこかに障害がある場合、可動域はあるのに動作が出ない現象が生じます[4]。
ROM訓練だけでなく、意図の理解とその伝達プロセスを促すような認知的工夫や課題設定(例:イメージトレーニング)が重要と考えられます[2]。
おわりに
「可動域はあるのに動けない」現象を理解するには、リハビリの視点を筋骨格だけで終えるのではなく、脳–身体接続や神経機能の観点からも捉える必要があります[1]。CMDのような高度な概念に触れることにより、評価の幅が広がり、より精緻で効果的な介入につながります[3]。ぜひ臨床においても、ROM × 認知 × 運動意図の三位一体でアプローチを考えてみてください。
参考文献
[1]
Franzova E, Shen X, De Marchis GM, et al. Injury patterns associated with cognitive motor dissociation. Neurocrit Care. 2023;39(3):795-806.
[2]
Osborne NR, Owen AM, Fernandez-Espejo D. The dissociation between command following and motor execution in disorders of consciousness: A functional magnetic resonance imaging study. JAMA Neurol. 2015;72(11):1253-1261.
[3]
Pan J, Xie Q, He Y, et al. Prognosis for patients with cognitive motor dissociation identified by brain-computer interface. Brain. 2020;143(4):1177-1189.
[4]
Schieber MH. Dissociating motor cortex from movement. Annu Rev Neurosci. 2011;34:287-307.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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