序文(はじめに)
「うちの職場、経験豊富なベテランと入職したばかりの新人しかいない…」
「本来なら中堅が担うべき若手の指導を、誰がやるのか曖昧になっている」
「新人さんは誰に質問していいか分からず、ベテラン層は忙しくて十分に関われない。結果的に、自分が全ての負担を背負ってしまっている」
リハビリテーションの現場で、このような「中堅不在」の組織構造に悩むリーダーや教育担当者の方は、決して少なくありません。チームの要となるはずの中堅層がいないことで、教育や指導が特定の個人に集中し、組織全体の成長が滞ってしまう。その状況に、強い責任感と焦りを感じていらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、人がいないからと諦める必要はありません。この記事では、限られた人的リソースの中でも、若手を着実に育て、チーム力を高めるための「育成のしくみ」をつくる具体的なアイデアを3つご紹介します。
1. 「教える担当」を一人にしない。“ペア制度”を導入する
新人教育の負担が、特定の誰か一人に集中することは、教える側・教わる側の双方にとって良い結果を生みません。指導者側の疲弊を招くだけでなく、新人側も「あの人は忙しそうだから…」と質問をためらってしまいがちです。
そこで効果的なのは、指導の役割を分散させるための、シンプルな「ペア制度(バディ制度)」を導入することです。これは、新人一人に対して、先輩一人が一定期間(例えば6ヶ月間)、「一番の相談窓口」になるという仕組みです。
大切なことは、ペアになった先輩が全てを教え込む「指導担当」になるのではなく、あくまで「最初の相談役」という役割を明確にすることです。日々の記録の書き方から、ちょっとした臨床の疑問まで、新人が「まずこの人に聞けばいい」という安心感を持つことが、孤立を防ぎ、自発的な学びを促します。教育の責任をチーム全体で分担する第一歩となります。
2. “知見の共有”を仕組み化する。週一の「5分間Tips会」
ベテランスタッフが持つ貴重な知識や経験は、個人の頭の中に留めておくだけでは組織の財産になりません。かといって、多忙な中で勉強会を頻繁に開くことも非現実的です。
そこでおすすめしたいことは、ごく短時間で終わる「知見の共有」を仕組みとして定着させることです。例えば、週に一度、朝礼の最後の5分間を「Tips会」と名付け、スタッフが持ち回りで「現場で役立つ豆知識」を一つ共有します。
テーマは、「介助が楽になるポジショニングのコツ」「ご家族へのうまい説明の仕方」といった、どんな些細なことでも構いません。この5分間の積み重ねが、新人にとってはベテランの臨床思考に触れる貴重な機会となり、チーム全体にとっては知識の標準化につながります。ハードルを低く設定することが、継続の秘訣です。
3. 新人自身が“学びを言語化”する機会をつくる
教育とは、一方的に知識を教え込むことではありません。新人自身が、日々の業務の中で何を学び、何に悩み、どう成長したいかを自分の言葉で表現する機会をつくることが、主体的な成長を促す上で非常に重要です。
そのために、日々の「振り返り」を仕組みとして取り入れると、効果的です。大掛かりなレポートは必要ありません。例えば、週末に共有ノートへ「今週できたこと」「分からなかったこと」「来週試したいこと」の3点を書き出してもらう、というシンプルなルールで十分です。まずは上記のTips会で新人が話すことから始めても構いません。
自分の学びを言語化する習慣は、新人の思考を整理し、課題を明確にさせます。指導する側も、その記述を手がかりにすることで、的確で効率的なフィードバックが可能になります。受け身の姿勢から、自ら学ぶ姿勢へと転換させるための、効果的な仕組みです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。中堅がいないからといって、育成を諦める必要は全くありません。「ペア制度」で責任を分散し、「5分間Tips会」で知見を共有し、「振り返りの言語化」で主体性を促す。これらは、今いるメンバーで、明日からでも始められることばかりです。
もちろん、新しい仕組みを定着させることには、相応のエネルギーが必要です。しかし、完璧な制度を最初から目指す必要はありません。まずは一つ、あなたの職場で最も取り入れやすそうなものから試してみてはいかがでしょうか。
育成の仕組みづくりに向けたあなたの小さな行動が、新人や若手の安心感につながり、ひいてはチーム全体の成長の土台となります。未来の職場をつくる変化は、あなたのその一歩から始まります。
参考文献
Rose T. Dunn: Dunn and Haimann’s Healthcare Management, Eleventh Edition


