序文(はじめに)
「経験者だから、すぐに即戦力として動いてくれるだろう」
「育休明けのベテランが戻ってきてくれたから、現場も少しは楽になるはずだ」
中途入職者や育休からの復帰スタッフを迎える際、現場ではどうしてもこのような「即戦力」への期待が高まってしまいます。しかし、いざ業務が始まってみると、電子カルテの操作に戸惑ったり、職場の細かなルールの変化についていけなかったりと、思うように活躍できない場面に直面することがあります。
本人も「経験があるのに、こんなこともできないのか」と思われないかと焦り、受け入れ側も「どこまで教えればいいのか」と迷ってしまいがちです。この見えない壁を取り払い、彼らが持つ本来の力をスムーズに発揮してもらうために必要なプロセスが「オンボーディング(組織への定着支援)」です。この記事では、忙しい現場でも無理なく実践できる、3つの受け入れの工夫をご紹介します。
1. 「業務」ではなく「ローカルルール」を明文化して渡すこと
経験のあるスタッフにとって、最もストレスになることは、臨床スキルそのものではなく、その職場特有の「暗黙の了解」や「細かな決まりごと」です。例えば、備品の置き場所、ゴミ捨てのルール、朝の申し送りの手順といったことです。これらをいちいち聞くことは、経験者であるほど心理的な負担になります。
そこで有効なことは、A4用紙1枚で構いませんので、「職場のローカルルール・虎の巻」を作成して渡すことです。
「誰に聞けばいいか分からない」「こんな些細なことを聞いていいのか」という迷いを解消するために、あらかじめ情報を手渡しておきます。この小さな準備があるだけで、彼らは無駄な気を遣うことなく、臨床業務に集中できるようになります。
一度作ってしまえば、次の採用時にも使えるチームの資産になります。
2. 「指導役」ではなく「案内役」を一人決めること
新人教育では「指導者(プリセプター)」をつけますが、経験豊富な中途・復帰スタッフに対して「指導」というスタンスで関わることは、時に相手のプライドを傷つけ、関係性をぎくしゃくさせる原因になります。
おすすめしたいことは、業務を教える指導役ではなく、困った時にいつでも頼れる「案内役(ナビゲーター)」を一人任命することです。
「臨床のことは信頼していますが、システムの操作や物品の場所など、この職場の勝手が分かるまでは、私が案内役になりますね」と伝えておく。役割を「教える・教わる」上下関係ではなく、「職場に馴染むためのサポーター」と明確に定義することで、お互いに敬意を払いながら、スムーズな連携が取れるようになります。
3. 「過去の経験」を聞く時間を意図的に設けること
中途採用者や復帰者は、「前の職場ではこうだったのに」「休んでいる間にやり方が変わってしまった」という違和感(ギャップ)を必ず抱えています。この違和感を放置することは、職場への不信感につながりかねません。
大切なことは、こちらのやり方を一方的に押し付けるのではなく、相手の背景を知るための対話の時間を設けることです。
「前の職場では、このケースはどう対応していましたか?」「休んでいる間にここを変えたのですが、使い勝手はどうですか?」と問いかけてみます。相手の経験や視点を尊重し、話を聞く姿勢を見せることで、彼らは「自分のキャリアが否定されていない」と安心し、新しい環境のやり方を受け入れる心の余裕を持つことができます。
おわりに
育休明けや中途のスタッフは、本来、チームにとって大きな力となる存在です。彼らがつまずいているのは、能力の問題ではなく、単に新しい環境への「適応」のハードルがあるだけなのです。
今回ご紹介した「ローカルルールの明文化」「案内役の配置」「過去の経験を聞くこと」。
これらはすべて、相手への「歓迎」と「敬意」を行動で示すことに他なりません。
彼らが一日でも早く、その実力を発揮し、笑顔で働けるようになるために。リーダーであるあなたのちょっとした気遣いと準備が、チーム全体のパフォーマンスを大きく引き上げるカギとなります。
あなたの行動が、頼もしい仲間を本当の意味でチームに迎え入れることに繋がります。
参考文献
Rose T. Dunn: Dunn and Haimann’s Healthcare Management, Eleventh Edition


