MMT、筋力 、触診|2026.3.27|最終更新:2026.3.27|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- MMTは“標準化された手順(肢位・固定・抵抗・触診)”を守るほど再現性が上がる
- 抵抗は方向・タイミング・テコがすべてで、同じ人でもやり方次第で4⇄5が簡単に揺れる
- 5には天井効果があり、必要に応じてダイナモなど定量評価を併用するのが安全
序文
MMTは、特別な機器がなくても“その場で筋力の状態”を共有できる便利な評価です。一方で、触る場所・固定・抵抗の方向が少しズレるだけで結果が変わるのが落とし穴。ここでは若手療法士が明日から精度を上げられるように、「触診」「力のかけ方」「ミスの潰し方」を手順化してまとめます。
触診のコツ:「狙った筋」を当てる手順
MMTの精度は、実は「抵抗をかける前」にほぼ決まります。特に**0〜2(収縮〜重力除去)**は触診が主役です。[1]
① まず“目で代償”を消してから触る
触診前に、動き方を観察して次をチェックします。
関節運動が主動作になっているか(例:股関節屈曲MMTで体幹屈曲が先に出ていないか)
代償の出やすい方向(回旋・側屈・挙上など)が混ざっていないか
関節軸がズレていないか(開始肢位で、すでに“逃げ”が起きていないか)
コツ:観察で「代償の候補」を2つに絞ってから触ると、触診が当たりやすくなります。
② 触診は「筋腹→腱→周辺筋」の順で確かめる
筋腹:まず“収縮しているか”を拾う(軽い等尺性を指示して、筋腹の硬さ変化を見る)
腱:動きが小さい/深層筋っぽいときは腱の張りで拾う
周辺筋:似た動作をする筋(共同筋・代償筋)にも軽く触れて、どちらが主役か判断
MMT手順を明示したプロトコルでも、スコアごとに肢位・固定・抵抗・触診がセットで示されており、「触診は必須手技」として扱われています。[1]
③ 「固定」を先に作ると触診が急に楽になる
固定が弱いと、患者さんは無意識に“楽な筋”で動かします。触診の前に、次の順で固定を作ってください。
「動かさない場所」を言語化(例:「骨盤は動かさず、膝だけ伸ばします」)
近位の固定(骨盤・肩甲帯など)
関節の中間位〜やや短縮位(端可動域は代償が出やすい)
力のかけ方:抵抗の方向・タイミング・量
「力の強さ」より、方向とテコがズレる方が致命的です。さらに、トレーニングされた評価者が標準化手順で行うと、MMTの検者間信頼性は非常に高くなることが示されています。[2]
① 抵抗の“方向”は「作用の逆方向」に一直線
基本は 筋の作用(運動)に対して逆方向
迷ったら「この筋が作る回旋/屈伸/外転…を打ち消す向き」を選ぶ
斜め抵抗になると、別の筋群を呼び込みやすい(=代償が増える)
② 抵抗をかける“場所”は「遠位=テコ最大」が基本、ただし痛みと関節保護を優先
原則:遠位ほど小さい力で大きいトルクがかかる(判定が出やすい)
例外:疼痛、関節不安定、術後などは近位で安全に(その場合は必ず記録に残す)
③ “タイミング”はGradeで変える(ここが4⇄5の分かれ目)
Grade 3:まず「重力に抗して全可動域」を見切る(抵抗は入れない)
Grade 4/5:終末域で保持させ、抵抗をじわっと立ち上げる(急に押すと反射・痛み・代償が混ざる)
実臨床では「同じ患者・同じ検者」でも、抵抗の立ち上げが変わると結果が揺れやすいので、自分の“押し方の型”を固定するのが重要です。[3]
④ “量”の目安:MMTで無理なら定量評価を併用する
下肢など強い筋では、MMTだけだと「弱いのに良く見える」ことがあります。膝OA患者では、HHDだと弱さが出るのにMMTだと“良好”に見えることが報告されています。[6]
HHD自体は検者間信頼性が良好〜高いとされます。[4]
さらに固定を工夫したHHD(Nicholas等)では、等速性ダイナモとの比較で妥当性・信頼性を検討した研究もあります。[5]
よくあるミスと対処法:“ズレ”を見える化して直す:
ミス1:固定が弱くて、代償が“正解”になっている
対処:
近位(骨盤/肩甲帯)を先に固定
「ここは動かさない」を先に宣言
代償が出たら、抵抗を弱めるより肢位を作り直す
ミス2:関節角度が毎回違い、長さ‐張力や痛みの影響を拾ってしまう
対処:
“開始肢位”をテンプレ化(中間位を基本)
痛みが出る角度なら、痛み回避角度で実施し「pain-limited」と記録
ミス3:抵抗が斜めで、狙いと違う筋群を呼び込んでいる
対処:
抵抗は「作用の逆方向」へ一直線
迷ったら、動作を小さくして等尺性で方向を合わせ直す
ミス4:4と5の境界が曖昧で、評価者間でブレる
Medical Research Councilスケール(MRC)は0〜5の順序尺度で、特に4と5は主観が入りやすいことが指摘されています。[8]
さらに「4+」を入れても一致度が明確に改善しない、という報告もあります。[8]
対処:
4/5を厳密に追う必要があるときは、HHDなど定量評価を併用
どうしても+/-を使うなら、自施設で定義(抵抗量・保持時間・代償なし条件)を文章化して共有
ミス5:「5(正常)」の中に幅がありすぎて変化が追えない(天井効果)
膝伸展では、MMTのGrade 5に入る力の範囲が非常に広く、**天井効果(変化が見えない)**の理由になると報告されています。[7]
対処:
強い筋・経過観察(術後/スポーツ復帰など)は、MMT単独より定量評価+機能評価へ寄せる
ミス6:MMTとダイナモの関係を“直線”だと思っている
膝伸展では、MMTとダイナモは相関する一方で、MMTの%表現が“正常に近い”と過大評価しうることが示されています。[9]
対処:
MMTは「大まかな層別化(重力の可否、明らかな左右差)」に強い
微妙な改善を追うなら、同一条件での定量値を取りにいく
ミス7:記録が「MMT 4」だけで再現不能
対処:
筋名(または運動)、肢位(重力の向き)、固定部位、抵抗部位と方向、疼痛/代償の有無
加えて、MRCと修正版の信頼性・妥当性を検討した研究もあり、伝わる採点と記録を意識する価値があります。[10]
おわりに
MMTの上達は「力が強くなること」ではなく、手順の標準化(肢位・固定・触診・抵抗)を毎回同じにすることです。まずは、今日の評価から「固定」と「抵抗方向」を1つだけ改善してみてください。結果のブレが減ると、臨床推論(なぜ弱いのか/どこが原因か)が一気に楽になります。
参考文献
[1]
Nancy Ciesla, et al. Manual muscle testing: a method of measuring extremity muscle strength applied to critically ill patients. J Vis Exp. 2011;(50):2632. PMID: 21505416. doi:10.3791/2632.
[2]
Eddy Fan, et al. Inter-rater reliability of manual muscle strength testing in ICU survivors and simulated patients. Intensive Care Med. 2010;36(6):1038-1043. PMID: 20213068. doi:10.1007/s00134-010-1796-6.
[3]
J M Florence, et al. Intrarater reliability of manual muscle test (MRC scale) grades in Duchenne’s muscular dystrophy. Phys Ther. 1992;72(2):115-122. PMID: 1549632. doi:10.1093/ptj/72.2.115.
[4]
R W Bohannon, et al. Interrater reliability of hand-held dynamometry. Phys Ther. 1987;67(6):931-933. PMID: 3588679. doi:10.1093/ptj/67.6.931.
[5]
P R Surburg, et al. Validity and reliability of a hand-held dynamometer with two populations. J Orthop Sports Phys Ther. 1992;16(5):229-234. PMID: 18796754. doi:10.2519/jospt.1992.16.5.229.
[6]
K W Hayes, et al. Reliability of hand-held dynamometry and its relationship with manual muscle testing in patients with osteoarthritis in the knee. J Orthop Sports Phys Ther. 1992;16(3):145-149. PMID: 18796764. doi:10.2519/jospt.1992.16.3.145.
[7]
Bohannon RW, Corrigan D. A broad range of forces is encompassed by the maximum manual muscle test grade of five. Percept Mot Skills. 2000;90(3 Pt 1):747-750. PMID: 10883753. doi:10.2466/pms.2000.90.3.747.
[8]
Søren O’Neill, et al. Using 4+ to grade near-normal muscle strength does not improve agreement. Chiropr Man Therap. 2017;25:28. PMID: 29051814. doi:10.1186/s12998-017-0159-6.
[9]
Bohannon RW. Manual muscle test scores and dynamometer test scores of knee extension strength. Arch Phys Med Rehabil. 1986;67(6):390-392. PMID: 3718198.
[10]
Tatjana Paternostro-Sluga, et al. Reliability and validity of the MRC scale and a modified scale for testing muscle strength in patients with radial palsy. J Rehabil Med. 2008;40(8):665-671. PMID: 19020701. doi:10.2340/16501977-0235.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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