序文(はじめに)
医療・介護の現場は常に変化しています。制度の改定、新しいリハビリ機器の導入、チーム編成の変更、スタッフの入れ替わり……。こうした変化の波は、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)として働く中でも日常的に起こることです。
特に、若手リーダーとしてチームをまとめる立場になったとき、「今まで通りが通用しない」場面に直面しやすくなります。
そこでカギになるのが、アダプティブリーダーシップ(適応型リーダーシップ)という考え方です。これは、正解のない課題に対して柔軟に対応し、周囲を巻き込みながら乗り越えていく力を意味します。
1. 変化の中で起こる「正解のない課題」
現場で起こる問題には、マニュアルを見ればすぐに解決できる「技術的な問題」と、そう簡単には答えが出ない「適応が求められる課題」があります。
たとえば…
- 新人スタッフがなじめず、チームの雰囲気がぎくしゃくしている
- 退院後の支援がスムーズにつながらず、患者さんが不安定になる
- 今まで通りのカンファレンスが、形骸化してしまっている
こうした課題は、「こうすれば解決できる」という正解がありません。必要なのは、チームの力を引き出しながら、現場ごとに答えをつくっていく姿勢です。
2. アダプティブリーダーの基本行動
アダプティブリーダーシップは、難しい理論ではなく、実は日常の中の小さな行動から始められるものです。ここでは3つの実践行動を紹介します。
① 「現状維持の空気」にひと声かける
チームに長く根付いている慣習に対して、「このやり方、今も合ってると思う?」と問いかけてみる。
→ あえて静かな違和感を言葉にすることが、変化のきっかけになります。
②「答えを出す役」から一歩引く
リーダーになると「自分が正解を出さなければ」と思いがちです。
でも、本当に必要なのは「みんなが考え始める場をつくること」。
→「みんなどう思う?」と、判断を共有することで、チームの知恵が動き出します。
③ 小さく試して、少しずつ変える大きな改善ではなく、「1患者だけ新しいカンファレンスの進め方を試してみる」など、小さな実験を繰り返すことが、無理のない変化を生みます。
3. 変化の中で“軸”を持つということ
アダプティブリーダーシップは、「何でも柔軟に合わせる」という意味ではありません。むしろ、状況に合わせて動きながらも、ブレない“軸”を持つことが大切です。
その軸とは、「このチームで、どんなケアを大事にしたいか」「自分たちは何のために動いているのか」といった目的や価値観です。
軸があるからこそ、迷った時も立ち戻れるし、メンバーにも方針を示すことができます。
変化を受け入れるだけでなく、意味づけて、動きをつくる。
それが、これからのリーダーに求められる力です。
まとめ
変化のスピードが速い今、私たちは「答えを持つ人」よりも、「問いを立て、動ける人」を必要としています。
アダプティブリーダーシップとは、チームで考えながら、少しずつ前に進む力。
完璧である必要はありません。まずは、問いかけること・試してみることから始めてみましょう。
その小さな一歩が、変化に強いチームをつくる土台になります。
参考文献
Rose T. Dunn: Dunn and Haimann’s Healthcare Management, Eleventh Edition