肺炎、誤嚥 、高齢者|2025.7.11|最終更新:2025.7.11|理学療法士が執筆・監修しています
序文
高齢化が進む日本では、呼吸器感染症の中でも肺炎が依然として深刻な健康課題です。特にフレイルやサルコペニアを併存する高齢者では、肺炎が身体機能を急激に低下させる「転機」となることも少なくありません。リハビリテーション専門職が疾患の基礎と疫学を把握しておくことは、予防的視点を持った介入設計や多職種連携を実現するうえで欠かせない要素です。
高齢者肺炎の特徴
生理的変化と易感染性
加齢に伴って気道クリアランスや咳反射は低下し、免疫細胞の機能は衰え(いわゆる免疫老化)が進みます[1]。さらに心疾患、糖尿病、慢性腎臓病などの慢性疾患を複数抱えるケースが多く、これらが重なることで、わずかな病原体暴露でも重症化しやすい身体環境が形成されます[2]。
誤嚥性肺炎の増加
嚥下機能の低下[3]と口腔内細菌叢の変化[4]が高齢者における誤嚥性肺炎の主要因です。日本の急性期病院の調査では、入院肺炎症例の38.4%が誤嚥性肺炎であり[5]、65歳以上に限ればその割合は79.3%に達するという報告もあります[6]。リハ専門職にとって嚥下評価、食形態調整、そして口腔ケアの支援は極めて重要な役割となります。
疫学データ
全国統計では、肺炎は死亡原因の第5位に位置しています[7]。そのうち 65 歳以上が約 98 %を占めており、高齢者が肺炎にどれほど脆弱かが明らかです。地方自治体レベルの研究でも同様の傾向が示されており、高知市の地域調査では、成人 10 万人当たり年間 960 例の市中肺炎が報告され、その 73 %が 65 歳以上でした[8]。こうしたデータは、高齢者人口の増加が医療資源消費を指数関数的に押し上げることを示唆しており、介入優先度を判断するうえで強力な根拠となります。
ハイリスク要因と評価の視点
高齢者肺炎のリスク因子は大きく四つに分類できます。第一に全身機能の低下で、フレイルやサルコペニアによる筋力低下が代表例です。第二に嚥下・口腔の問題があり、歯牙欠損や口腔乾燥、誤嚥既往のある患者は特に注意が必要です。第三に呼吸機能の障害で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や胸郭柔軟性の低下が挙げられます。第四に生活環境で、長期臥床や低活動が肺炎発症リスクを高めます。リハ専門職は、これらの因子に対して筋力・持久力評価と運動処方、嚥下評価と口腔ケア教育、呼吸筋トレーニングと姿勢調整、そして早期離床プログラムや環境調整を組み合わせ、個々の患者に合わせた介入を計画できます。
予防と介入:最新エビデンス
予防と介入に関する最新の知見を概観します。まず、ワクチン接種の推進は重要な一次予防策です。肺炎球菌ワクチンでは13価結合型(PCV13)と23価莢膜多糖体(PPSV23)の接種の有効性が認められています[9]。次に、運動療法の効果が確立しています。1日0.5時間~0.9時間の歩行で、肺炎死亡リスクが約35%低下するとの報告があり、身体活動を維持する意義が裏付けられています[10]。さらに、口腔衛生と嚥下訓練への介入も欠かせません。介護施設で専門職が実施する口腔ケアプログラムを導入すると、誤嚥性肺炎の発症率が減少したというエビデンスが示されています[11]。栄養管理も重要で、低栄養は免疫機能と嚥下筋力を同時に低下させるため、GLIM 基準に基づく早期モニタリングが推奨されます。最後に、多職種連携の有効性が強調されており、医師、言語聴覚士、看護師などの多職種チームが介入することで 誤嚥性肺炎の発症率が減少したことが報告されています[12]。
おわりに
肺炎は依然として高齢者の主要な死亡要因であり、特に誤嚥性肺炎の割合が高いことが明らかになっています。リハビリテーション専門職は、身体を動かすこと、嚥下を支援すること、そして口腔衛生を保つことという自身の強みを最大限に活用し、予防から急性期、在宅まで切れ目のない介入を計画する必要があります。さらに、最新の疫学データを常に把握しつつ、ワクチン接種、運動、嚥下支援の三本柱によって「肺炎になりにくい身体」と「罹患しても悪化しにくい生活環境」を整備することが求められます。





















