歩行、測定 、予後予測|2025.12.12|最終更新:2025.12.12|理学療法士が執筆・監修しています
序文
歩行評価は「見て・測って・次の一手へつなぐ」流れを短時間で回すのがコツです。本稿では、ベッドサイドや病棟廊下で即実施できる“簡単チェック法”を3つのステップに整理し、所要時間・準備物・記録のコツまで具体化します。数値化(スピード・TUG など)は最小限の道具で再現性を高め、観察所見は“原因仮説”に結びつく形でメモしましょう。
①まず安全確認を行い、観察の型を揃える
目的:転倒・有害事象を避けつつ、介入につながる所見を短時間で収集。
準備:タイマー(スマホ)、床に4m or 10mの目印テープ、メジャー、パルスオキシメータ、動画(横視点を基本)。
1) 安全確認(30–60秒)
- バイタル:SpO₂、脈拍、主観的息切れ(Borg)。
- 痛み(NRS)、めまい・ふらつきの有無。
- 補助具の点検(高さ・先ゴム摩耗)。
2) 観察のチェックリスト(立脚→遊脚の順)
- 初期接地:踵接地できるか/前足部接地になっていないか。
- 立脚中期:骨盤ドロップ(Trendelenburg)、膝戦略(過伸展/屈曲)、足部内外反。
- 立脚終期:足関節底屈(push-off)不足、短い歩幅。
- 遊脚:骨盤過挙上、股関節外旋・外転代償、つま先のクリアランス。
- 体幹・頭部:過度の側屈・前屈、腕振り左右差。
3) 動画の撮り方
- 正面・後面・側面のうち側面優先(接地と体幹/膝戦略が見やすい)。
- 同じ距離・同じ床で“再現可能”に撮る(介入前後比較用)。
4) メモの型(例)
- 接地:右踵接地不十分→推進力低下の可能性あり。
- 立脚:左骨盤ドロップ→中殿筋支持性低下の可能性あり。
- 遊脚:右つま先クリアランス不十分→背屈筋力/タイミングに課題がある可能性あり。
②誰でも同じように測れる簡単パフォーマンス指標3点
ねらい:歩行スピードとTUG、(可能なら)2–6分歩行の3点で、機能レベルと転倒・移動自立度の概況を数値化。カットオフや意味の解釈を押さえ、臨床で使える形にします。
1)歩行スピード(4m or 10m Walk Test)
- 方法:助走2m–計測区間4m(または10m)–減速2m。通常歩行で2回、最良値採用。タイマーで計測しm/sに換算。
- 解釈の目安:~0.4 m/s 家屋内、0.4–0.8 m/s 近隣、≥1.0 m/s 地域自立の目安[1]。高齢者では0.1 m/sの変化が臨床的に意味ある変化(MCID)の目安[5]。
- 根拠:歩行スピードは機能的分類や生命予後と強く関連しており、日常生活自立度や転倒リスクを予測できる[1][2][5]。
2)Timed Up and Go(TUG)
- 方法:背もたれ椅子→立つ→3m歩く→方向転換→着座。通常速度で1–2回、最良を採用。
- 解釈の目安:13.5秒以上で転倒リスク上昇の目安(地域高齢者)[4]。
- 根拠:TUGは基本的移動能力と動的バランス、転倒リスクを簡便に評価できる信頼性の高いテストであり、予測的妥当性が報告されている[4][6]。
- バリエーション:デュアルタスクTUG(数えながら/語流暢性)で認知負荷に対する歩行脆弱性も把握。
3)2分 or 6分歩行(2MWT/6MWT)
- 方法:平坦な廊下(往復)。体調監視(SpO₂・脈拍)。
- 2MWTは病棟でも実施しやすく、持久性の概況把握に有用。6MWTは標準化手順(ATSガイドライン)に従う[3]。
- 根拠:2MWT・6MWTの距離は下肢持久性や活動耐容能を反映し、臨床的経過観察に信頼性がある[3][6]。
- 歩行スピード × 時間で距離目標を設定(例:0.8 m/s × 6分 ≈ 288 m)。
- 退院後の外出時の耐久性の説明に使いやすい(家族教育)。
③原因別ミニアセスメントで今日の介入に直結させる
観察(大項目1)→測定(大項目2)で得た所見を、原因仮説に沿って短時間で深掘りします。支持性(立脚)・推進力(末期立脚)・バランス(方向転換)・認知負荷の4軸に分け、すぐ試せるテストと介入の方向性を対応付けます。
1)支持性(立脚の安定)
- テスト:単脚立位(安全確保の上で左右比較)、5回Sit-to-Stand(5xSTS)、股外転MMT/ハンドヘルドダイナモ。
- 根拠:5xSTSは下肢機能と転倒リスクの関連指標として再現性・妥当性が報告[7]。[6]も高齢者での基準値を提示。
- 介入例:中殿筋・膝伸展筋の閉鎖性運動連鎖、立脚中期の荷重練習、側方重心移動の反復。
2) 推進力(末期立脚のpush-off)
- テスト:カーフレイズ回数、アンクルROM、10m通常・最大スピード比較(最大−通常の差が小さい→推進力/恐怖の課題)。
- 根拠:歩行スピードは生命予後や自立度と関連[2]、速度改善の極小有意変化にMCIDが示される[5]。
- 介入例:立脚終期の足関節底屈力・腸腰筋タイミング、歩幅増大のキューイング。
3)バランス(方向転換・二重課題)
- テスト:TUG方向転換時の一時停止・よろめき、FGA(Functional Gait Assessment)項目の一部(頭部回旋歩行・狭い歩幅)を抜粋してスクリーニング[8]。
- 根拠:FGAは動的バランス・歩行課題(方向転換や視覚・頭部回旋を含む)に対して信頼性・妥当性が示されており[8]、またTUG自体は機能的移動性および転倒リスクの指標として広く検証されています[4]。
- 介入例:方向転換ドリル、視覚キュー、狭路歩行→障害物の段階付け。
4)認知負荷(Dual-task脆弱性)
- テスト:デュアルタスクTUG(減点方式で“コスト”を算出)。
- 根拠:歩行×認知の同時課題は歩行速度などのパフォーマンスを有意に低下させる“認知運動干渉”を生じることが系統的レビュー(メタ解析)で示されています[9]。また、TUGに手作業/認知課題を付加した条件は、転倒歴のある高齢者の識別に有用であることが報告されています[10]。
- 介入例:単課題での自動化→軽い認知課題付加→実生活課題へ般化。
ゴールと記録のテンプレ例
- 短期:歩行スピード 0.55→0.70 m/s、TUG 18→14 s(杖)
- 中期:2MWT 120→180 m、屋外 200 m 連続歩行(見守り→自立)。
- 所見メモ:「左立脚中期の骨盤ドロップ改善により歩幅+5 cm、最大スピード−通常スピード差が拡大(推進力向上の示唆)」
おわりに
本稿では、(1) 安全・観察の型で“何を見るか”を固定し、(2) 歩行スピード+TUG(+2–6分歩行)で“どれくらいできるか”を数値化し、(3) 原因別ミニアセスメントで“なぜできないか”へ踏み込む—という最短ルートを提案しました。明日からは、①4mテープとタイマーを常設、②動画は側面を定点で、③記録は「所見→原因仮説→次の一手」を1行で残す、の3点を習慣化してください。小さな再現可能な手順が、退院時の自立度や在宅移行の質を底上げします。臨床は“時間との勝負”。測る項目を減らすのではなく、測り方を固定することで、介入設計の精度を上げていきましょう。





















