KOA、大腿四頭筋 、筋トレ|2026.1.23|最終更新:2026.1.23|理学療法士が執筆・監修しています
序文
外来で膝痛の患者さんをみていると、 「太ももの筋肉が弱いから、大腿四頭筋を鍛えましょう」 …と、とりあえず説明していないでしょうか。 もちろん、大腿四頭筋は膝の安定やショックアブソーバーとして超重要な筋です。でも、「四頭筋さえ鍛えればOK」という理解だと、エクササイズ選択も負荷設定も、だいぶもったいないことになります。
最近の文献をみると、PFPS(膝蓋大腿痛症候群)、変形性膝関節症(KOA)どちらでも「四頭筋トレは有効だけど、それだけじゃ不十分」「負荷のかけ方しだいで効果も変わる」ということがかなりはっきりしてきています。 この記事では、臨床3年目くらいまでの療法士向けに、
- なぜ「とりあえず四頭筋」は誤解を生みやすいのか
- 四頭筋が「痛みの犯人」ではなく「関節のボディガード」である理由
- 明日からの「四頭筋を鍛える」の処方をアップデートするチェックポイント
をまとめます。
「とりあえず四頭筋トレ」はなぜ誤解を生むのか?
① PFPS:四頭筋は大事。でも“それだけ”ではない
PFPSに対しては、四頭筋トレーニングの有効性を示したシステマティックレビューがあります。
理学療法士が指導する四頭筋エクササイズは、「助言のみ」や「情報提供のみ」に比べて、痛み・機能を改善する強いエビデンスが報告されています。[1]
一方で、より新しいメタ解析では、 膝(四頭筋)だけのトレーニングと股関節+膝のトレーニングを比較すると、股関節+膝の方が痛み・活動性の改善が大きいとされています。[2]
興味深いのは、このレビューで「筋力そのものの変化」はあまり大きくなくても、痛みや機能は改善していたことです。[2]
つまり、
「筋力値が〇%上がったから治った」というより、
「全体の運動戦略・負荷許容量が変わった」結果として良くなっている
可能性が高い、ということです。
さらに2023年のRCTでは、PFPS患者を四頭筋エクササイズ群、股関節エクササイズ群に分けて12週間比較したところ、両者の効果はほぼ同等という結果でした。[3]
「四頭筋か股関節か、どっちが正解?」というより「下肢全体をどうデザインして鍛えるか」が重要で、「四頭筋だけ正義」「股関節だけ正義」というシンプルな話ではありません。
② 四頭筋トレの“補助”をどう使うか(NMESの例)
PFPSに対して、NMES(神経筋電気刺激)+エクササイズを検討したシステマティックレビューでは、エクササイズ単独と比べて痛みの軽減、膝機能の改善、四頭筋筋力の向上がわずかではあるものの有意に上乗せされていました(4週間以上の介入でより有効)。[4]
もちろん、エビデンスの質はまだ高いとは言えませんし、NMESが必須というわけでもありません。
でも、明らかな四頭筋抑制がある人」「自力での収縮がうまく引き出せない人」では、四頭筋トレのブースターとしてNMESを検討する価値がある、というヒントにはなります。
③ よくある“誤解パターン”
臨床でありがちな誤解をまとめると、
- 「四頭筋トレ=膝伸展のオープンキネティックチェーン」になっている
実際には、スクワット・ステップアップなどCKCでも四頭筋は十分鍛えられます。
- 「筋力↑=痛み↓が一直線」と思い込む
実際には、筋力があまり変わらなくても痛みが改善する試験も多く、
中枢性の鎮痛や運動恐怖の軽減など、他のメカニズムも関わっています。[2,3]
- 「どのくらいの強度・頻度で鍛えるか」を決めていない
「毎日10回くらい伸ばしておいてください」で終わると、研究で使われているようなトレーニング量からは程遠くなります。
四頭筋は「痛みの犯人」ではなく「関節のボディガード」
① 四頭筋が弱いとどうなる?OAの縦断研究から
変形性膝関節症(KOA)では、四頭筋の筋力低下が「よくある所見」なだけでなく、将来の構造変化や痛み悪化のリスクとも関連しています。
女性を対象としたMOSTコホートでは、四頭筋が弱い群ほど、30か月の追跡で膝関節裂隙の狭小化(JSN)が進みやすいと報告されています。[5]
日本のMatsudaiコホートでは、男女とも四頭筋が弱いほど、X線で新たに膝OAが出現するリスクが高い一方で、「進行」に関しては明確な関連がないとされています。[6]
OAIデータを用いた最近の研究では、ベースラインで四頭筋が強い女性ほど、1年間の追跡で軟骨損傷や骨髄病変、滲出性滑膜炎の悪化が少ないことが示されています。[7]
これらをまとめると、
● 四頭筋が弱い → 痛みや構造悪化のリスク↑
● 十分な四頭筋筋力は、「膝を守る要素」になっている
と解釈できます。
② 「膝が悪いから四頭筋は鍛えないほうがいい」は逆効果かも
臨床でよく聞く患者さんのセリフに、「膝がすり減ってるから、あんまり使わないほうがいいと言われた」があります。ですが、縦断研究の結果を見る限り、 使わなすぎて四頭筋が落ちること自体が将来的な痛み・OA発症のリスクになっている可能性が高いです。[5–7]
もちろん、急性炎症や明らかな腫脹がある時期に高負荷トレーニングをするのはNGです。
しかし、痛みをモニタリングしながら、許容範囲の負荷で、少しずつ四頭筋の「耐荷能力」を上げていくことは、中長期的には膝を守る方向の介入になります。
「四頭筋を鍛える」をアップデートする3つのチェックポイント
ここからは、明日からすぐ変えられる実践ポイントです。
1)評価:MMTだけで終わらせない
「四頭筋弱いですね」だけだと、処方がふわっとしたままです。
可能な範囲で、数値化+機能評価をセットにしましょう。
例)
- ハンドヘルドダイナモメータがあれば 膝伸展等尺性筋力(Nm/kg)を左右比較
- 器具がなければ 30秒椅子立ち上がりテスト、10回スクワットのフォームと痛み(NRS)
- 主観評価:階段昇降・しゃがみ込み・歩行距離など、患者さんが困っている動作をNRSや簡易尺度でスコア化
「どの動作で」「どの程度の負荷で」「どんな痛みが出るか」を押さえておくと、エクササイズの選択と負荷設定がグッと具体的になります。
2)トレーニング内容と負荷設計を具体化する
① 必要な“量”を意識する
KOA患者を対象に、5週間・週5日で等尺性四頭筋エクササイズ(+SLR+股関節内転)を行ったRCTでは、対照群と比べて四頭筋筋力の増加、痛みの軽減、機能(WOMAC)の改善が有意に大きかったと報告されています。[8]
ポイントは、
- 週5日・5週間という「そこそこしっかりした頻度・期間」
- ただし負荷は等尺性で、比較的安全に実施できる
というバランスです。
「毎日10回だけ膝伸ばしておいてください」は、研究で使われるトレーニング量からするとかなり少ないとイメージしておくと、処方の感覚が変わってきます。
② 強度は“高ければ高いほど良い”わけではない
膝OA患者を対象にしたRCTでは、四頭筋中心の筋力トレーニング(週3回、12週間)によって筋力や自覚症状・機能は改善したものの、歩行中の膝関節圧縮力や四頭筋の力学的指標(ピークフォースやパワー)は対照群と大きく変わらなかったと報告されています。[9]
つまり、四頭筋を鍛えても、必ずしも関節内の力学ストレスが跳ね上がるわけではないということです。
一方、膝OA患者377人を対象に、高強度レジスタンストレーニング、低強度レジスタンストレーニング、注意コントロール(教育など)を18か月比較した大規模RCTでは、高強度トレーニングは、低強度やコントロールと比べて膝痛の改善も膝関節圧縮力の低下も有意に優れてはいませんでした。[10]
この結果から言えるのは、「とにかく高強度でガンガン鍛えれば良い」わけではない
→ 患者が耐えられる範囲で、 中等度の強度を継続・漸増させる方が現実的ということです。
③ 実際の処方イメージ(ざっくり)
※あくまで例です。個々の患者の状態に合わせて調整が必要です。
例①:PFPS(若年・スポーツ愛好家)
- 目標:階段昇降やランニング時の痛み軽減
- 週2〜3回
ヒップアブダクション・エクスターナルローテーション(サイドステップ、クラムシェルなど)
スクワット/スプリットスクワット(可動域と深さは痛みとフォームを見ながら調整)
ステップダウン(小さい段差から)
- RPE 5〜7/10程度、各種目 8〜12回×2〜3セット
例②:変形性膝関節症(中高年、歩行は自立)
- 初期(痛み強め)
等尺性膝伸展(痛みの少ない角度で5〜10秒保持×10回)
椅子座位の膝伸展(軽い負荷)
- 改善期
椅子立ち上がり(Sit-to-Stand)
ステップアップ(台の高さは調整)
- 週3〜5日、痛みNRS 0〜3/10以内を目安に
3)痛みとの付き合い方と患者教育をセットにする
筋トレは「何をどれだけやるか」だけでなく、「痛みをどう説明し、どう付き合うか」がセットです。
① 痛みモニタリングのルールを共有する
例として、
- 運動中の痛みはNRS 0〜3/10までOK
- 運動後24時間以内に元の痛みレベルに戻ればOK
- 24時間以上強い痛みが続いたら、次回から負荷を少し下げる
といったルールを共有しておくと、「痛い=やってはいけない」から「少しの痛みは許容しつつ、徐々に強くなる」というマインドセットに変えやすくなります。
② 「四頭筋が弱いから全部ダメ」ではなく、「鍛えれば守ってくれる」
縦断研究からは、四頭筋が弱いほど、膝痛や関節変性のリスクが高い十分な筋力は、膝関節の構造を守る可能性があるというメッセージが読み取れます。[5–7]
患者さんには、
「今は四頭筋がちょっとサボり気味なだけで、
きちんと鍛えれば、膝を守ってくれる“ボディガード”になりますよ」
というポジティブなフレーミングで説明できると、トレーニングへのモチベーションも上がりやすくなります。
おわりに
「大腿四頭筋を鍛えましょう」という一言の裏には、
- どんな評価をして
- どの筋群をターゲットにして
- どんな強度・頻度で
- どのくらいの期間やるのか
という、かなり多くの前提が隠れています。
エビデンスを整理すると、四頭筋は膝にとって重要な「守りの筋」だけど四頭筋だけ見ていても不十分で、股関節・全体の運動戦略・負荷設計まで含めて考えることが大事だとわかります。
明日から、カルテの「指導内容」に「大腿四頭筋トレーニング」とだけ書くのではなく、「四頭筋&股関節トレ(椅子立ち上がり+サイドステップ) RPE 5〜7/10、週3回、痛みNRS 0〜3/10まで許容」くらいまで具体化してみてください。それだけで、「なんとなく筋トレ」から一歩抜け出せます。





















