脳卒中、歩行 、介助|2026.2.13|最終更新:2026.2.13|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 「麻痺側に荷重させる」は、脳卒中後の歩行の左右差にアプローチする上で狙われることが多い要素
- 立脚時間・ステップ長・前足部荷重など観察/計測できる指標に翻訳して介入を選ぶのがコツ
- 研究で用いられる具体手段を知ると誘導の引き出しが増える
序文
歩行練習でよく聞く「麻痺側に荷重させて」。
この声かけ、方向性としては間違いとは言い切れませんが、“何をどう変えたいのか”が曖昧なままだと再現性が出にくいのが落とし穴です。今回は、エビデンスで実際に使われている「麻痺側への荷重(=荷重配分の修正)」の考え方と、臨床で迷いにくくなるコツを整理します。
そもそも「麻痺側に荷重」は何を解決したいのか
脳卒中後の歩行では左右差(非対称性)がよくみられ、歩行速度と左右差の組み合わせがエネルギーコストに影響することが報告されています[1]。また、歩行の左右差はエネルギーコスト増加や転倒との関連が述べられています[2]。
ここで大事なのは、「麻痺側に荷重」はゴールではなく、左右差(例:麻痺側立脚が短い、麻痺側の荷重が浅い、ステップ長が偏る)を変えるための“手段”として位置づけることです。
実際、体重配分や重心位置を“見える化”する視覚フィードバックは、立位の左右対称性を高める方向に働くことが示されています[3]。
エビデンスで使われる「麻痺側への荷重を引き出す」3つの仕掛け
1)健側に“負荷を足す”ことで、相対的に麻痺側立脚を引き出す
歩行練習中に非麻痺側下肢へ負荷を追加して制約をかける方法は、体重支持や時間的左右差に対する効果を検討したランダム化試験があります[4]。
「麻痺側に乗って」ではなく、環境条件を変えて荷重配分を起こしやすくする発想です。
2)視覚フィードバックで「麻痺側のどこに、どれだけ」を具体化する
慢性期脳卒中で、麻痺側前足部への荷重をリアルタイムに視覚提示すると、歩行の対称性などが改善した報告があります[5]。
「もっと荷重」より、“見える指標”に変換して練習するのが研究デザインとしても採られています。
3)“誤差拡大”で左右差を学習的に変える(スプリットベルト)
スプリットベルト(左右でベルト速度が違う)では、左右差を意図的に増やして学習を起こし、その後の歩行で左右差を減らす戦略が使われます。反復したスプリットベルト練習でステップ長の左右差が改善した研究があります[6]。
トレッドミル(免荷あり/なし)については、システマティックレビューで歩行速度・耐久性の短期的改善は小さく示される一方、歩行自立の上乗せは一貫しにくいこと、また開始時に歩行可能な人が恩恵を受けやすいことがまとめられています[7]。
「合言葉」を“評価→狙い→手段”に落とす歩行誘導のコツ
コツ1:まず「荷重」を1つの指標に決める
同じ「麻痺側に荷重」でも、狙いは複数あります。研究でよくターゲットにされるのは例えば:
- 体重支持/時間的左右差(麻痺側に乗れる時間が短い、など)[4]
- 麻痺側前足部荷重(足底のどこに乗れているか)[5]
コツ2:指標ごとに“手段”を固定する(迷いにくくなる)
- 体重支持・時間的左右差 → 健側への負荷追加や条件操作[4]、視覚フィードバック[3]
- 前足部荷重 → リアルタイム視覚フィードバック[5]
- ステップ長左右差 → スプリットベルト(誤差拡大)[6]
コツ3:「荷重」だけで終わらせず、推進や強度にも目を向ける
歩行の改善を狙う介入では、麻痺側の推進(propulsion)をターゲットにしたアプローチ(例:最大速度歩行+麻痺側足関節へのFESを組み合わせる等)が報告されています[8]。
また、慢性期脳卒中で高強度のステップ練習が低強度より歩行能力と対称性の改善が大きいとする臨床試験もあります[9]。
おわりに
「麻痺側に荷重させる」は、方向としては多くの研究テーマと整合します。
ただし臨床では、“麻痺側に荷重”を、立脚時間・前足部荷重・ステップ長などの指標に翻訳して、手段(フィードバック/条件操作/誤差拡大)を選ぶと、歩行誘導が一気に再現可能になります。
参考文献
- Awad LN, Palmer JA, Pohlig RT, Binder-Macleod SA, Reisman DS. Walking speed and step length asymmetry modify the energy cost of walking after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2015;29(5):416-423. doi:10.1177/1545968314552528.
- Little VL, Perry LA, Mercado MWV, Kautz SA, Patten C. Gait asymmetry pattern following stroke determines acute response to locomotor task. Gait Posture. 2020;77:300-307. doi:10.1016/j.gaitpost.2020.02.016.
- Walker C, Brouwer BJ, Culham EG. Use of visual feedback in retraining balance following acute stroke. Phys Ther. 2000;80(9):886-895.
- Ribeiro TS, Souza E Silva EMG, Regalado ICR, da Silva ST, Sousa CO, Ribeiro KMO, Lindquist ARR. Effects of load addition during gait training on weight-bearing and temporal asymmetry after stroke: a randomized clinical trial. Am J Phys Med Rehabil. 2020;99(3):250-256. doi:10.1097/PHM.0000000000001314.
- Jung J, Choi W, Lee S. Immediate augmented real-time forefoot weight bearing using visual feedback improves gait symmetry in chronic stroke. Technol Health Care. 2020;28(6):733-741. doi:10.3233/THC-192016.
- Reisman DS, McLean H, Keller J, Danks KA, Bastian AJ. Repeated split-belt treadmill training improves poststroke step length asymmetry. Neurorehabil Neural Repair. 2013;27(5):460-468. doi:10.1177/1545968312474118.
- Mehrholz J, Thomas S, Elsner B. Treadmill training and body weight support for walking after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017;8(8):CD002840. doi:10.1002/14651858.CD002840.pub4.
- Awad LN, Reisman DS, Kesar TM, Binder-Macleod SA. Targeting paretic propulsion to improve poststroke walking function: a preliminary study. Arch Phys Med Rehabil. 2014;95(5):840-848. doi:10.1016/j.apmr.2013.12.012.
Hornby TG, Henderson CE, Plawecki A, Lucas E, Lotter J, Holthus M, et al. Contributions of stepping intensity and variability to mobility in individuals poststroke. Stroke. 2019;50(9):2492-2499. doi:10.1161/STROKEAHA.119.026254.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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