序文(はじめに)
「後輩の指導担当になったけど、自分の知識や技術に自信がない…」
「もし間違ったことを教えてしまったらどうしよう」
「答えられない質問をされたら、先輩として頼りなく思われるのではないか」
キャリアを重ね、後輩を指導する立場になったとき、このような「教えることへの怖さ」を感じる方は少なくありません。その恐怖心は、あなたがこれまで真摯に仕事に向き合ってきたからこそ芽生える、強い責任感の裏返しなのだと思います。決して、あなたの能力が不足しているわけではありません。
この記事では、そんな誠実さゆえの悩みを抱えるあなたに、少しだけ心が軽くなる3つの考え方をご紹介します。教えるという行為を「完璧な指導」から「共に成長するプロセス」へと捉え直すためのヒントです。
1.「完璧な答え」ではなく「一緒に考える姿勢」を見せる
私たちが「教える」という言葉から連想するのは、先生が生徒に一方的に正解を授ける姿かもしれません。この「指導者=正解を知る者」という思い込みが、「全ての質問に答えられなければならない」というプレッシャーを生み出します。
しかし、後輩が本当に求めていることは、必ずしも完璧な答えではありません。それ以上に、臨床現場で直面する答えのない問いに対して、「先輩はどのように考え、どのように向き合うのか」というプロセスそのものです。
もし答えに窮する質問をされたなら、正直に「それはとても良い視点だね。私自身も明確な答えは持っていないから、一緒に調べて考えてみない?」と伝えてみてください。その誠実な姿勢は、後輩に「分からなくてもいいんだ」という安心感を与えると同時に、専門職として最も重要な「探究し続ける力」を背中で示す、何よりの教育となります。
2.相手を「評価」するのではなく、相手の「行動」を具体的に伝える
後輩へのフィードバックで最も難しいことの一つは、相手を傷つけずに改善点を伝えることです。「あなたの〇〇なところは良くない」といった評価的な言葉は、相手の心を閉ざさせ、反発を招くことさえあります。
この恐怖心を乗り越えるために有効なことは、あなたの役割を「評価者(ジャッジ)」ではなく、「鏡(ミラー)」だと捉え直すことです。あなたの意見や評価を伝えるのではなく、ただ客観的な事実、つまり「相手の行動」と「それによって起きたこと」を具体的に描写するのです。
例えば、「説明が分かりにくい」と評価する代わりに、「あなたが〇〇と説明しているとき、患者さんは少し眉をひそめていたように見えたよ」と伝えてみる。事実を鏡のように映し出すことで、後輩は自ら「ああ、自分の説明は伝わりにくかったのかもしれない」と内省し、主体的に改善点を見出す機会を提供できます。
3.あなた自身の「失敗談」や「迷い」を自己開示する
「先輩として、弱みを見せてはいけない」「常にかっこよく、自信に満ち溢れた姿でいなければならない」というプレッシャーも、教えることへの恐怖心を増幅させます。しかし、後輩が親近感や信頼を寄せるのは、完璧な先輩ではなく、人間味のある先輩です。
後輩が何かに悩み、落ち込んでいるときこそ、あなた自身の経験を話す絶好の機会です。「その気持ち、すごく分かるよ。私も2年目の頃、同じようなことで本当に悩んで…」と、過去の失敗談や迷いを打ち明けてみてください。
あなたのその自己開示は、後輩にとって「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」という何よりの救いになります。完璧であろうとすることよりも、自分の弱さや不完全さを率直に認める勇気の方が、よほど後輩との信頼関係を築き、風通しの良い学びの場をつくるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「教えることが怖い」という感情は、あなたが誠実で、責任感の強い医療人である証です。その気持ちを、どうか否定しないでください。
完璧な指導者になろうとする必要はありません。「一緒に考え」「鏡のように事実を伝え」「自分の弱さを見せる」。あなたのそのありのままの姿が、後輩にとっては最高の道標となります。あなたは「教える専門家」なのではなく、同じ道を少しだけ先に歩いている「旅の仲間」なのです。
まずは明日、後輩の話を聞くときに、すぐに答えようとせず、「なるほど、一緒に考えてみようか」と一言添えることから始めてみませんか。その小さな一歩が、あなたと後輩の関係性を、そして職場の文化を、着実に変えていくはずです。
参考文献
Rose T. Dunn: Dunn and Haimann’s Healthcare Management, Eleventh Edition


