序文(はじめに)
「自分がいないと、現場の教育が止まってしまう」
「教える人によって言うことが違い、新人が混乱している」
「教育体制をつくりたいけれど、日々の業務に追われて、結局その場しのぎの指導になってしまう」
リーダーとして現場を牽引する皆さんなら、一度はこのような悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。「自分が頑張らなければ」という責任感で教育を支えている状態は、尊いことですが、同時にとても脆い状態でもあります。あなたが忙しくなったり、不在になったりした瞬間に、教育の質が維持できなくなってしまうからです。
教育を個人の「頑張り」に依存せず、組織として回り続ける「仕組み」にするためには、どうすれば良いのでしょうか。この記事では、忙しいリーダーが教育を自動化・標準化していくために必要な、3つの具体的なアプローチをご紹介します。
1.「やり方」ではなく「合格ライン(基準)」を統一すること
教育の属人化で最も多い悩みは、「A先輩とB先輩で言うことが違う」という問題です。これは、各スタッフがそれぞれの経験則(やり方)を教えてしまっていることが原因です。しかし、全員の指導方法を統一することは現実的ではありません。
そこでリーダーがすべきことは、やり方ではなく「ここだけは外せない」という「合格ライン(基準)」を統一することです。
例えば、移乗介助であれば「手順」を細かく統一するのではなく、「患者さんに不快な緊張が入っていないか」「安全確認の声かけがあったか」というクリアすべき基準だけを明確にします。基準さえ揃っていれば、そこに至るプロセスが多少異なっても、新人は混乱しませんし、教える側も迷いません。共通のゴール設定をすることは、仕組み化の第一歩です。
2.教育を「イベント」にせず、「カレンダー」に固定すること
「時間ができたら勉強会をしよう」「余裕があるときに教えよう」と考えているうちは、教育はいつまでたっても仕組みになりません。臨床現場において、「余裕がある時間」など永遠に訪れないからです。
教育を仕組みにするために不可欠なことは、内容を決める前に、まず「日時」をカレンダーに固定してしまうことです。
「毎月第3木曜日の17:30からは必ず30分間ケーススタディを行う」と決めてしまう。中身が決まっていなくても、枠だけを確保します。そうすることで、スタッフのリズムの中に「学ぶ時間」が組み込まれ、準備もその日に合わせて逆算して行われるようになります。意志の力に頼るのではなく、カレンダーの力に頼ることが、継続への近道です。
3. 「教える役割」を当番制にして回すこと
「教育=リーダーの仕事」という固定観念こそが、仕組み化を阻む最大の要因です。リーダー1人が教え続ける構造では、リーダーの負担が増すばかりか、スタッフが「教えてもらうお客さん」になってしまい、主体性が育ちません。
おすすめしたいことは、勉強会の講師や、朝礼でのワンポイント共有などを、若手も含めた「持ち回り制」にすることです。
「教えることは、最高の学ぶ機会」です。担当になったスタッフは、必死に調べ、言語化しようと努力します。リーダーの役割は、教えることではなく、そのローテーションを管理し、担当者をサポートすることにシフトします。全員が教育の当事者になる環境をつくることが、自走する組織への鍵となります。
おわりに
教育を仕組みにするということは、決して冷たいマニュアル管理にすることではありません。それは、特定の誰かが無理をしなくても、自然と学び合い、互いに高め合える「土壌」をつくることです。
「基準を統一すること」「時間を固定すること」「役割を回すこと」。これらは、リーダーであるあなたが最初に決断し、レールを敷くことで動き出します。
まずは、来月のカレンダーに、たった30分で構いませんので、定期的な学びの時間を書き込むことから始めてみませんか。その1本の線が、あなたの現場を「人が育ち続ける組織」へと変える大きな一歩となるはずです。あなたの行動が、チームの未来をつくります。
参考文献
Rose T. Dunn: Dunn and Haimann’s Healthcare Management, Eleventh Edition


