転倒、 転倒予防、認知症|2024.6.7|最終更新:2024.6.7|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 認知機能低下は転倒の危険因子
- 認知症に対して用いられる薬剤も転倒リスクを高める
- 複合的な介入が転倒予防に有効
認知症の転倒
前回は脳卒中患者の転倒についてまとめました。今回は認知症患者の転倒についてまとめていきます。認知症の一般的な特徴として記憶力の低下、判断力の欠如、注意力の散漫さ、問題解決能力の低下などが挙げられます。
これらの症状は、日常生活の様々な活動に影響を与え、特に歩行やバランスにも大きな影響を及ぼすことがあります。認知症患者は、歩行中や立ち上がる際に適切な判断や注意ができず、周囲の環境や自身の身体の状態を正確に把握できないことがあります。その結果、転倒や転倒につながる事故が起こる可能性が高くなります。さらに、認知症による運動機能の低下や筋力の減少も転倒リスクを増加させます。
このように、認知症と転倒との関連性は、認知機能の低下が身体機能にも影響を及ぼすことから深く関わっています。そのため、認知症患者のケアにおいては、認知機能の状態を考慮した適切な転倒予防策が重要となります。
認知症と転倒の関連性
アルツハイマー型認知症患者の転倒に関するメタ解析では、年間の転倒有病率は44.27%、年間転倒回数の平均は1.30回/人、年間の複数回の転倒率は42.08%、 転倒による負傷の割合は45.0%だったことが報告されています[1]。
認知機能と歩行に関するナラティブレビューでは、実行機能は歩行障害と関連しており、注意力、感覚統合、運動計画は、歩行機能障害による転倒リスクに関連し、認知の柔軟性、判断力、抑制制御は、リスクを取る行動してしまうことで転倒リスクと関連していることが報告されています[2]。
軽度認知機能障害(MCI)または初期認知症患者の転倒リスクに関する統合的レビューでは、MCIや初期認知症患者は歩行、バランス、転倒恐怖が悪化しており、転倒リスクが高くなっていることが報告されています[3]。
認知機能障害を有する高齢者の転倒リスクに関するシステマティックレビューでは、疾患特有の運動障害、視力障害、認知症の種類と重症度、行動障害、機能障害、転倒歴、神経弛緩薬、骨密度の低さが転倒のリスク因子だったことが報告されています[4]。
介護施設入所高齢者の転倒リスクに関するメタ解析では、認知症は低~中等度の転倒リスク因子だったことが報告されています[5]。
自立歩行が可能な高齢者90人を対象に、認知機能障害と歩行安定性の関連性を調査したところ、筋骨格系の問題の影響に関係なく、認知機能障害は初期段階であっても、平衡感覚や歩行に悪影響を与える可能性があることが報告されています[6]。
MCI、認知症、2つ以上の慢性疾患を有する患者10698人を対象に、抗コリン薬の使用と転倒や転倒による傷害のリスクとの関連性を調査したところ、抗コリン薬負荷が高いと転倒や転倒による傷害のリスクが高くなることが報告されています[7]。
以上をまとめますと、認知症患者の転倒に関する先行研究では、年間の転倒発生率は44.27%、転倒回数の平均は1.30回/人、転倒による負傷の割合は45.0%であり、認知機能の低下や歩行障害が転倒リスクと関連しています。認知機能障害を有する高齢者では、歩行能力やバランス能力の悪化、その他様々な要因によって転倒リスクが高くなっています。また、抗コリン薬の使用も転倒や転倒による傷害のリスクを増加させることが報告されています。これらの研究から、認知症患者の転倒予防には認知機能だけでなく全身的なサポートや適切な医薬品管理が重要であることが示唆されています。
認知症の転倒対策
地域在住の軽度から中等度の認知症患者の転倒予防に関するメタ解析では、運動や多要素による転倒予防介入は、転倒恐怖、バランス、Timed Up and Go(TUG)テスト、歩行制御の改善に有効だったことが報告されています[8]。
認知機能が低下している高齢者の転倒予防に関するレビューでは、認知トレーニング、デュアルタスクトレーニング、仮想現実が転倒リスクの軽減に有効な可能性があることが報告されています[9]。
アルツハイマー病患者22人を対象に、介護者とともに参加する16週間の太極拳プログラムの効果を調査したところ、介入により片脚立位時間やTUGテストが改善したことが報告されています[10]。
デイケアセンターの認知症患者80人を対象に、30分×週2回×12週間の動物介在活動の効果を調査したところ、介入群でBerg balance scaleのスコアが改善したことが報告されています[11]。
介護施設に入所している軽度から中等度の認知症患者221人を対象に、1時間×週2回×25週間の漸増的レジスタンストレーニングとバランストレーニングのプログラムの効果を調査したところ、介入群ではバランス能力が向上し、転倒率は50%、転倒リスクは31%、複数回の転倒は40%、負傷を伴う転倒は44%減少したことが報告されています[12]。
以上をまとめますと、認知症患者の転倒対策に関する先行研究から明らかになった重要なポイントは、運動や多要素による介入が効果的であることです。具体的には、認知トレーニングやデュアルタスクトレーニング、太極拳プログラム、動物介在活動、漸増的レジスタンストレーニングとバランストレーニングのプログラムが転倒予防に有効であることが示されています。これらのアプローチは、バランスや歩行制御の改善に寄与し、転倒率や転倒に伴う負傷のリスクを減少させることが期待されます。
おわりに
今回は、認知症の転倒についてまとめました。認知症患者の転倒リスクに関する理解を深めることは、安全と生活の質を向上させる上で重要です。
認知症と転倒との関連性を理解し、適切な介入や予防策を講じることで、認知症患者だけでなく、その家族の安心感も得ることができます。認知症患者やその家族の生活の質を高めるために、転倒に対する総合的な介入が大切です。
参考文献
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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