転倒、 脳卒中、バランストレーニング|2024.5.31|最終更新:2024.5.31|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 脳卒中患者の転倒リスクは年々増加する
- 転倒リスクには様々な因子が関連している
- 転倒予防には、道具を用いた介入も有効
序文
前回はフレイル高齢者の転倒についてまとめました。今回は脳卒中患者の転倒についてまとめていきます。脳卒中患者における転倒は、患者の生活の質を大きく損なう原因の一つです。転倒は重大な傷害を引き起こすリスクがあり、特に退院後の患者の安全と再発防止において重要な課題となっています。ここでは、脳卒中後の患者が直面する転倒のリスクについて、最新の研究成果とその予防策を取り上げ、医療従事者が実践できる介入手法の一部をご紹介いたし
脳卒中患者の転倒
リハビリ施設を退院した脳卒中患者1861人を対象に、退院後の転倒関連骨折の発生率を調査したところ、1年~5年までの各年の転倒関連骨折の累積発生率は4.2%, 7.9%, 10.8%, 12.5%、13.7%で、女性と重度の下肢麻痺が重要な危険因子だったことが報告されています[1]。
脳卒中患者52人を対象に、転倒リスクについて調査したところ、転倒リスクがある人は50%で、NIHSS>4が転倒リスクの増加と関連した因子だったことが報告されています[2]。
脳卒中患者751人、認知症患者369人、脳卒中と認知症併存患者141人を対象に、転倒有病率を調査したところ、脳卒中患者、認知症患者、脳卒中と認知症併存患者の順で転倒リスクが高かったことが報告されています[3]。
高齢脳卒中患者302人を対象に、転倒恐怖と転倒の関連性を調査したところ、転倒恐怖は直接的に転倒と関連しており、身体活動、バランス機能、抑うつ、転倒歴、女性が転倒恐怖を介して間接的に転倒と関連していたことが報告されています[4]。
脳卒中患者132人を対象に、転倒による影響をインタビュー調査したところ、退院後6か月で転倒を経験した人は活動や参加の制限、生活依存の増加、転倒恐怖の増加を経験していたことが報告されています[5]。
脳卒中患者9087人を対象に、不眠や睡眠薬の使用と転倒リスクとの関連性を調査したところ、不眠症も睡眠薬の使用もない人と比較して、いずれかまたはどちらも該当する人は重篤な転倒による外傷のリスクが高かったことが報告されています[6]。
以上をまとめますと、脳卒中患者の退院後の転倒と骨折のリスクは、時間が経つにつれて増加し、特に女性や重度の下肢麻痺がリスク因子です。転倒リスクはNIHSSスコアが4を超える場合に高まり、脳卒中と認知症の併存がリスクを高めることが確認されています。また、転倒恐怖は転倒リスクと直接的に関連し、活動制限や生活依存の増加につながります。さらに、不眠や睡眠薬の使用も転倒リスクを高めることが示されています。
脳卒中患者への転倒予防介入
脳卒中患者74人を対象に、3か月の高強度トレーニング、多方面の体幹運動、二重課題練習介入の効果を調査したところ、介入群ではバランス能力が向上し、転倒リスクが低下したことが報告されています[7]。
脳卒中患者20人を対象に、Nintendo® Wii Fit バランストレーニング、トレッドミルとVR、VRを用いた姿勢トレーニングの効果を調査したところ、VRを用いた姿勢トレーニングはBBSとTUG、VRとトレッドミルはTUGの改善に有効だったことが報告されています[8]。
慢性期脳卒中患者84人を対象に、60分×週3回×8週間のデュアルタスク、シングルタスク、上肢トレーニングそれぞれの効果を調査したところ、デュアルタスクトレーニングは対照群と比較してデュアルタスク歩行が改善し、転倒発生率は25%、転倒による外傷は22.2%減少したことが報告されています[9]。
脳卒中患者30人を対象に、15分間の足底への振動刺激の効果を調査したところ、振動刺激群はプラセボ群と比較して、転倒リスクや姿勢安定性が改善していたことが報告されています[10]。
脳卒中患者20人を対象の、距骨安定化テーピングを行った状態での5分間の歩行の効果を調査したところ、裸足やテーピング装着直後と比較して、転倒リスク、足関節背屈他動可動域、歩行速度、片肢支持期、両脚支持期、TUGが改善したことが報告されています[11]。
以上をまとめますと、脳卒中患者の転倒予防に対する介入として、高強度トレーニングや多方面の体幹運動、二重課題練習が効果的であり、バランス能力の向上と転倒リスクの低下が確認されています。また、VRを用いた姿勢トレーニングやトレッドミルを併用した訓練は、特に歩行テストの改善に有効でした。デュアルタスクトレーニングは転倒発生率や外傷の減少に寄与し、足底への振動刺激や距骨安定化テーピングも転倒リスクや姿勢安定性の改善に効果を示しています。
おわりに
今回は脳卒中患者の転倒についてまとめました。脳卒中患者の転倒予防は、単に外傷を避けるだけではなく、患者の自立を促進し、生活の質を向上させるためにも重要です。今回紹介した転倒リスクや介入手法についての情報は、現場における転倒予防の取り組みを強化し、患者さん一人ひとりのニーズに合わせたケアを提供するための一助になると思います。
参考文献
[1]
Kumagai, et al. Cumulative Risk And Associated Factors For Fall-Related Fractures In Stroke Survivors After Discharge From Rehabilitation Wards: A Retrospective Study With A 6-Year Follow-Up. J Rehabil Med. 2022 Jun 29:54:jrm00294.
[2]
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[3]
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[4]
Chen, et al. Relationship between fear of falling and fall risk among older patients with stroke: a structural equation modeling. BMC Geriatr. 2023 Oct 11;23(1):647.
[5]
Schmid, et al. Consequences of poststroke falls: activity limitation, increased dependence, and the development of fear of falling. Am J Occup Ther. 2009 May-Jun;63(3):310-6.
[6]
Thomas, et al. Insomnia Diagnosis, Prescribed Hypnotic Medication Use, and Risk for Serious Fall Injuries in the Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke (REGARDS) Study. Sleep. 2022 May 12;45(5):zsac063.
[7]
Ahmed, et al. Effects of intensive multiplanar trunk training coupled with dual-task exercises on balance, mobility, and fall risk in patients with stroke: a randomized controlled trial. J Int Med Res. 2021 Nov;49(11):3000605211059413.
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Iruthayarajah, et al. The use of virtual reality for balance among individuals with chronic stroke: a systematic review and meta-analysis. Top Stroke Rehabil. 2017 Jan;24(1):68-79.
[9]
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[10]
Önal, et al. Immediate Effects of Plantar Vibration on Fall Risk and Postural Stability in Stroke Patients: A Randomized Controlled Trial. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2020 Dec;29(12):105324.
[11]
Park, et al. Effects of Walking With Talus-Stabilizing Taping on Passive Range of Motion, Timed Up and Go, Temporal Parameters of Gait, and Fall Risk in Individuals With Chronic Stroke: A Cross-sectional Study. J Manipulative Physiol Ther. 2021 Jan;44(1):49-55.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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