転倒、フレイル、運動|2024.5.24|最終更新:2024.5.24|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- フレイルは転倒リスクを高める
- 認知フレイルも転倒のリスク因子
- 転倒予防には多要素を含む運動が有効
序文
前回までは、様々な背景を持つ方の社会性についてまとめてきました。今回はフレイル高齢者の転倒についてまとめていきます。高齢者のフレイルは、転倒リスクを増加させる要因の一つです。転倒により骨折や頭部外傷などのリスクが高まるため、転倒予防は重要な健康管理の一環となります。フレイル高齢者の安全と健康を守るために、転倒リスクと有効な介入方法を知ることが大切です。
フレイルと転倒
フレイルと転倒との関連性を調査したメタ解析では、フレイルの人は健常者よりも転倒リスクが高く、男性の方が女性よりも転倒リスクが高かったことが報告されています[1]。
地域在住高齢者2469人を対象に、追跡期間48か月のフレイルと転倒、転倒恐怖との関連性を調査したところ、フレイルの人は転倒リスクが高く、転倒恐怖も高かったことが報告されています[2]。
地域在住中高齢者28285人を対象に、フレイルと転倒回数や転倒関連傷害の関連性を調査したところ、フレイルの人は非フレイルの人と比較して、転倒回数が多く、転倒関連傷害の発生率も高かったことが報告されています[3]。
地域在住高齢者311人を対象に、フレイル、身体活動、転倒、骨折の関連性を調査したところ、フレイルの人は非フレイルの人よりも、転倒や骨折リスクが高くなっていましたが、身体活動は転倒や骨折リスクと関連していなかったことが報告されています[4]。
認知的フレイルと転倒の関連性を調査したメタ解析では、認知的フレイルの人の転倒発生率は36.3%で、認知的フレイルの人は身体的フレイル単独または認知機能障害単独の人よりも転倒リスクが高かったことが報告されています[5]。
高齢者を対象に転倒再発のリスク因子を調査したメタ解析では、バランスおよび可動性、使用薬剤、精神心理面、感覚および神経筋機能といったフレイル指標の一部が、転倒再発のリスク因子だったことが報告されています[6]。
以上をまとめますと、フレイルの人は健常者よりも転倒リスクが高く、男性の方が女性よりも転倒リスクが高い傾向があります。さらに、フレイルの人は転倒回数が多く、転倒関連傷害の発生率も高くなります。認知的フレイルの人も転倒リスクが高く、身体的フレイルや認知機能障害単独の人よりも転倒が多くなる可能性があります。転倒再発のリスク因子としては、バランスや可動性、使用薬剤、精神心理面、感覚および神経筋機能が関連している可能性があります。
フレイルの転倒予防介入
フレイル高齢者の転倒に対する運動の効果を調査したシステマティックレビューでは、多要素運動、レジスタンストレーニング、太極拳が転倒発生率の減少に有効だったことが報告されています[7]。
フレイルまたはプレフレイル高齢者に対する運動介入の効果を調査したシステマティックレビューでは、レジスタンストレーニング、有酸素運動、バランス運動、柔軟性運動などの複数の要素を含む運動が筋力、歩行速度、バランス、身体パフォーマンスの改善に有効であることが報告されています[8]。
地域在住高齢者に対する全身振動刺激の有効性を調査したシステマティックレビューでは、全身振動刺激によってバランス能力が向上し、特にフレイル高齢者で効果的な可能性があることが報告されています[9]。
地域在住高齢者278人を対象に、20週間の運動プログラム(機能的ウォーキングまたはバランス運動)の効果を調査したところ、プレフレイルの人では転倒リスクが減少し身体パフォーマンスが向上していましたが、フレイル状態の人では効果が認められなかったことが報告されています[10]。
プレフレイル高齢者72人を対象に、週3日×12週間にマルチシステム身体運動介入(固有受容感覚トレーニング、筋力強化、反応時間トレーニング、バランストレーニング)の効果を調査したところ、転倒リスク、固有受容感覚、筋力、反応時間、姿勢動揺、転倒恐怖スコアが改善したことが報告されています[11]。
以上をまとめますと、フレイル高齢者の転倒予防には、多要素運動やレジスタンストレーニング、太極拳などが効果的であり、運動介入は筋力、歩行速度、バランス、身体パフォーマンスの改善に役立ちます。また、全身振動刺激や機能的ウォーキング、バランス運動などの運動プログラムも転倒リスクの減少や身体パフォーマンスの向上に有効です。ただし、フレイル状態の高齢者には運動の効果が限定的である可能性も指摘されています。
おわりに
今回はフレイル高齢者の転倒リスクと運動介入についてまとめました。転倒による骨折や頭部外傷は、高齢者にとって回復が難しく、生活の質を著しく低下させることがあります。さらに、転倒による怪我は、高齢者の自信や意欲を損なうことがあり、社会的な孤立や抑うつのリスクを高める可能性があります。そのため、医療者や介護者は、高齢者の転倒リスクを評価し、適切な予防策を提供することで、高齢者の安全と健康を守ることが大切です。
参考文献
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Gameren, et al. Physical activity as a risk or protective factor for falls and fall-related fractures in non-frail and frail older adults: a longitudinal study. BMC Geriatr. 2022 Aug 22;22(1):695.
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[11]
Chittrakul, et al. Multi-System Physical Exercise Intervention for Fall Prevention and Quality of Life in Pre-Frail Older Adults: A Randomized Controlled Trial. Int J Environ Res Public Health. 2020 Apr 29;17(9):3102.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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