社会的フレイル、心疾患、社会参加|2024.3.22|最終更新:2024.3.22|理学療法士が執筆・監修しています
序文
前回は脳卒中患者の社会的フレイルについてまとめました。今回は心血管疾患患者さんの社会的フレイルについてまとめていきます。心血管疾患は、高い死亡率や障害の原因となる重篤な疾患です。これまでは身体機能や心機能が予後に与える影響について議論されることが多くありましたが、社会的な孤立や不安、ストレスなどの問題を抱える人が多く、そのことが予後に影響を与えることが明らかになってきています。心血管疾患患者の社会的フレイルに焦点を当て、その重要性や対応策についてまとめていきます。
心疾患患者の社会性
地域在住高齢女性57,825人を対象に、社会的孤立や孤独と心血管疾患との関連を調査したところ、社会的孤立や孤独の状態が重度な人は、心血管疾患発症リスクが13.0%~27.0%高かったことが報告されています[1]。
70歳以上の地域在住高齢者11,486人を対象に、社会的健康状態(社会的孤立、孤独、社会的サポート)と心血管疾患リスクとの関連を調査したところ、社会的健康状態が不良の人は心血管疾患発症リスクが45%高く、サブ解析では社会的孤立と社会的サポートの低さが心血管疾患発症リスクと関連していたことが報告されています[2]。
65歳以上の心血管疾患患者1,267人を対象に、社会面と死亡リスクとの関連を調査したところ、社会的孤立は死亡リスクと関連していましたが、孤独は死亡リスクと関連していなかったことが報告されています[3]。
心血管疾患患者を対象に、社会的健康状態と心血管疾患後の精神的健康状態との関連を調査したシステマティックレビューでは、社会的健康状態がが良好な人は精神的健康状態も良好であり、社会的孤立の減少と社会的サポートの増加は心血管疾患患者のニーズの充足と関連していたことが報告されています[4]。
心血管疾患患者を対象に、社会的健康状態と心血管疾患後の健康状態の関連を調査したシステマティックレビューでは、社会的サポートが充実していると退院先、外来リハビリテーションへの参加、再入院、生存率を改善することが報告されています[5]。
社会的決定要因と心血管疾患との関連性を調査したアンブレラレビューでは、社会/コミュニティの状況や近隣/建築環境が心血管疾患と関連していることが報告されています[6]。
中年女性1602人を対象に、社会的役割に関連するストレスと無症候性心血管疾患との関連性を調査したところ、社会的役割に関連するストレスが多い人は、ストレスがない人と比較して、アテローム性動脈硬化が進行していることが報告されています[7]。
心血管疾患のない一般成人4139人を対象に、追跡期間13.4年における社会的関係性と心血管イベントの関連性を調査したところ、経済的支援の不足は心血管イベントの増加と関連していたことが報告されています[8]。
以上のことから、高齢者や心血管疾患患者において、社会的孤立や孤独が心血管疾患発症や死亡リスクと関連していることが示唆されています。また、社会的健康状態が良好で社会的サポートが充実していると、心血管疾患後の健康状態が改善する可能性があることが示されています。社会的な状況やストレスが心血管疾患に影響を与える可能性があることも示唆されています。
そのため、以下の点を考慮する必要があります。
- 高齢者や心血管疾患患者に対して、定期的に社会的孤立や孤独のスクリーニングを行い、リスクが高い人を特定する。
- 心血管疾患患者の心理的健康状態を評価し、必要に応じて心理的なサポートを提供する。
- 心血管疾患の治療や予防において、患者の社会的な状況やストレス要因を考慮する。
- 心血管疾患の予防活動において、社会的要因や環境の改善が重要であることを認識し、地域社会全体での取り組みを推進する。
心疾患患者の社会性への介入
18歳以上の一般成人では、社会的統合(個人と社会とのつながりの程度)により、心血管疾患死亡率が33%低下することが報告されています[9]。
地域在住一般成人11418人を対象に、社会活動と心血管疾患との関連性を調査したところ、ボランティア活動をしている女性、地域でインフォーマルな他者支援を行っている男性は、それぞれを行っていない人と比較して、心血管疾患リスクが低かったことが報告されています[10]。
全国調査に登録されている高齢者4582人を対象に、社会参加と高血圧との関連性を調査したところ、水平組織(非階層的で平等主義的な関係)への少なくとも月1回参加すると、高血圧の有病率が少なかったことが報告されています[11]。
心血管リスク因子を有する50歳以上の成人352人を対象に、7週間の慢性疾患課題に対処するための社会参加フレームワーク 介入(SEFAC:マインドフルネスに基づくセッション、社会的サポート、アプリによる健康サポート)の効果を調査したところ、自己効力感、ストレス、社会的サポート、抑うつ症状、自己評価の健康状態が改善したことが報告されています[12]。
これらの研究結果から、社会的活動や社会参加が心血管疾患患者にとって重要であることが示唆されています。特に、ボランティア活動や他者支援などの社会的活動が心血管疾患リスクを低減させる可能性があります。また、社会参加が高齢者の高血圧リスクを減少させる効果も示されています。心疾患患者に対しては、社会的統合や社会活動の促進を通じて、心血管疾患の予防や管理に効果的な支援を提供することが重要であると考えられます。
そこで、以下のような関わりを持つこと
- 社会的活動やボランティア活動への参加をし、地域のコミュニティや団体と連携し、患者の社会的なつながりを支援する。
- 社会的な活動や参加に不安を感じる患者には、心理的なサポートを提供する。カウンセリングや心理教育を通じて、自己効力感やストレス管理を支援する。
- 社会的活動が心血管疾患に及ぼす影響について、患者や家族に適切な情報を提供する。健康的な生活習慣や社会的参加の重要性を説明し、行動変容を促す。心疾患患者のケアにおいて、医療者だけでなく、社会福祉士や心理カウンセラーなどの専門家と連携し、総合的な支援を提供する。
- 心血管疾患リスクの高い患者を対象に、社会参加を含む健康プログラムを実施し、予防効果を高める。
おわりに
今回は心疾患患者さんの社会的フレイルについてまとめました。心血管疾患の治療や管理において、身体的な側面だけでなく、社会的な側面も重要です。社会的フレイルに対して適切に対処することは、患者の生活の質を向上させるだけでなく、心血管疾患の予防や管理にも有効です。社会的フレイルへの理解を深め、適切な支援を提供していくことが重要です。