社会的フレイル、認知症、社会的サポート|2024.4.5|最終更新:2024.4.5|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 社会性の低下は認知症のリスク因子
- 社会的介入は認知症リスクを下げる
- 社会的介入は認知症患者のQOLも向上させる
序文
前回は呼吸器疾患の社会性についてまとめました。今回は、認知症の社会性についてまとめます。認知症は、高齢者の社会性の低下と密接に関連しており、その影響は患者本人だけでなく、家族や地域社会にも及びます。社会的なつながりの喪失は、認知機能のさらなる低下を加速し、孤独感や抑うつを引き起こす可能性があります。ここでは、認知症における社会性の重要性と、社会的関与を促進することによって認知症患者の生活の質を向上させるための戦略に焦点を当て、医療者が認知症患者の社会的なつながりを支援し、孤立を防ぐための実践的なアプローチを提案し、患者とその家族が直面する社会的な課題に対処するための方法を探ります。
認知症患者の社会性
社会的関係性と認知症発症との関連性を調査したメタ解析では、社会参加が少ない、社会的接触が少ない、孤独感が大きいことが、認知症発症と関連していることが報告されています[1]。
社会的統合と認知症リスクとの関連性を調査したメタ解析では、社会的関与が強いこと、社会的接触の頻度が高いこと、社会的ネットワークの規模が大きいことが認知症リスク減少と関連していたそうです[2]。
地域在住高齢者13623人を対象に、孤独と軽度認知機能障害(MCI)との関連性を調査したところ、孤独はMCIと関連していることが報告されています[3]。
バイオバンク登録者462619人を対象に、社会的孤立と認知症発症リスクの関連を調査したところ、社会的孤立は認知症発症リスク増加と関連しており、社会的孤立状態の人は側頭葉、前頭葉、海馬などの灰白質容量が低かったことが報告されています[4]。
認知機能が正常の地域在住成人1,203人を対象に、社会的ネットワークと認知症発症との関連性を調査したところ、社会的ネットワークが脆弱または限定的であると認知症のリスクが 60% 増加することが報告されています[5]。
以上より、認知症と社会性の関連性についての研究は、社会的関係性が認知症リスクに大きな影響を与えることを示しています。社会参加が少ない、孤独感が大きいと認知症のリスクが高まる一方で、社会的関与が強い、社会的ネットワークが広いことはリスク減少と関連しています。したがって、社会的なつながりを保ち、積極的に社会参加をすることが、認知症の予防に役立つ可能性があります。
認知症患者の社会性への介入
社会的関与と認知症リスクの関連性を調査したメタ解析では、社会的関与が良好であることは、10年の追跡期間中の認知症リスクに対して保護効果があったそうです[6]。
認知症患者に対するテクノロジー介入が社会性に与える効果を調査したシステマティックレビューでは、ICTベースの介入が認知症患者の社会的行動の促進に有効であることが報告されています[7]。
認知症患者の社会的なつながりに対するタブレットやモバイルアプリケーションの効果を調査したシステマティックレビューでは、タブレットやモバイル アプリケーションベースの介入は、オンラインとオフラインの両方で社会的つながりを強化し、認知症患者にさまざまな種類の社会的サポートを提供することができることが報告されています[8]。
認知症患者の自己管理や社会参加に対してのテクノロジー介入の効果を調査したシステマティックレビューでは、仮想現実、ウェアラブル、ソフトウェア アプリケーションによる介入がMCIおよび認知症患者の自己管理や社会参加に有効であることが報告されています[9]。
認知症高齢者に対するソーシャルロボット介入の効果を調査したシステマティックレビューでは、ソーシャルロボットの使用は基本的な活動と移動、安全性、ストレス軽減に有効なことが報告されています[10]。
認知症患者に対する社会的サポートグループ介入の効果を調査したシステマティックレビューでは、社会的サポート介入は認知症患者の抑うつ症状を改善させ、生活の質や自尊心を向上させる効果があることが報告されています[11]。
50歳以上の地域在住高齢者32715人を対象に、社会参加と軽度認知機能障害(MCI)の関連性を調査したところ、社会参加スコアが高いほど、MCIリスクが減少することが報告されています[12]。
地域在住高齢者4834人を対象に、社会参加と認知機能との関連性を調査したところ、社会参加は認知機能に対して交差遅延効果があったことが報告されています[13]。
地域在住高齢者29374人を対象に、社会参加と認知症発症リスクとの関連性を調査したところ、社会参加を行っている人は認知症発症リスクが低いことが報告されています[14]。
以上より、認知症への社会的介入に関する研究では、社会的関与が良好であることや、テクノロジー介入が認知症リスクの減少や患者の社会的行動の促進に有効であることが示されています。特に、ICTベースの介入、ソーシャルロボットの使用、社会的サポートグループの活用は、認知症患者の自己管理や社会参加を向上させ、生活の質や自尊心を向上させる効果があると報告されています。これらの社会的介入は、認知症の予防と管理において有望なアプローチとして注目されています。
おわりに
今回は認知症の社会性についてまとめました。社会性の低下は認知症患者の生活の質に深刻な影響を与えますが、医療者は患者の社会的なつながりを支援し、孤立を防ぐことでその影響を軽減できます。認知症患者に対する包括的なケアは、単に医学的な治療にとどまらず、社会的な側面も重要であることを認識しましょう。医療者は、患者が地域社会に参加し、人間関係を維持するための支援を提供することが重要です。最終的に、認知症患者の社会性を高めることは、彼らの尊厳を守り、より充実した人生を送るための鍵となります。
参考文献
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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