社会的フレイル、抑うつ、社会的サポート|2024.5.10|最終更新:2024.5.10|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 抑うつ状態の人は社会性が低下している
- 社会性の低下は、抑うつのリスク因子
- 社会的サポートは抑うつ改善に有効
序文
前回は排尿障害を有する人の社会性についてまとめました。今回は、抑うつ症状を有する人の社会性についてまとめます。高齢者の抑うつは、単なる心の問題にとどまらず、身体的健康や生活の質にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に、高齢者における社会的孤立や人間関係の希薄化は、抑うつのリスクを高めると言われています。そのため、高齢者の抑うつ状態を早期に発見し、適切な支援を提供することが重要です。高齢者の抑うつ問題への対応は、単に医療的なアプローチにとどまらず、社会的な支援の充実が求められるため、医療者には広い視野と総合的な対応が求められます。
抑うつと社会性
地域在住高齢者の抑うつと社会関係の関連性を調査したシステマティックレビューでは、社会的サポート、人間関係の質、親友の存在が抑うつと関連する要因であることが報告されています[1]。
地域在住高齢者274人を対象に、抑うつと社会的交流との関連性を調査したところ、抑うつ状態の人は精神的に健康な人と比較して、社会的交流が著しく少ないと訴える人が多いことが報告されています[2]。
地域在住高齢者1697人を対象に、社会的フレイルの関連因子を調査したところ、社会的フレイルは抑うつと関連していることが報告されています[3]。
地域在住高齢者3835人を対象に、4年間の追跡期間中に、身体的、精神的、社会的のそれぞれのフレイルと抑うつ症状発症との関連性を調査したところ、社会的フレイルのみが抑うつ症状発症と関連していたことが報告されています[4]。
うつ病高齢患者213人と健常高齢者183人を対象に、社会的リズム(概日リズム)や社会的サポートとうつ病との関連性を調査したところ、うつ病高齢患者の方が社会的リズムの規則性が低く、社会的サポートと社会的リズムの規則性に関連はなかったことが報告されています[5]。
うつ病患者193人を対象に、18ヶ月後の主観的または客観的な社会的サポートに関連する因子を調査したところ、うつ病エピソードに費やす時間が長いほど主観的な社会的サポートが低くなり、臨床症状の改善とともに主観的な社会的サポートが改善しても、客観的な社会的サポートは改善していなかったことが報告されています[6]。
以上をまとめますと、地域在住高齢者の研究では、抑うつ状態の人は社会的サポートや人間関係の質が低く、社会的交流も少ない傾向があります。また、社会的フレイルは抑うつと関連しており、社会的フレイルのある人は抑うつ症状の発症リスクが高いことが示されています。うつ病患者は、社会的リズムの規則性が低く、うつ病の期間が長いほど主観的な社会的サポートが低下する傾向にあります。しかし、臨床症状が改善しても、客観的な社会的サポートは必ずしも改善しないことが指摘されています。
抑うつ状態の人の社会性への介入
地域在住の抑うつ高齢者に対する社会的支援、社会参加、社会的つながり/ネットワークの介入効果を調査したメタ解析では、いずれの介入方法で抑うつ症状の改善が認められたことが報告されています[7]。
抑うつ症状を有する成人に対する作業ベース介入や認知行動療法ベースの介入の効果を調査したシステマティックレビューでは、いずれの介入でも積極的な行動変容をサポートし、抑うつ症状を軽減することで社会参加を促進することができることが報告されています[8]。
18歳から71歳の軽度から中等度の抑うつ患者946人を対象に、12週間の認知行動療法、通常ケア、運動のみの介入の効果を調査したところ、社会的関係の利用が増加した人では、少なかった人よりも抑うつ症状の改善が高かったことが報告されています[9]。
地域在住高齢者350人を対象に、抑うつと社会的サポートとの関係性を調査したところ、重要な他者や家族からの社会的サポートの利用が多いと、抑うつの重症度が低いことが報告されています[10]。
地域在住高齢者400人を対象に、抑うつ症状に影響を与える社会的因子を調査したところ、友人や近所の人からのサポートが抑うつ症状の軽減と関連していることが報告されています[11]。
以上をまとめますと、抑うつ状態の人に対する介入方法として、社会的支援、社会参加、社会的つながりやネットワークの強化が効果的であることが研究で示されています。特に、地域在住の高齢者を対象とした研究では、これらの介入によって抑うつ症状が改善されたことが報告されています。また、作業ベースや認知行動療法ベースの介入も、積極的な行動変容をサポートし、社会参加を促進することで抑うつ症状を軽減することができるとされています。さらに、友人や家族からの社会的サポートが多いほど、抑うつの重症度が低くなる傾向にあることが分かっています。これらの介入によって、社会的関係の利用が増加し、抑うつ症状の改善が期待できます。
おわりに
今回は、抑うつ症状を有する人の社会性についてまとめました。高齢者の抑うつは単なる心の問題ではなく、社会的な側面も大きく関わっています。高齢者一人ひとりの生活背景や人間関係を理解し、心と体、そして社会とのつながりを重視した包括的な支援を心がけることが求められます。地域社会との連携を強化し、高齢者が安心して暮らせる環境を整えることが、抑うつ予防と健康な高齢期を支える鍵となります。医療者一人ひとりの寄り添う姿勢と専門的な知識が、高齢者の心の健康を守る重要な役割を果たします。
参考文献
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Tsutsumimoto, et al. Social Frailty Has a Stronger Impact on the Onset of Depressive Symptoms than Physical Frailty or Cognitive Impairment: A 4-Year Follow-up Longitudinal Cohort Study. J Am Med Dir Assoc. 2018 Jun;19(6):504-510.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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