社会的フレイル、大腿骨近位部骨折、社会的サポート|2024.4.12|最終更新:2024.4.12|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 大腿骨近位部骨折患者では、社会性は機能改善の阻害因子
- 社会性は生命予後にも影響する
- 社会的サポートは予後の改善に有効
序文
前回は、認知症を対象に社会性の重要性についてまとめました。今回は大腿骨近位部骨折患者についてまとめていきます。大腿骨近位部骨折は高齢者に多く見られる重篤な骨折であり、患者の生活の質や社会復帰に大きな影響を与えます。治療とリハビリテーションの成功は、単に医療技術や身体的なアプローチに依存するだけではなく、患者の社会性という側面も重要な役割を果たします。患者の包括的なケアにおいて、社会的サポートの重要性を理解することは、より良い治療成果を目指す上で大切です。
大腿骨近位部骨折患者の社会性
大腿骨近位部骨折患者の退院後の機能回復に関連する因子を調査したシステマティックレビューでは、社会的ネットワークのつながりやその規模が、6か月後~12か月後の機能回復と関連していたことが報告されています[1]。
大腿骨近位部骨折患者の予後と社会的要因の関連性を調査したスコーピングレビューでは、社会的サポートと社会経済的要因(社会経済的地位など)が、機能回復の増加、死亡率の減少、その他の結果(痛み、入院期間、生活の質など)と有意に関連していることが報告されています[2]。
閉経後女性160709人を対象に、社会的ストレスと大腿骨近位部骨折受傷との関連性を調査したところ、社会的ストレスが高いほど、大腿骨近位部骨折の発生率が高くなっていたことが報告されています[3]。
大腿骨近位部骨折術後患者215人を対象に、2年間の追跡期間の社会性の状態を調査したところ、大腿骨近位部骨折術後患者では社会的孤立の有病率は19%、孤独の有病率は13%だったことが報告されています[4]。
大腿骨近位部骨折患者英国455862人、ウェールズ29733人を対象に、社会性と予後の関係性を調査したところ、社会的剥奪があると骨折後1年間の死亡リスクが高くなっていることが報告されています[5]。
大腿骨近位部骨折患者218907人を対象に、社会性と予後の関連性を調査したところ、社会的剥奪があると死亡率、リハビリテーション施設滞在期間、再入院が多くなっていたことが報告されています[6]。
大学病院に緊急入院した大腿骨近位部骨折患者278人を対象に、社会性が転帰に与える影響を調査したところ、社会的孤立のリスクが高いと退院が遅延し、リハビリ病棟に紹介されるリスクが高かったことが報告されています[7]。
大腿骨近位部骨折患者674人を対象に、社会的接触と骨折後2年間の予後の関連性を調査したところ、骨折前2週間に友人や家族などとの接触がなかった人は、骨折後2年間の死亡リスクが高かったことが報告されています[8]。
大腿骨近位部骨折患者2067人を対象に、同居者の有無が追跡期間12.8年間の死亡率と関連するか調査したところ、一人暮らしの人はパートナーと同居している場合よりも死亡率が高くなっていることが報告されています[9]。
以上より、大腿骨近位部骨折患者の社会性は、退院後の機能回復、死亡率、リハビリテーションの成功に大きく影響します。社会的ネットワークのつながりや規模、社会的サポート、社会経済的要因が機能回復と関連しています。また、社会的ストレスが高いほど骨折の発生率が高く、社会的孤立や剥奪があると死亡リスクや再入院のリスクが増加します。同居者の有無も死亡率に関連しており、一人暮らしの場合はリスクが高まることが示されています。そのため、社会的因子に関する視点を持つことが、大腿骨近位部骨折患者に適切な支援を行う上で重要となります。
大腿骨近位部骨折患者の社会性への介入
大腿骨近位部骨折患者さんを対象に、身体的、社会的、心理的側面に関するリハビリテーションが社会復帰に与える効果を調査したメタ解析では、身体的トレーニングによって屋外の移動や拡大日常生活尺度(身体的、社会的側面)が向上することが報告されています[10]。
糖尿病を合併している大腿骨近位部骨折患者158人を対象に、退院後2年間の社会的サポートの推移と予後との関連性を調査したところ、社会的サポートが十分提供されているグループは、日常生活や筋力のパフォーマンスが高いことが報告されています[11]。
大腿骨近位部骨折術後患者112人を対象に、社会的サポート(MOSSSS)と予後の関連性を調査したところ、MOSSSSスコアが高いと身体機能が高く、より改善していたことが報告されています[12]。
大腿骨近位部骨折患者149人を対象に、術後6週間の健康関連QOL(HRQOL)に影響する因子を調査したところ、社会的サポートがHRQOLの決定要因の1つであったことが報告されています[13]。
術後大腿骨頸部骨折管理プログラムに参加している大腿骨近位部骨折患者50人を対象に、回復に重要な要素を調査したところ、良好な社会的サポートが最も重要な要素の1つであったことが報告されています[14]。
以上より、大腿骨近位部骨折患者の支援方法として、身体的トレーニングとともに、社会的サポートが十分に提供されることで、患者の日常生活や筋力のパフォーマンスが向上することが示されています。また、社会的サポートの尺度(MOSSSSスコア)が高いほど、身体機能の回復が良好であることが報告されており、術後の健康関連QOLにも大きな影響を与えています。これらの研究結果から、大腿骨近位部骨折患者への支援においては、社会的サポートを強化することが重要であると言えます。
おわりに
今回は大腿骨近位部骨折患者の社会性について、そのリスクと介入の効果についてまとめました。社会的サポートの充実は、患者の生活の質の向上、機能回復、そして社会復帰の促進に不可欠な要素であることが明らかになっています。患者一人ひとりの社会的背景を理解し、適切なサポートを提供することで、より良い治療成果と生活の質の向上につながると思います。
参考文献
[1]
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[12]
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[13]
Hlaing, et al. Health-related quality of life and its determinants among patients with hip fracture after surgery in Myanmar. Int J Orthop Trauma Nurs. 2020 May:37:100752.
[14]
Stott-Eveneshen, et al. Reflections on Hip Fracture Recovery From Older Adults Enrolled in a Clinical Trial. Gerontol Geriatr Med. 2017 Mar 20:3:2333721417697663.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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