社会的フレイル、評価、介入|2024.3.8|最終更新:2024.3.8|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 社会的フレイルの評価方法は様々存在する
- 現時点での社会的フレイルの妥当性のある構成要素は11個
- 介入方法は様々存在し、現時点では対象者や環境に合わせて選択するのが良さそう
序文
前回は主に社会的フレイルの概要についてまとめました。今回は評価方法と介入方法についてまとめていきます。社会的フレイルは基準がまだ不明確であるため、評価方法や介入方法についても様々な調査が行われています。ここでは評価や介入について、研究で用いられていたものの一部をご紹介します。評価、介入いずれにおいても、内容にバラつきはありますが、共通している部分もあるため、共通している部分を採用して評価、介入を行うことが有効かもしれません。
社会的フレイルの評価方法
社会的フレイルに関する研究では、様々な評価指標が用いられており、明確な基準は定まっていません。ここでは、先行研究で用いられている社会的フレイルの評価指標と、現時点で妥当性があると考えられている項目についてまとめます。
Tilburg Frailty Indicator(TFI)[1]
TFIは、フレイルを多面的に評価できる評価指標です。社会的フレイルを評価する際には、評価項目の社会的要素の部分の該当数で判定します。
評価項目
PartA:
性別、年齢、婚姻状況、性別、年齢、婚姻状況、出身国、教育歴、収入、全体的健康観、疾病、1年間のイベント、居住環境、
PartB:
身体的要素:自己認識の健康度、体重減少、歩行困難、バランス不良、聴覚不良、視力低下、握力低下、疲労感
精神心理的要素:記憶力低下、過去1か月の落ち込み、過去1か月の不安感、適応困難
社会的要素:独居、孤独感、他者からの支援
判定基準
TFIの総スコアのフレイルに対するカットオフ値は5点以上とされていますが、社会的フレイルについてはカットオフ値は明らかになっていません。
Makizakoの指標[2]
評価項目
- 外出頻度が減った
- 友人を訪れることがない
- 友人や家族の役に立っている気がしない
- 独居
- 誰とも話さない日がある
判定基準
5項目のうち2項目以上に該当すると社会的フレイル状態
Garre-Olmoの指標[3]
評価項目
- 独居
- ADL援助者がいない
- 家族との接触機会が少ない(週1回未満)
- 友人や近隣者との接触機会の少ない(週1回未満)
- 何でも話せるような親密な親友の存在がない
- 過去3カ月におけるADL支援の欠如
判定基準
2項目以上該当で社会的フレイル。
Teoの指標[4]
評価項目
- 独居であること
- 教育歴なし
- 親密な友人がいない
- 他者接触が少ない
- 社会的活動の少なさ
- 経済的な制約
- 社会経済的な欠乏
判定基準
2項目以上該当で社会的フレイル。
基本チェックリスト[5]
評価項目
全25項目でフレイルを総合的に評価する評価指標です。社会的フレイルに関する項目は以下の5項目です。
- バスや電車で一人で外出していますか?
- 日用品の買い物をしていますか?
- 預貯金の出し入れをしていますか?
- 友人の家を訪ねていますか?
- 家族や友人の相談にのっていますか?
判定基準
明確なカットオフ値は明らかになっていません。
社会的フレイルの評価指標の内容的妥当性
社会的フレイルの評価指標は他にも複数存在します。各評価指標の項目から内容的妥当性があると判断された項目が報告されています[6]。
- 経済的状況:経済困難感
- 居住形態:独居
- 社会的サポート:生活サポート者の不在、社会的サポートの授受
- 社会的ネットワーク:誰かと話す機会、友人に会いに行く、家族や近隣者との接触
- 社会的活動・参加:外出頻度、社会交流、社会活動、社会との接触
以上より、社会的フレイルについては、研究者によって用いている評価指標が異なり、定まった基準は明確になっていません。そのため、社会的フレイルを評価する際には、現時点で内容的妥当性があると判断された項目を含んだ評価指標を用いることが大切です。
社会的フレイルへの介入
歩行速度0.8m/秒未満で身体的フレイル状態の高齢者100人を対象に、1日65分×週5回×24週間の運動プログラム(固有受容運動、有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチ運動)の効果を調査したところ、社会的サポート、ADL、IADL、QOL、抑うつ、認知機能が改善したことが報告されています[7]。
フレイル高齢者150人を対象に、栄養士およびソーシャルワーカー1名から個別カウンセリングを6回受け、ソーシャルキッチンプログラムに4回参加する3か月の社会栄養プログラムの効果を調査したところ、社会的フレイル状態のサブグループで身体的フレイルおよびTUGの改善、外出頻度の増加が認められたことが報告されています[8]。
75歳以上の地域在住高齢者5050人を対象に、フレイルを改善させる因子を調査したところ、運動をベースとした社会参加(体操教室、グランドゴルフなど)はフレイルの進行を逆転させる効果があったことが報告されています[9]。
プレフレイルまたはフレイル状態の高齢者80人を対象に、運動と栄養介入(筋トレ6種+栄養相談)または社会的サポートを週2回×6週間行うプログラムの効果を調査したところ、運動と栄養介入群でQOL、社会関係、社会参加に改善が認められましたことが報告されています[10]。
地域在住高齢者181人を対象に、アクティブ・エイジング介入プログラム(アクティブ・エイジングの概念と準備、身体活動、健康管理、認知訓練、感情認識と対処スキル、家族関係と回復力、インターネットの使用)の効果を調査したところ、健康的な生活、メンタルヘルス、社会参加、アクティブ・エイジングの構成要素が改善したことが報告されています[11]。
デイケアに通っている高齢者34人を対象に、週3回×8週間の圧力センサーや慣性センサーなどのシステムを用いたオタゴ運動プログラムの効果を調査したところ、介入群で身体機能、社会参加、自己効力感が向上したことが報告されています[12]。
転倒を経験した地域在住高齢者に対する社会的孤立や孤独に対する介入の効果を調査したシステマティックレビューでは、多要素評価、介入が孤独感の改善に有効だったことが報告されています[13]。
高齢者の孤独感を軽減する介入方法を調査したメタ解析では、アニマルセラピーとテクノロジー介入の効果が高かったことが報告されています[14]。
高齢者の社会的孤立に対する社会的処方の効果を調査したメタレビューでは、グループベースの社会活動、教育的要素を備えたサポートグループ、レクリエーション活動、情報通信技術のトレーニングや使用が有効だったことが報告されています[15]。
高齢者に対するデジタル世代間プログラムの効果を調査したリアリストレビューでは、デジタル技術へのアクセスとトレーニングが家族間のコミュニケーションが増加する、看護師によるデジタル心理社会的サポートと教育的介入が地域在住の高齢者の孤独感を軽減する、学生または家族とのビデオ通話により長期居住型介護施設に居住する高齢者の孤独感が軽減する、コーチによるビデオ会議を通じて提供される行動促進が孤独な高齢者の孤独感を軽減するといった効果が認められたことが報告されています[16]。
地域在住のフレイル高齢者153人を対象に、ケースマネージャーとして働く看護師と理学療法士が毎月×1年間の家庭訪問して行う多要素予防介入の効果を調査したところ、介入群では3か月の追跡調査において、一般的な余暇活動と身体的余暇活動を対照群よりも多く行うようになったことが報告されています[17]。
地域在住フレイル高齢者153人を対象に、ケースマネージャー(看護師と理学療法士)による月1回以上の家庭訪問を12か月行う介入の効果を調査したところ、6か月時点で孤独感と生活満足感、12か月時点で抑うつ症状に改善が認められたことが報告されています[18]。
弱視の高齢者に対する作業療法介入の効果を調査したシステマティックレビューでは、問題解決アプローチの使用、サービスの組み合わせの提供が余暇活動と社会参加に有効だったことが報告されています[19]。
以上より、社会的フレイルに対しては運動・栄養介入、カウンセリング、教育的介入、デジタル技術介入など、多面的な介入の有効性が示唆されています。
おわりに
今回は社会的フレイルの評価方法と介入方法についてまとめました。社会的フレイルについてはまだ研究され始めて日が浅い概念であるため、まだ明らかになっていないことが多数存在します。現場で社会的フレイルの評価や介入を行う際には、相手の背景を基にどんな評価方法、介入方法が良いかを考えて適応していくことが大切です。
参考文献
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[2]
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Garre-Olmo, et al. Prevalence of frailty phenotypes and risk of mortality in a community-dwelling elderly cohort. Age Ageing. 2013 Jan;42(1):46-51.
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Berger, et al. Occupational therapy interventions to improve leisure and social participation for older adults with low vision: a systematic review.
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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