社会的フレイル、変形性関節症、社会的サポート|2024.5.17|最終更新:2024.5.17|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- OA患者は社会的に孤立しやすい
- 社会性の低下は精神面にも悪影響を与える
- 社会的サポートは身体面や精神面に有効
序文
前回は抑うつ症状を有する人の社会性についてまとめました。今回は変形性関節症(OA)患者の社会性についてまとめます。OAは、関節の軟骨が摩耗し、痛みや可動域の制限を引き起こす疾患ですが、その影響は身体的な側面にとどまりません。OA患者は社会的孤立や活動制限を経験することが多く、これが社会参加の減少につながります。このような社会性の問題は、患者の生活の質に大きく影響し、心理的な健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。ここでは、OA患者の社会性に関わる問題に焦点を当て、社会的サポートの重要性や近隣環境の影響、社会的役割の制限が与える影響などをまとめます。また、これらの問題に対する介入方法についても考察し、医療者が患者の社会的な側面にも目を向け、総合的なケアを提供することの重要性をまとめます。
OA患者の社会性
股関節、膝関節、手関節のOA患者1967人を対象に、社会的孤立に関連する因子を調査したところ、社会的孤立の有病率は13.9%で、臨床的OA症状、認知障害、うつ病、歩行時間の悪化が社会的孤立と関連していたことが報告されています[1]。
OA患者4104人を対象に、社会参加に関連する因子を調査したところ、活動制限の増加が社会参加の減少と関連していたことが報告されています[2]。
膝OA患者150人を対象に、幸福感に影響する因子を調査したところ、社会的機能が低下すると感情的な幸福感が低下することが報告されています[3]。
地域在住高齢者299人を対象に、4年間の追跡期間における関節炎の痛みと抑うつ症状の変化を調査したところ、痛みと抑うつ症状は個人内変動が58%~65%と大きく、社会的サポートと認知機能が高い人は抑うつ症状が少ないことが報告されています[4]。
地域在住高齢者1690人を対象に、関節炎を有する人の精神心理的症状に関連する因子を調査したところ、関節炎を有する人は抑うつ症状が多くなっていましたが、広い社会的関係性を有している人はこの関連性が緩和されていたことが報告されています[5]。
OA患者177人、健常者193人を対象に、社会的役割の状況を調査したところ、OA患者では社会的役割の制限が大きく、制限が大きく役割への満足度が低い人は抑うつやストレスが大きかったことが報告されています[6]。
以上をまとめますと、OA患者では社会的孤立の有病率は13.9%で、臨床的OA症状、認知障害、うつ病、歩行時間の悪化が社会的孤立と関連しています。また、活動制限の増加は社会参加の減少と関連し、社会的機能の低下は感情的な幸福感の低下と関連しています。地域在住高齢者の研究では、社会的サポートと認知機能が高い人は抑うつ症状が少なく、広い社会的関係性を持つ人は抑うつ症状との関連性が緩和されます。OA患者では、社会的役割の制限が大きく、これが抑うつやストレスに影響を与えています。
OA患者の社会性への介入
地域在住高齢者21214人を対象に、OAと社会参加の関連性を調査したところ、活動制限があるOA患者では、活動制限によって社会参加が制限されていましたが、手段的サポートを受けることで制限が緩和されることが報告されています[7]。
変形性膝関節症患者140人を対象に、自己管理行動を高める介入を調査したところ、社会的サポートを高めることで、自己効力感の向上を通じて自己管理行動を強化することができることが報告されています[8]。
下肢の変形性関節症患者2286人を対象に、近隣環境と社会参加、身体活動との関連性を調査したところ、近隣のリソースは社会参加および身体活動と関連しており、社会参加は近隣のリソースと身体活動との関連を媒介していたことが報告されています[9]。
変形性膝関節症患者298人を対象に、社会的サポート、社会的緊張、抑うつ症状との関連を調査したところ、社会的緊張は抑うつ症状と関連しており、社会的サポートは社会的緊張と抑うつ症状の関係性を緩和する効果があることが報告されています[10]。
変形性関節症患者50人を対象に、社会的サポートと生活の質との関連性を調査したところ、家族や友人からの非公的なネットワークによる社会的サポートを受けると、抑うつ、併存疾患、痛み、機能制限とは関係なく、生活の質に対する満足度が高かったことが報告されています[11]。
以上をまとめますと、活動制限があるOA患者の社会参加を促進するためには、手段的サポートを提供することが有効です。また、自己管理行動を高める介入においては、社会的サポートを高めることで自己効力感が向上し、自己管理行動を強化できます。近隣のリソースが社会参加および身体活動と関連しており、近隣のリソースは社会参加を通じて身体活動の増加につながります。社会的緊張は抑うつ症状と関連しており、社会的サポートがこれらの関係性を緩和する効果があります。また、家族や友人からの非公的なネットワークによる社会的サポートは、抑うつ、併存疾患、痛み、機能制限とは関係なく、生活の質に対する満足度を高めます。
おわりに
今回はOA患者の社会性についてまとめました。OA患者のケアにおいては、身体的な症状の管理だけでなく、社会性にも注意を払うことが重要です。社会的サポートの強化や活動制限の緩和、近隣環境の改善など、多面的なアプローチが求められます。医療者は、患者の社会的な側面にも目を向け、総合的なサポートを提供することで、患者の生活の質の向上に貢献できます。
参考文献
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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