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生活期を支える 社会的フレイル① 概要・予後

生活期、社会的フレイル、予後|2024.3.1|最終更新:2024.3.1|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 社会的フレイルは身体的、精神心理的フレイルの上流に位置する
  • 社会的フレイルは、地域では約20%存在する
  • 社会的フレイルは様々な転帰不良と関連している
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序文

今回からは、生活期の社会的側面に焦点を当て、社会的フレイルについてまとめていきます。社会的フレイルは、単に身体的な弱さや機能の低下だけでなく、社会的な孤立や支援ネットワークの欠如といった要素も含まれます。これらは、高齢者の健康状態や生活の質に深刻な影響を与え、疾患や死亡リスクを高める可能性があります。このようなことから、社会的側面に目を向け、包括的なアプローチで対応することが、生活期を支える上で大切です。

社会的フレイルの概要

フレイルとは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す“frailty”の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語です。フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられていますが、身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態と言われてます[1]。

フレイルの状態を評価する際には、Friedら[2]が提唱しているような身体的な側面が強調された基準が用いられることが多いですが、上述したような精神心理面、社会面についても評価する必要があります。その理由としては、フレイルの各側面はお互いに影響し合い、重なり合うことで予後がより悪化する可能性が高くなるためです[3]。その中でも、社会的フレイルは他のフレイルの上流に位置している可能性があることが考えられています。65歳以上の地域在住高齢者4304人を対象に、2年間の追跡期間中に要介護に陥る要因を調査したところ、ベースライン時に社会的フレイル状態である人は、追跡期間中に機能障害が生じて要介護状態になるリスクが高くなっていたことが報告されています[4]。そのため、介護予防を考える際には、社会的側面に対しても介入していく必要があります。

社会的フレイルとは、身体的な衰えだけでなく、社会的なつながりや活動の減少によって生じる健康の脆弱性を指します。具体的には、友人や家族との交流が少なくなる、社会参加の機会が減る、孤立感や寂しさを感じやすくなるなど、社会的な側面からの支援や連携が薄れることによって、心身の健康が損なわれるリスクが高まり、人生の満足度を低下させます[5]。社会的フレイルは、単に孤独や社会的孤立という問題だけでなく、さまざまな健康問題に直結する可能性があります。65歳以上の地域在住高齢者229人を対象とした調査では、社会的フレイルは抑うつ、栄養不良リスク、身体機能低下、身体活動低下と関連していることが報告されています[6]。また、地域在住の一般住民4149人を対象とした調査では、社会的フレイル状態の人は、10年間の追跡期間中の死亡リスクが高くなっていたことが報告されています[7]。このように、医療者やケアマネジメントに携わる専門家は、社会的フレイルに対して十分な理解と注意を払う必要があります。

社会的フレイルの現状

全世界の社会的フレイルの有病率を調査したメタ解析では、地域社会を対象とした調査では18.8%病院環境を対象とした調査では47.3%だったことが報告されています[8]。また、この調査の中で行われたサブ解析では、社会的フレイルの有病率は中国が最も低く(4.9%、95% CI: 4.2%-5.7%)、スペイン(11.6%、95% CI: 9.9%-13.3%)、日本(16.2%; 95% CI: 12.2%-20.3%)、韓国(26.6%; 95% CI: 7.1%-46.1%)、ヨーロッパの都市部(29.2%; 95% CI: 27.9%-30.5%) 、オランダ(27.2%; 95% CI: 16.9%-37.5%)の順で多かったことが報告されています。しかし、社会的フレイルに関しては、その評価指標が定まっていないことが指摘されています。先ほどのZhangらの調査では、メタ解析に含まれた論文のうち、Tilburg Frailty Indicator(TFI)を用いたものが32.3%Makizakoらの社会的フレイル指標を用いたものが27.7%Social Frailty Screening Indexを用いたものが13.4%と、バラつきがあったことも報告されています[8]。

社会的フレイルの予後

前述したように、社会的フレイルは様々な不良転帰と関連していることが明らかになっています。社会的フレイル高齢者の有害転帰を調査したメタ解析では、社会的フレイル状態だと死亡率増加、機能障害、抑うつ、神経心理学的機能の低下のリスクが高くなることが報告されています[9]。心不全患者965人と健常者164人を対象とした調査では、Tilburg Frailty Indicatorで評価した社会的フレイルを有していると心不全発症リスクが高くなることが報告されています[10]。地域在住高齢者1933人を対象とした調査では、社会的フレイルは転倒恐怖を介して生活の質を低下させていることが報告されています[11]。地域在住一般成人790人を対象とした調査では、社会的フレイルは感情調節能力の低下を介して、ストレス、不安、抑うつの増加と関連していることが報告されています[12]。地域在住高齢者229人を対象とした調査では、社会的フレイル状態の人は実行機能が低下しており、社会的フレイルと実行機能低下の両方を有していると食欲不振、転倒、生活空間の移動能力の低下、生活の質の低下のリスクが高くなることが報告されています[13]。60歳以上の地域在住高齢者300人を対象とした調査では、社会的フレイル状態の人は睡眠の質が低く、特に毎日誰かと話すことがない人では睡眠の質が低下していたことが報告されています[14]。このように、社会的フレイルは死亡や疾患、精神心理状態、生活の質など多面的に悪影響を与えるため、早期にスクリーニングを行い、適切な評価、介入を行うことが大切です。

おわりに

今回は社会的フレイルの概要や予後についてまとめました。フレイルというと、身体面を中心に考えがちですが、社会面にも着目することで、様々な予後を改善させることができる可能性があります。社会的フレイルにどう関わっていけば良いか考えることが、生活期を支える上で重要なことだと思います。

参考文献

[1] 長寿医療研究開発費事業(27-23):要介護高齢者、フレイル高齢者、認知症高齢者に対する栄養療法、運動療法、薬物療法に関するガイドライン作成に向けた調査研究班編集. フレイル診療ガイド2018年版.

[2] Fried, et al. Untangling the concepts of disability, frailty, and comorbidity: implications for improved targeting and care. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2004 Mar;59(3):255-63.

[3] Chehrehgosha, et al. Demographic and biological factors in interrelationships between physical, cognitive, psychological, and social frailty in community-dwelling older adults: Data from the Birjand Longitudinal Aging Study (BLAS). Maturitas. 2024 Jan 15:181:107905.

[4] Makizako, et al. Social Frailty in Community-Dwelling Older Adults as a Risk Factor for Disability. J Am Med Dir Assoc. 2015 Nov 1;16(11):1003.e7-11.

[5] Jeong, et al. Association Between Social Frailty and Life Satisfaction Among Older Adults: The Role of Functional Limitations and Depressive Symptoms. Res Gerontol Nurs. 2023 Nov-Dec;16(6):291-300.

[6] Pek, et al. Social Frailty Is Independently Associated with Mood, Nutrition, Physical Performance, and Physical Activity: Insights from a Theory-Guided Approach. Int J Environ Res Public Health. 2020 Jun 14;17(12):4239.

[7] Ragusa, et al. Social frailty increases the risk of all-cause mortality: A longitudinal analysis of the English Longitudinal Study of Ageing. Exp Gerontol. 2022 Oct 1:167:111901.

[8] Zhang, et al. The Prevalence of Social Frailty Among Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Am Med Dir Assoc. 2023 Jan;24(1):29-37.e9.

[9] Li, et al. Social frailty as a predictor of adverse outcomes among older adults: a systematic review and meta-analysis. Aging Clin Exp Res. 2023 Jul;35(7):1417-1428.

[10] Uchmanowicz, et al. Physical, Psychological and Social Frailty Are Predictive of Heart Failure: A Cross-Sectional Study. J Clin Med. 2022 Jan 23;11(3):565.

[11] Wu, et al. Fear of falling as a mediator in the association between social frailty and health-related quality of life in community-dwelling older adults. BMC Geriatr. 2023 Jul 10;23(1):421.

[12] Demichelis, et al. Emotion regulation mediates the relationship between social frailty and stress, anxiety, and depression. Sci Rep. 2023 Apr 20;13(1):6430.

[13] Ong, et al. Social Frailty and Executive Function: Association with Geriatric Syndromes, Life Space and Quality of Life in Healthy Community-Dwelling Older Adults. J Frailty Aging. 2022;11(2):206-213.

[14] Noguchi, et al. Association between Social Frailty and Sleep Quality among Community-dwelling Older Adults: A Cross-sectional Study. Phys Ther Res. 2021 Apr 1;24(2):153-162.

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執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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