社会的フレイル、排尿障害、骨盤底筋|2024.5.3|最終更新:2024.5.3|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- 尿失禁を有する人は、社会的な制限を受けやすい
- 社会的な制限をうけると、QOLも低下する
- 骨盤底筋トレーニングは、排尿症状だけでなく社会性も改善できる
序文
前回は、嚥下障害を有する人の社会性についてまとめました。今回は、排尿障害を有する人の社会性についてまとめます。排尿障害は、日常生活におけるさまざまな側面に影響を及ぼし、社会的な活動や人間関係にまでその影響が及ぶことがあります。ここでは、排尿障害が社会性に与える影響や介入方法について、先行研究を基に理解を深めるための情報を提供します。
排尿障害患者の社会性
地域在住高齢者を対象に、尿失禁に対する認識と対処方法について調査したシステマティックレビューでは、尿失禁に対して偏見を感じている人が多く、尿失禁を隠すために自助による対応をするため、社会的孤立の一因になっていることが報告されています[1]。
地域在住高齢女性369人を対象に、尿失禁が生活の質(QOL)に与える影響を調査したところ、尿失禁によって社会的、身体的、精神心理的側面のQOLが低下することが報告されています[2]。
高齢者施設入居者2044人を対象に、尿失禁と移動能力の関連を調査したところ、尿失禁を有している人は移動に制限が生じている割合が高かったことが報告されています[3]。
下部尿路症状を有する高齢男性200人を対象に、尿路症状とQOLの関連を調査したところ、尿路症状が重度なほどQOLが低く、特に社会関係、環境関係のQOLが低いことが報告されています[4]。
尿失禁の症状がある高齢者370人を対象に、尿失禁が生活に与える影響を調査したところ、「服装」「臭いへの恐怖」「トイレがあるかどうかわからない場所に行く」「20分以上のお出かけ」「娯楽」が、生活の中で影響を受けていることが報告されています[5]。
地域在住の中高年男性1008人を対象に、排尿症状とQOLについてアンケート調査を行ったところ、症状を有している人および症状が重度なほど、社会的、感情的、身体的全ての領域のQOLがより低かったことが報告されています[6]。
外来女性患者1011人を対象に、尿失禁の影響をアンケートで調査したところ、尿失禁があることが社会的幸福感に悪影響を与えていることが報告されています[7]。
脳卒中患者460人を対象に、尿失禁が生活に与える影響を調査したところ、尿失禁は活動への参加やQOLの低下と関連していたことが報告されています[8]。
以上をまとめますと、尿失禁を有する人は、その症状を隠すために自助的な対応をとり、社会的な偏見を感じています。これにより、社会的孤立の一因となっており、QOLが低下しています。特に社会的、身体的、精神心理的な側面でのQOLが影響を受けており、移動能力に制限が生じることもあります。また、尿失禁は服装、臭いへの恐怖、外出時の不安、娯楽活動への影響など、日常生活の様々な側面に悪影響を与えています。さらに、社会的幸福感にも悪影響を及ぼしており、脳卒中患者の活動参加やQOLの低下とも関連しています。
排尿障害患者の社会性への介入
腹圧性尿失禁を有する女性137人を対象に、骨盤底筋と腹横筋のトレーニングプログラムを12週間行ったところ、骨盤底筋のみのトレーニングと比較して、社会的制限、旅行、家事、身体活動などが改善したことが報告されています[9]。
腹圧性尿失禁を有する女性140人を対象に、骨盤底筋トレーニングを週4回×3か月行ったところ、社会活動を含む多くのQOL領域が改善したことが報告されています[10]。
腹圧性尿失禁を有する女性53人を対象に、自宅での骨盤底筋トレーニング(PFM)、PFM+膣内圧バイオフィードバック (P-BF)、PFM+会陰筋電図バイオフィードバック (EMG-BF)を8週間行ったところ、両方のBF群で社会活動指数、尿失禁の重症度が改善することが報告されています[11]。
地域在住高齢者362人を対象に、グループベースの骨盤底筋トレーニングを12週間行うと、1年後の尿失禁エピソードや生活の質が改善したことが報告されています[12]。
地域在住高齢者4689人を対象に、社会的サポートと尿失禁の関連性を調査したところ、具体的な社会的サポートと尿失禁が相互作用を有していることが報告されています[13]。
以上をまとめますと、尿失禁を有する人に対する介入として、骨盤底筋トレーニングが有効であることが報告されています。このトレーニングは社会的制限、旅行、家事、身体活動などの生活の質を改善し、尿失禁の重症度を軽減します。また、膣内圧や会陰筋電図のバイオフィードバックを加えることで、さらなる改善が見られます。グループベースのトレーニングや社会的サポートも、尿失禁の改善に寄与することが示唆されています。
おわりに
今回は排尿障害を有する人の社会性についてまとめました。患者の日常生活の質を向上させるためには、身体的な治療だけでなく、精神的、社会的なサポートも重要です。医療関係者は、患者とのコミュニケーションを通じて、排尿障害が生活に及ぼす影響を理解し、適切な介入を行うことが求められます。排尿障害を有する人の社会性に対する理解を深め、より良い支援に繋げることが大切です。
参考文献
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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