スクワット、骨粗鬆症、骨折|2024.2.9|最終更新:2024.2.9|理学療法士が執筆・監修しています
序文
前回は、スクワットとアキレス腱や腰部との関係性についてまとめました。今回は、スクワットと骨粗鬆症、骨折との関係性についてまとめます。骨粗鬆症と骨折は閉経後の女性や高齢者にとって重大な課題で、運動は重要な予防策として位置づけられています。運動の中でもスクワットに着目し、スクワットが骨密度の向上、骨折リスクの低減などにどのように影響を与えるのかを検討し、日常診療における運動指導への応用を考えていきたいと思います。
骨粗鬆症
スクワットは、大腿骨や脊椎などの骨密度を高める効果があり、骨粗鬆症の予防と改善に有効な可能性があります。定期的なスクワット運動は、骨の強度を増加させ、骨折リスクを低減することが研究で示されています。
健常成人23人を対象に、様々な運動様式の力積、最大地面反力、単位時間あたりの力の変化量から骨形成に対する有効性を調査したところ、スクワットは骨形成刺激が大きい運動の1つであることが報告されています[1]。
中年男性50人を対象に、骨密度に関連する身体機能を調査したところ、ハーフスクワットの1RMは全身、腰椎、大腿骨頸部の骨密度と正相関していることが報告されています[2]。
健常成人男性147人を対象に、最大筋力と骨密度との関連を調査したところ、スクワットの1RMは全身の骨密度と正相関しており、ベンチプレスの1RMは前腕の骨密度と正相関していたことが報告されています[3]。
動力学モデルと三次元有限要素モデルを用いて、複数の動作の大腿骨頸部への荷重特性を調査したところ、スクワットは大腿骨の緻密骨および海綿骨に対して負荷が少ない運動様式であることが報告されています[4]。
健常成人12人を対象に、異なる負荷でスクワットを行い、地面反力と力の発現速度から骨形成への影響を調査したところ、1RMの120%負荷でスクワットを行うと、1RMの80%や100%よりも高い地面反力を得ることができ、負荷量が大きいほど骨形成に有効であることが報告されています[5]。
健常若年女性30人を対象に、毎週3セッション、合計36セッションで構成される12週間のマシンを用いたスクワット運動が骨に与える効果を調査したところ、腰椎の骨密度が2.2%、大腿骨頸部の骨密度が1%増加したことが報告されています[6]。
閉経後女性141人を対象に、運動(週2回×1年間のスクワットを含むフリーウエイトトレーニング)とホルモン補充療法(HRT)が脊椎の骨密度に与える効果を調査したところ、脊椎の骨密度は運動のみで0.43%、運動+HRTで0.70%増加したことが報告されています[7]。
骨粗鬆症の閉経後女性を21人を対象に、最大筋力トレーニング(毎週3セッション、合計36セッションで構成される12週間のマシンを用いたスクワット運動)が骨に与える効果を調査したところ、1RMが154%、筋発揮率が52%、腰椎の骨量が2.9%、大腿骨の骨量が4.9%向上したことが報告されています[8]。
サルコペニアの閉経後女性15人を対象に、3回×8セット×週2回×6週間のスクワットを含む荷重位での運動が骨密度に与える効果を調査したところ、骨盤の骨密度が1.6%増加することが報告されています[9]。
雄ラット20匹を用いて、スクワット運動(1RMの約70%負荷で15回×10セット×週3日×10週間)と食事のタイミングが骨量、骨密度に与える効果を調査したところ、スクワットの直後に食事を摂取する方が、4時間後に食事を摂取するよりも脛骨と大腿骨の骨量、骨密度が増加したことが報告されています[10]。
以上のことから、骨強化を目的にスクワットを行う際には、以下の点に注意して実践していくことが大切です。
- スクワットでの1RMが高いほど骨密度も高くなるため、筋力向上を図ることも骨強化に有効。
- 週に複数回、数ヶ月間にわたるスクワットプログラムが骨密度の向上に有効であるため、定期的にスクワットを行えるようにスケジューリングする。
- スクワット直後には栄養補給を行う。
骨折
スクワットは骨密度を高め、特に大腿骨の強度を向上させることにより、骨折リスクを低下させるため、骨折予防に有効な運動です。また、スクワット動作のパフォーマンスは骨折の治癒過程や機能改善の指標としても有用であることが示されています。
単一のドナーから得られた筋骨格モデル、有限要素モデル、身体からの動作記録のデータを用い、複数の動作時の大腿骨にかかる負荷を調査したところ、スクワット動作は歩行よりも非定型大腿骨骨折と関連する大腿骨骨幹部外側の引張ひずみが少ない動作であることが報告されています[11]。
閉経後女性2815人を対象に、機能障害と長期的な大腿骨近位部骨折リスクとの関連性を調査したところ、平均追跡期間18.3年で、スクワットができないことは大腿骨近位部骨折リスク増加と関連していたことが報告されています[12]。
大腿骨骨幹部骨折患者231人を対象に、スクワットの深さ、スクワットのサポートの必要性、顔の表情で評価するsquat-and-smile testと予後との関連性を調査したところ、スクワットの深さとスクワットにサポートが必要であることが、再手術の必要性と相関していたことが報告されています[13]。
髄内釘固定術を受けた脛骨または大腿骨骨幹部骨折患者56人を対象に、squat-and-smile testの予後予測の有用性を調査したところ、squat-and-smile testのスコアは骨折治癒に対して感度82.22%、特異度63.64%だったことが報告されています[14]。
脛骨骨幹部骨折術後患者23人を対象に、スクワット動作の運動学的データの変化を調査したところ、術後6か月時点で、健常者と比較して、スクワット動作時の股関節、膝関節、足関節の運動学的パラメータは低下しており、患側への荷重量も減少していたことが報告されています[15]。
以上のことから、下肢骨折患者さんに対してスクワットを指導する際には、以下の点に留意することが大切です。
- スクワットは歩行よりも大腿骨への負荷が少ない動作であるため、骨折後の筋力強化に有用。
- スクワット能力は骨折リスク、再手術リスク、骨折治癒と関連しているため、骨折の状態に配慮しつつ、段階的にスクワット能力を高めていく。
- 術後6か月を経過してもスクワット動作に困難を抱えている患者さんは多いため、スクワット介入は機能改善だけでなく生活改善にも有用。
おわりに
今回はスクワットと骨粗鬆症、骨折との関係性についてまとめました。スクワットは適切に行うことで、骨密度の維持や改善に寄与し、骨粗鬆症の予防や治療に効果的な運動です。しかし、身体の状態は患者さん一人一人異なるため、状態に応じた適切な運動プログラムの提供が重要です。患者さんの安全と健康を最優先に考え、運動療法を適切に指導し、支援することが大切です。