スクワット、心血管系、呼吸器系|2024.2.23|最終更新:2024.2.23|理学療法士が執筆・監修しています
序文
前回は脳卒中やパーキンソン病に着目して、スクワットの有効性や注意点についてまとめました。今回は、心血管系や呼吸器系に着目して見ていきます。心血管疾患や呼吸器疾患の患者さんでは、下肢筋力の強化は種々のガイドラインでも推奨レベルが高く、有効性が認められています。スクワットは下肢の筋を全体的に活性化させることができる運動であるため、効率良く筋力強化が図れます。しかし、効果的である半面、呼吸循環系に対して負荷の高い運動でもあるため、スクワットを行う際にどのような呼吸循環系の反応が生じるかを知り、リスク管理を行うことが大切です。
心血管系
スクワットは心拍数や血液循環など、心血管系に影響を与えます。心臓や血管の健康維持に役立つ一方で、スクワット中には血圧や心拍数などが変動するため、心血管疾患のリスクがある人またはすでに罹患している人では注意が必要です。
スクワット動作と血圧調節についてのレビュー論文では、スクワット動作は血圧や心拍数の変化といった交感神経機能の評価に有用であり、自律神経失調症や起立性低血圧などの血圧低下に対する治療手段の1つとしても有用であることが報告されています[1]。
健常者23人を対象に、2分間のウォールスクワットを15回行い、膝関節屈曲角度と心血管反応との関連性を調査したところ、スクワット動作時の膝関節屈曲角度と心拍数および血圧は逆相関関係にあったことが報告されています[2]。
健常者25人を対象に、0.05 Hz(スクワット10秒/立位10秒)で2回、0.10Hz(スクワット 5秒/立位5秒)で2回行った際の自律神経機能の性差を調査したところ、スクワット運動中の自律神経反応に性差はないが、運動後では女性の方が副交感神経活動がより高かったことが報告されています[3]。
健常若年者20人、高齢者8人を対象に、0.05Hzと0.1Hzの周波数でスクワット動作を行った際の心血管反応を調査したところ、高齢者ではスクワット動作時の圧反射感度が低下していることが報告されています[4]。
健常者17人を対象に、10秒のスクワット、1分間のスクワット、5分間のスクワットを行い、心血管反応を調査したところ、平均動脈血圧(mmHg)は、心拍出量が増加したにもかかわらず、全ての条件で基準値を下回ったことが報告されています[5]。
高齢男性24人を対象に、1RMの70-90%のスクワットマシン6-10回×3セット×週3回×16週間+4週間の脱トレーニングを行い、心血管機能の変化を調査したところ、心拍数、収縮期血圧、心拍数×収縮期血圧(PPP)が低下し、一回拍出量が増加したことが報告されています[6]。
健常者20人を対象に、3時間連続座位(対照群)と20分毎に座位を中断しハーフスクワットとカーフレイズ(介入群)を行い心血管反応の変化を調査したところ、介入群では動脈硬化指数が減少し、反応性充血中の内側腓腹筋組織酸素飽和度が増加したことが報告されています[7]。
以上のことから、スクワットを行う際には心血管系の反応の変化に着目して以下の点に留意することが大切です。
- スクワットは心拍数や血圧に影響を与えるため、心血管疾患のリスクがある人、高齢者、自律神経失調症や起立性低血圧のある人では、血圧の変化に注意する。
- 定期的なスクワット運動は心血管反応を改善させるため、運動を継続できるような支援体制を整える。
- 長時間座位を中断してスクワットを行うことを促し、血管の健康を維持できるようにする。
呼吸器系
スクワット運動中には深い呼吸が必要とされ、肺の機能が促進されます。これにより、肺の容量が向上し、酸素の取り込み効率が改善される可能性があります。また、全身の筋肉を使うことで、呼吸筋も鍛えられます。さらにスクワットに加えて呼吸筋を鍛えることで、姿勢制御に良い効果を与える可能性も示唆されています。
健常者46人を対象に、肺機能および呼吸筋力と四肢筋力との関連を調査したところ、スクワットの1RMが高い人は呼気筋力および吸気筋力が高いことが報告されています[8]。
健常者24人を対象に、ハーフスクワット15回×21セットを行った際の心肺機能および代謝変数の変化を調査したところ、3セット目以降はVO2、VCO2、VE・VCO2は差がなく安定していたことが報告されています[9]。
健常者10人を対象に、スクワット運動を3分間行った際の筋組織の代謝変化を調査したところ、スクワット運動中に酸素化ヘモグロビン、組織酸素化指数に変化はなかったことが報告されています[10]。
地域在住高齢者76人を対象に、機械補助スクワット運動を30分×週3回×6週間行った際の筋肉量、筋機能、肺機能の変化を調査したところ、サルコペニア状態の人では努力肺活量(FVC)が向上したことが報告されています[11]。
慢性腰痛を有するアスリート47人を対象に、スクワット運動に呼吸筋トレーニングを追加した際の足関節周囲の筋活動の変化を調査したところ、スクワット動作時の前脛骨筋と長腓骨筋の過剰な筋活動が減少し、姿勢制御能力が改善することが報告されています[12]。
慢性腰痛を有するアスリート45人を対象に、8週間の吸気筋トレーニングを行った際の足関節周囲の筋活動と痛みの変化を調査したところ、スクワット動作中の前脛骨筋、長腓骨筋、内側腓腹筋の活動が低下し、痛みの重症度が低下したことが報告されています[13]。
健常者12人を対象に、HAL装着の有無で1分間に20回の頻度で3分間スクワットを行った際の心肺負荷の変化を調査したところ、HALを使用してスクワットを行った方が運動終了時の酸素摂取量、二酸化炭素排出量、分時換気量、Borgスケールが低く、心肺負荷を軽減させることができることが報告されています[14]。
以上のことから、呼吸器系に着目したスクワットを指導する際には、以下の点を考慮することが大切です。
- スクワットの1RMで表現される下肢筋力は呼吸筋力と相関しているため、スクワットは呼吸機能の改善に役立つ可能性がある。
- 適度な負荷で行うスクワット運動は、運動中に心肺機能や筋組織の酸素化に影響を与えないため、呼吸循環系のリスクが高い人でも安全に行うことができる。
- サルコペニア状態であっても、定期的にスクワット運動を行うことで呼吸機能を改善させることができる。
- 呼吸筋トレーニングを行うことで、慢性腰痛を有する人の足関節の過度な筋活動が抑制され、痛みや姿勢制御が改善する。
- HALを使用してスクワットを行うことで、リスクが高い人でも安全かつ効果的に運動が行える。
おわりに
今回は心血管系、呼吸器系に着目してスクワットの効果と注意点についてまとめました。スクワットは、適度な負荷で定期的に行うことで、呼吸循環系の機能向上や疾患予防に有効です。呼吸循環系の疾患を有する患者さんに対しても、リスク管理を行いながらスクワットを指導することで、効率よく効果的に機能改善を図ることができると思います。