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理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性 バランス② BESTest

BESTest、バランス、MCID|2023.9.15|最終更新:2023.9.15|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回は、BBSについて評価方法やMCIDについてまとめました。今回はBalance Evaluation Systems Test (BESTest)について見ていきます。BESTestは、36項目からなるバランス能力を包括的に評価できるツールです。構成要素には、構造的な制限、安定性の制限/垂直軸、予測性姿勢制御、姿勢反応、感覚の方向づけ、歩行の安定性が含まれています。各項目を0-3点で点数を付け、満点は108点となります。項目数が多く時間がかかりますが、様々な疾患で調査が行われています。

本記事でわかること

✅ BESTestは様々な疾患の転倒予測に有用

✅ 評価項目数は多いが、網羅的に評価できる

✅ MCIDを調査した報告は少ない

BESTestと予後

 介護施設入所者を対象とした調査では、BESTestは転倒を予測することができる評価ツールであることが報告されています[1]。地域在住高齢者を対象とした調査でも、BSETestは6か月後の転倒を予測するのに有用な評価ツールであり、カットオフ値は60-69歳で99点70-79歳で92点80-89歳で85点90歳以上で74点だったことが報告されています[2]。慢性期の脳卒中患者さんを対象とした調査では、カットオフ値を69.44%とした時に、転倒予測の感度は75%、特異度は84.6%だったことが報告されています[3]。パーキンソン病患者さんを対象とした調査では、過去6か月間で2回以上の転倒歴の有無を判別するカットオフ値は69%で、感度0.84、特異度0.76だったことが報告されています[4]。COPD患者さんを対象とした調査では、過去12か月間の転倒歴の有無を判別するカットオフ値は76.9点で、感度64%、特異度77%だったことが報告されています[5]。

 以上のように、多少のバラつきはありますが、BESTestは様々な背景を持つ対象者の転倒を予測するツールとして有用であることが明らかとなっています。

BESTestの評価方法[6]

準備物

  • ストップウォッチ
  • ファンクショナルリーチテストのための、壁に貼った測定テープ
  • 60×60cm (2×2 ft)で厚さ 4 インチ(10cm)の、中密度、Tempur®素材のブロック
  • 立位のための10度の傾斜板(少なくとも2×2フィート(約 60×60cm))
  • 交互の段差タッチのための、高さ6インチ(15cm)の昇降台
  • 障害物歩行に用いる靴箱の2段重ね
  • すばやい上肢挙上のための 2.5kg(5 ポンド)の重り
  • Get Up and Go test のための肘掛けつきの堅い椅子と、前方3m のテープの目印
  • Get Up and Go test のための床に3mと6mの目印(マスキングテープなど)

評価方法

動作 採点基準
支持基底面 3点:両足とも通常の支持基底面で変形も疼痛もない

2点:片足に、変形かつ/または痛みがある

1点:両足とも、変形または疼痛がある

0点:両足とも、変形と疼痛がある

COMアライメント 3点:通常の前後・内外側 CoM アライメントと正常の姿勢アライメント

2点:前後または内外側の CoM アライメントあるいは姿勢アライメントのいずれかに異常あり

1点:前後または内外側の CoM アライメントに異常があり、さらに姿勢アライメント異常もある

0点:前後および内外側の CoM アライメントに異常がある

足関節の筋力と可動域 3点:最大の高さでつま先立ちが可能で、さらに前足部を持ち上げて踵立ちができる

2点:どちらかの足一方に背屈か底屈の障害がある(すなわち、最大の高さが不可)

1点:2つの機能障害がある(例:両足の背屈障害、一足における底背屈障害)

0点:両足関節の底背屈障害(すなわち、最大の高さが不可)

股関節/体幹側屈力 3点:左右両方の股関節について、体幹を垂直に保ちながら外転し、足を床から持ち上げて10秒間保持することができる

2点:左右両方の股関節について、外転し、足を床から持ち上げて10秒間保持できるが、体幹を垂直に保てない

1点:左右どちらか一方ならば、体幹を垂直に保ちながら床から足が離れるまで股関節を外転し10秒間保持できる

0点:体幹が垂直かどうかに関わらず、左右両方とも、股関節を外転し、足を床から持ち上げて10秒間保持することができない

床への座りと立ち上がり 3点:床への立ち座りを自力でできる

2点:床への座りか立ち上がりのどちらかで椅子を使用する

1点:床への立ち座りのどちらにも椅子を使用する

0点:椅子を使用しても立ち座りのどちらかが出来ないか、拒否の場合

坐位での垂直性と側屈 側屈(左右検査)

3点:最大側屈、肩が身体の正中線を

越えて傾けられ、とても安定し

ている

2点:中等度側屈、肩が身体の正中線

に近づくように傾けられるか、

またはやや不安定

1点:わずかな側屈しかできない、ま

たは明らかに不安定

0点:側屈不可あるいは倒れ込む(限

界を超える)

垂直性(左右検査)

3点:正中線を全く越えることなく、も

しくはあってもわずかで垂直に

戻る

2点:明らかに正中線を越えるか、また

は届かないが、最終的に垂直に戻

1点:垂直に戻れない

0点:目を閉じたまま倒れる

前方ファンクショナルリーチ  3点:>32cm

2点:16.5-32cm

1点:<16.5cm

0点:測定不能、または支持が必要

側方ファンクショナルリーチ (左右検査)

3点:>25.5cm

2点:10-25.5cm

1点:<10cm

0点:測定不能、または支持が必要

座位から立位 3点:自力で手を使わずに立ち上がり、立位を安定させる

2点:手を使って1回で立ち上がる

1点:数回の試みの後に立ち上がる、または立って姿勢を安定させるのに軽介助を要する、または足の後面を触れているか、椅子が必要である

0点立つのに中等度か最大の介助を要する

つま先立ち 3点:3秒間十分な高さで安定している

2点:踵を上げるが、全可動域ではない(手を保持していてバランスをとる必要がない時よりも小さい)、またはやや不安定ながら3秒間保持できる

1点:3秒間保持できない

0点:不可能

片足立ち (左右検査)

3点:安定 >20 秒

2点:体幹の動きあり、または 10−20 秒

1点:2-10秒以下

0点不能

交互の段差タッチ 3点:自力で安全に立ち、10秒未満で8ステップを終える

2点:10-20秒で8ステップ可能、かつ/または、ステップの位置が一定しない、過度な体幹の動き、ためらいやリズムの乱れなどの不安定さを認める

1点:8ステップ未満−最小介助(つまり補助具)なし、または8ステップに>20秒かかる

0点:補助具を使用しても8ステップ未満

立位での上肢挙上 3点:安定を保っている

2点:目に見えて動揺する

1点:平衡を保つために足を踏み出す/素早く動くとバランスを崩す

0点:不能、または安定のための介助が必要

姿勢保持反応—前方 3点:足関節で安定を回復する、腕や股関節の動きの付加なし

2点:腕や股関節の動きを使って安定を回復する

1点:安定を回復するために足を踏み出す

0点:支えないと倒れるか、介助を要するか、試みようとしない

姿勢保持反応—後方 3点:足関節で安定を回復する、腕や股関節の動きの付加なし

2点:腕や股関節の動きを使って安定を回復する

1点:安定を回復するために足を踏み出す

0点:支えないと倒れるか、介助を要するか、試みようとしない

代償的な修正ステップ−前方 3点:1歩の大きなステップで、自力で回復する(2歩目のアライメント調整のステップはあっても良い)

2点:平衡を回復するために、2歩以上の踏み出しが必要だが自力で安定性を回復する、または1歩で平衡を回復するが不安定

1点平衡を回復するために3歩以上の踏み出しをする、または転倒を防止するために最小介助を要する

0点:足が出ないか、支えないと転ぶか、自然に転ぶ

代償的な修正ステップ−後方 3点:1歩の大きなステップで、自力で回復する

2点:2歩以上の踏み出しが必要だが、安定しており自力で回復する、または1歩で平衡を回復するが不安定

1点:平衡を回復するために3歩以上の踏み出しをする、または最小介助を要する

0点:足が出ないか、支えないと転ぶか、自然に転ぶ

代償的な修正ステップ−側方 (左右測定)

3点:通常の長さ/幅の 1 歩で自力で回復する(交差、側方ステップ可)

2点:何歩か必要だが、自力で回復する

1点:踏み出しはあるが、転倒を防ぐには介助を要する

0点:転倒するか、または踏み出せない

バランスのための感覚統合(修正版 CTSIB) 開眼-硬い地面

3点:30秒安定

2点:30秒不安定

1点:<30秒

0点:不可能

閉眼-硬い地面

3点:30秒安定

2点:30秒不安定

1点:<30秒

0点:不可能

開眼-フォーム

3点:30秒安定

2点:30秒不安定

1点:<30秒

0点:不可能

閉眼-フォーム

3点:30秒安定

2点:30秒不安定

1点:<30秒

0点:不可能

斜面台—閉眼 3点:自力で立ち、過度に揺れることなく安定し、重力に対して垂直に 30 秒間保てる

2点:自力で30秒間立てるが、19B の検査よりも動揺する、または斜面に対し垂直になる

1点:触る程度の介助が必要か、または介助なしで10-20秒は立てる

0点:>10秒立てない、または自力で試みることをしない

歩行−平地 3点:6mを十分な速度(≦5.5秒)で歩き、不安定な要素がない

2点:6mを遅い速度(>5.5秒)で歩き、不安定な要素がない

1点:6m歩けるが、不安定な要素がある(広い歩隔、体幹側方動揺、歩幅が一定しない)

−速度は問わない

0点:介助なしに 6m歩けない、または著明な逸脱あるいは重度の不安定性を呈する

歩行速度の変化 3点:バランスを崩さずにはっきりと歩行速度を変えられる

2点:バランスは崩さないが、歩行速度を変えることができない

1点:歩行速度は変えるが、不安定な徴候がある

0点:はっきりと速度を変えられず、不安定な徴候もある

頭を水平回旋させながらの歩行 3点:歩行速度を変えず、良好なバランスを保ちながら頭部を回旋する

2点:歩行速度が低下するが、スムーズに頭部を回旋する

1点:バランスを崩しながら頭部を回旋する

0点:速度が低下し、バランスを崩しながら頭部を回旋する、かつ/または歩きながら頭を回旋できない

歩行時ピボットターン 3点:バランス良く、素早く(≦3 ステップ)足を揃えながらターンする

2点:バランス良く、ゆっくり(≧4ステップ)足を揃えながらターンする

1点:速度にかかわらず、ややバランスを崩しながら足を揃えながらターンする

0点:速度にかかわらず、著明にバランスを崩し、足を揃えながらのターンができない

障害物またぎ 3点:速度を変えず、良好なバランスを保ちながら 2つ重ねた靴箱を越えられる

2点:速度が落ちるが、良好なバランスを保ちながら2つ重ねた靴箱を越える

1点:バランスを崩しながら靴箱を越えるか、靴箱に触れる

0点:靴箱を越えられずかつバランスを崩して速度が落ちるか、または介助してもできない

TIMED “GET UP& GO” 3点:速く(<11秒)、バランス良好

2点:遅く(>11秒)、バランス良好

1点:速く(<11秒)、不安定

0点:遅く(>11秒)かつ不安定

二重課題付きTIMED “GET UP& GO” 3点:数字逆唱の速度や正確さについて座位と立位に明らかな変化がなく、歩行速度も変わらない

2点:数字逆唱が明らかに遅くなるか、言いよどむ、間違える、または二重課題において歩行速度が低下(10%以上)する

1点:二重課題において、認知課題と歩行速度(10%以上低下)の両方に影響が出る

0点:歩きながら数字逆唱ができない、あるいはカウントすると歩行がとまる

スコアの計算方法

  • セクションⅠ(生体力学的制約):  /15×100 =
  • セクションⅡ(安定限界/垂直性):  /21×100 = 
  • セクションⅢ(姿勢変化/予測的姿勢制御):  /18×100 = 
  • セクションⅣ(反応):  /18×100 = 
  • セクションⅤ(感覚):  /15×100 = 
  • セクションⅥ(歩行安定性):  /21×100 = 
  • 合計: /108点=   (%総計)

BESTestのMCID、MDC

運動器疾患

 変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を受けた患者を対象とした調査では、Functional Gait Assessmentで評価した歩行能力の改善(4点以上)をアンカーとした時のMCIDは6-8点だったことが報告されています[7]。

中枢神経疾患

 軽度から中等度の脊髄小脳変性症患者を対象とした調査では、MDCは8.7点だったことが報告されています[8]。

 歩行可能の脳性麻痺の成人を対象とした調査では、MDCは4.9%だったことが報告されています[9]。

地域在住高齢者

 地域在住高齢者を対象とした調査では、MDCは9点だったことが報告されています[10]。

 地域在住高齢者を対象とした別の調査では、MDCは7.6%(8.2点)だったことが報告されています[11]。

おわりに

 今回はBESTestについて、評価方法とMCID、MDCについてまとめました。BESTestのMCIDはまだ報告が少ない状態で、MDCについてもあまり多くはありません。一方で、次回ご紹介するBESTestの短縮版であるMini−BESTestの方が報告数が多く、臨床でも使用しやすいと思いますので、次回のまとめブログをお楽しみください。

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参考文献

[1] Viveiro, et al. Reliability, Validity, and Ability to Identity Fall Status of the Berg Balance Scale, Balance Evaluation Systems Test (BESTest), Mini-BESTest, and Brief-BESTest in Older Adults Who Live in Nursing Homes. J Geriatr Phys Ther. 2019 Oct/Dec;42(4):E45-E54.

[2] Magnani, et al. Use of the BESTest and the Mini-BESTest for Fall Risk Prediction in Community-Dwelling Older Adults Between 60 and 102 Years of Age. J Geriatr Phys Ther. 2020 Oct/Dec;43(4):179-184.

[3] Sahin, et al. The sensitivity and specificity of the balance evaluation systems test-BESTest in determining risk of fall in stroke patients. NeuroRehabilitation. 2019;44(1):67-77.

[4] Leddy, et al. Utility of the Mini-BESTest, BESTest, and BESTest sections for balance assessments in individuals with Parkinson disease. J Neurol Phys Ther. 2011 Jun;35(2):90-7.

[5] Jácome, et al. Validity, Reliability, and Ability to Identify Fall Status of the Berg Balance Scale, BESTest, Mini-BESTest, and Brief-BESTest in Patients With COPD. Phys Ther. 2016 Nov;96(11):1807-1815.

[6] Horak, et al. The Balance Evaluation Systems Test (BESTest) to Differentiate Balance Deficits. Phys Ther. 2009 May; 89(5): 484–498.

[7] Chan, et al. Minimal Clinically Important Difference of Four Commonly Used Balance Assessment Tools in Individuals after Total Knee Arthroplasty: A Prospective Cohort Study. PM R. 2020 Mar;12(3):238-245.

[8] Kondo, et al. Test-retest reliability and minimal detectable change of the Balance Evaluation Systems Test and its two abbreviated versions in persons with mild to moderate spinocerebellar ataxia: A pilot study. NeuroRehabilitation. 2020;47(4):479-486.

[9] Levin, et al. Test-retest reliability and minimal detectable change for measures of balance and gait in adults with cerebral palsy. Gait Posture. 2019 Jul;72:96-101.

[10] Marques, et al. Reliability, Validity, and Ability to Identify Fall Status of the Balance Evaluation Systems Test, Mini-Balance Evaluation Systems Test, and Brief-Balance Evaluation Systems Test in Older People Living in the Community. Arch Phys Med Rehabil. 2016 Dec;97(12):2166-2173.

[11] Wang-Hsu, et al. Interrater and Test-Retest Reliability and Minimal Detectable Change of the Balance Evaluation Systems Test (BESTest) and Subsystems With Community-Dwelling Older Adults. J Geriatr Phys Ther. 2018 Jul/Sep;41(3):173-179.