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嚥下理学療法⑲ 脳卒中 座位編③

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食事環境、椅子、テーブル|2023.6.23|最終更新:2023.6.23|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 脳卒中患者さんでは、姿勢制御能力や体幹機能、上肢機能の低下、片麻痺による筋緊張の左右不均衡などによって、不良姿勢になりやすくなります。座位練習などで機能、能力の向上が図れれば良いですが、すぐに改善というわけにはいかないことが多いと思います。その場合には環境を調整することで残存機能を最大限活かし、食事動作、摂食嚥下機能を高める介入が必要になります。今回は、食事動作、摂食嚥下に影響する椅子やテーブルの調整について、脳卒中患者さんのケースで見ていきたいと思います。

本記事でわかること

✅ 食事環境は摂食嚥下に影響する

✅ 椅子は身体を安定させるための土台

✅ テーブルと身体の関係性も確認する

椅子

 一般的なシーティングについては、清書をご参照いただくとして、ここでは、脳卒中患者さんの特徴に合わせた椅子、座面環境の調整についてまとめます。

 非麻痺側で食事をする場合には、食事動作中に体幹を安定させることが、安全かつ円滑に食事を行うために必要な要素です。体幹が不安定な状態では、非麻痺側の上肢はアームレストを掴んで姿勢を保持することに利用されます。麻痺側の筋緊張が高い患者さんでは、その状態で非麻痺側上肢を使用しようとすると、麻痺側の筋緊張が高くなり、上下肢の屈曲パターンが増強します。肩甲骨は挙上・内転し、体幹は麻痺側後方に引かれます。体幹が麻痺側後方に引かれると、食事動作に伴う体幹前傾ができなくなるため、食事と身体の距離を縮めることができず、食べ物が取りにくくなります。また、口までの距離が長いことで、より高度な上肢機能が要求されるため、取りこぼしが多くなります。麻痺側の筋緊張が低い患者さんでは、非麻痺側上肢を使用することで麻痺側に傾いてしまいます。麻痺側に傾いた状態で食事動作をするため、頭頚部も傾いた状態となります。頭頚部が傾いた状態では、視野がせまくなり、食べ物の認識が難しくなります。また、非麻痺側上肢も傾いた状態で動作をしなければいけないため、食べ物を取って口まで運ぶことが難しくなります。

 体幹を安定させるためには、座面や背面からのアプローチが有効です。普通型の車椅子は、座面とバックレストが後方に傾斜している設計になっているため、骨盤後傾、脊椎後弯になりやすくなっています。そのため、まずは背面が垂直に近くなるようにクッション等を入れ、骨盤が前傾しやすいように座面の後方に畳んだタオルを入れて、体幹筋を働きやすくします。車椅子の幅が広く、身体の幅と合っていない場合には、背面に両端を筒状に丸めたバスタオルを入れて、体幹を側方からサポートします。また、座面にも同様に両端を筒状に丸めたタオルを敷くことで、骨盤の側方傾斜を防ぐことができます。麻痺側の筋緊張が高い患者さんの肩甲骨の挙上・内転に対しては、肩甲骨の後方にタオルをはさみ、肩甲骨を外転位に誘導します。また、腋窩にタオルやクッションをはさみ、肩甲上腕関節を軽度屈曲・外転位に誘導することも有効です。麻痺側の筋緊張が低い患者さんでは、麻痺側に体幹が傾かないように、上記の背面のアプローチに加え、麻痺側にタオルを加え、体幹が傾かないようにサポートします。また、麻痺側上肢が下に垂れた状態では、上肢の重みで体幹が傾きやすくなるため、アームレストまたはテーブル上に麻痺側上肢を乗せることも有効です。上記の介入によって体幹が安定したかの評価としては、非麻痺側の上肢が自由に使えるようになったかを確認します

 姿勢を安定させるためには、足底が安定した場所に接地していることも大切です。食事動作に伴い重心を移動させる際には、下肢にも荷重がかかります。足底の接地面が不安定だと踏ん張りが効かなくなるため、姿勢の安定性が低下します。フットレストから足を下ろし、床面に足底全面が接地できれば良いですが、小柄な方や、褥瘡予防で厚めのクッションを使用している場合などでは、フットレストから足部を降ろしても、足底が接地できないことも少なくないと思います。そのような時には、雑誌や新聞紙を複数重ねてガムテープ等で固定して足台として使用することで、足底接地ができるように調整します。

 麻痺側で食事をする場合には、麻痺側上肢を少ない労力で動かしやすくすることが大切です。上肢操作に過度な努力が必要になると、上肢の動きの多様性が失われてしまい、食べ物の形質や位置、食器、食具など条件の違いに対して適応することができず、食べることができる食品が限られてしまいます。また、食事の途中で疲れてしまい、食事摂取量が減少してしまいます。さらに、上肢操作の努力量が増すと、肩甲帯や頸部周囲の筋緊張も高くなってしまいます。その結果、肩甲帯や頸部周囲の嚥下関連筋群が嚥下の際に十分な活動が行えなくなってしまい、誤嚥の危険性が高くなってしまいます。このような状況を改善するためには、環境を調整して低下している上肢機能を補うことで、食事動作の労力を減らすことが大切です。

 上肢操作で問題となることが多いのが、リーチ動作の際に上肢を空中に浮かせた状態で操作することです。一側の上肢の重さは体重の約6-8%程度と言われています。体重50kgの人であれば、約3-4kgとなります。麻痺側の上肢は、運動麻痺により筋力を発揮することが難しくなっているため、上肢を空間で保持した状態でリーチ動作を行う際に過剰な努力が必要になります。対策としては、肘を置ける環境に調整をして、上肢の重さをサポートすることが有効です。具体的には、テーブルと肘の高さが同じになるようにタオルを畳んでアームレストの上に置き、上肢を浮かせなくても肘関節の屈伸だけでリーチ動作が行えるように調整します。アームレストでの調整が難しい場合には、カットテーブルを使用することも有効です。

テーブル

 椅子の調整は、食事動作の土台となる体幹や上肢近位部の安定性を高める、重心移動を行いやすくすることが主な役割になります。テーブルの調整も姿勢の安定や重心移動の役割がありますが、食べ物の認知や食器・食具の操作のしやすさにも影響してきます。

 テーブルの調整では、高さ身体との距離を主に確認します。まずは高さです。テーブルが高すぎる場合、食べ物を取る際に上肢を高く挙げる必要があるため、より高い上肢の空間保持能力が求められます。また、食べ物と身体の位置関係が平面に近づくため、前腕回内、肩関節外転・内旋の可動域が必要になります。さらに、テーブルの高さに合わせて上肢を使おうとするため、上肢から肩甲帯にかけて常に挙上位を強いられてしまい、肩甲帯から頸部の筋緊張が高くなってしまいます。肩甲帯から頸部周囲の筋緊張が高くなると、摂食嚥下に関連する筋群の筋緊張も高くなるため、効率の良い摂食嚥下を行うことが難しくなります。

 反対に、テーブルが低い場合には、身体と食べ物との距離が離れてしまうため、口まで運ぶ際に頭頸部、体幹の前傾をより大きくする必要があります。脊椎の柔軟性や伸展筋力口唇閉鎖など口腔への取り込み能力が保たれていれば大きな問題とはならないのですが、低下している場合には口まで運ぶ過程でかなりの努力を必要とするため、食事による体力の消耗が大きくなってしまい、結果として途中で疲れて食事摂取量が減少してしまいます。また、体幹前傾に伴い腹部が圧迫されるため、早期に腹部膨満感を感じやすくなってしまい、食事摂取量が減少する危険性も高くなります。さらに、食具を操作する上肢とは反対側の上肢で身体を支える必要ある方であれば、テーブルが低いことでテーブルに乗せる上肢の位置も低くなるため、身体が支持側に傾いてしまいます。

 テーブルの高さに問題に対しては、その方の体格に合ったテーブルを選択することが大切です。しかし、病院や施設ではお一人お一人の身体に合ったテーブルを使用していただくことが難しいことが多いと思います。一般的なテーブルで高さが合わない場合には、高さ調節ができるオーバーテーブルを使用することが有効です。オーバーテーブルがない場合には、テーブルが高すぎる時は椅子の座面にクッションを敷いて座面を高くして、相対的にテーブルを低くするといった工夫も有効です。反対にテーブルが低すぎる時は、食事を乗せたお盆の下に雑誌などを置いて高くする方法もあります。

 次に確認するのは、テーブルと身体との距離です。テーブルと身体の距離はだいたい握り拳1つ分程度が良いとされています。テーブルと身体が遠くなると、食べ物と口との距離が遠くなるため、重心移動やリーチ動作の距離が大きくなり、より高い能力が求められます。距離が遠くなってしまう要因の1つとして、車椅子のアームレストやフットレストが当たってしまい、近づけることができないことがあります。テーブルの高さが低いことや、フットレストがテーブルの足にあたってしまうことなどが考えられます。高さについては、先ほど記載したような対応で解決できる可能性があります。フットレストが当たってしまう場合には、食事の時だけ普通の椅子に移ることで、フットレストを気にせずテーブルと身体との距離を適正化することができます。この時には、使用する椅子が本人の身体に合っていることが前提となりますので、椅子が身体と合っているかの確認も必要です。別の方法としては、カットテーブルの使用も有効です。しかし、カットテーブルは使用者の体格や姿勢によっては身体との距離が近くなりすぎてしまい、逆に食べにくさが増してしまう危険性があるため、使用することで本当に食べやすくなるか評価が必要です。

おわりに

 今回は摂食嚥下に関係する食事環境として、椅子とテーブルについてまとめました。現場では物品が足りないために、調整に難渋することが多いと思います。今回まとめた内容はあくまで一例なので、現場の備品と相談しながら調整を試みてください。

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✅記事監修(✅編集(てろろぐ

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参考文献

[1] 吉田剛, 他. 理学療法実践レクチャー 栄養・嚥下理学療法. 医歯薬出版株式会社, 2018.

[2] 内田学, 他. 姿勢から介入する摂食嚥下 脳卒中患者のリハビリテーション. MEDICAL VIEW社, 2017.