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嚥下理学療法④ 認知、感覚、反射

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食物認知、味覚、嚥下反射|2022.2.17|最終更新:2022.2.17|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回までは、摂食嚥下に関係する構造についてみていきました。今回は、認知や感覚、反射といった生理学的な部分をみていきたいと思います。

本記事でわかること

✅ 食べるためには、食べ物の認知が必要

✅ 舌の感覚は食べるために重要

✅ 高齢者では嚥下反射が低下している可能性が高い

摂食嚥下に関係する認知機能

 食べるという行動は、口の中に食べ物が入る前から行われています。皆さんも想像してみてください。目隠しをして食べる、鼻をつまんで食べる、耳栓をして食べる、手を使わずに食べる。味覚以外の5感がそれぞれ関係していますが、その感覚が遮断された状態で口に食べ物を入れると、普段通りに食事をするときと比べてどうでしょうか?恐らく、美味しさが減少してしまうのではないでしょうか。

 人が食べ物を食べる際には、まず食べ物を認識することから始まります。目の前に置いてある物が「食べ物」であると認識できなけれ、食事行動に移りません。皆さんは見たこともない食材が目の前に置かれたら、すぐに食べようとするでしょうか?例えば、最近は昆虫食が日本にも広がってきていますが、目の前に見た目がそのまま昆虫の料理が出されたらどうでしょうか?昆虫を普段から食べている地域の人であれば、問題なく食行動に移ると思います。しかし、昆虫を食べる習慣がない地域の人では、「食べ物」として認識することができないため、食べようとは思わないのではないでしょうか。これと同じように、認知機能が低下していたり、レビー小体型認知症のように幻視があったりする場合には、食物認知が行えないため、食行動に移ることができません。また、目の前にある食べ物が嫌いな物であったり、過去に食べて不快な経験(腹痛、嘔気など)をしていたりする物であれば、「食べる物」としての認識は薄れてしまいます。このような認識は、視覚や嗅覚の情報と過去の記憶とを照合する作業によって行われます。

 また、空腹感を感じていない場合にも、「食べたい」という欲求が湧いてこないため、「食べ物」と認識できても「食べたい物」という認識ができず、食行動には移りません。空腹感や満腹感は、視床下部にある摂食中枢や満腹中枢によって行われます。これらの食欲中枢の調整は、食欲関連ホルモンや血糖値などの情報によって行われます。皆さんも、食べ過ぎや腹痛で苦しい時に、大好物を目の前に置かれたらどう感じるでしょうか?「好きな物は別腹」という方もいらっしゃるかと思いますが、多くの場合には食べようとは思えないのではないでしょうか。食べるという行動を開始するには、食べ物を認識すること、食べたいという欲求があることが重要となります。そのため、食事の時間に食行動が生じない方がいらっしゃれば、なぜ食べようとしないのかを考えるようにしてみてください。

 

口腔内の感覚

 口腔内の感覚で最も重要となるのは、舌の感覚です。舌といえば味覚ですが、それだけでなく、体性感覚も重要です。

 まずは味覚についてです。味覚は舌前⅔を鼓索神経(顔面神経)が、後ろ⅓を舌咽神経が支配しています。舌にある味蕾という受容体に特定の化学物質が結合することで塩味、酸味、甘味、苦味、旨味を感じることができます。舌で受け取った感覚は、延髄の孤束核、視床を経て、大脳の味覚野に到達します。味覚野では、それぞれの味の質や強さなどの判断が行われます。味覚情報は扁桃体や視床下部などにも送られます。扁桃体では、味覚以外の情報(見た目、匂い、食感、環境など)と統合され、過去の経験と照合して、その食べ物が食べても良いものか、好きか嫌いかなどの価値判断が行われます。視床下部では、その価値判断と体内情報(栄養素の過不足、ホルモンバランス、自律神経活動など)が統合され、食欲が調節されます。「食欲不振」として一言で済ませられてしまうことが多いですが、食欲に関係する要素は多岐にわたっているため、何が引き金となって食欲が低下しているのかを丁寧に分析していく必要があります。

 次に体性感覚についてです。皆さんは、食べた物がどんな物であるか、どのように認識しているか意識したことはあるでしょうか?また、咀嚼や嚥下をする際に、どのようにして食物を移動させているか、意識したことがあるでしょうか?これらに深く関わっているのが、舌の体性感覚です。舌の体性感覚には舌筋の固有感覚、触覚、温痛覚があり、三叉神経の枝の1つである舌神経によって支配されています。舌の体性感覚は物性の認知、咀嚼運動の調節、食塊形成、食物移送を行う際に重要な役割を持っています。これらの感覚は、加齢に伴い識別能力が低下するため、高齢者の摂食嚥下障害の要因の1つとして、舌の体性感覚の低下も考慮する必要があります。例えば、口腔内が汚く、舌に舌苔と呼ばれる汚れが大量に付着していれば、舌の感覚は低下してしまうため、摂食嚥下に影響します。また、脱水などで舌が乾いて表面がひび割れしているような場合にも、舌の感覚は低下してしまいます。舌を見せてもらい、「なにかおかしい」と感じることがあれば、医師や歯科医師、看護師さんなど他職種に相談してみてください。

嚥下反射

 嚥下反射は、口腔や咽頭の粘膜にある感覚受容器からの求心性の入力によって開始されます。感覚受容器からの信号は舌咽神経や迷走神経を介して、延髄の孤束核にある反射中枢に伝えられます。感覚情報を受けて、反射中枢から複数の脳神経を介して運動情報が遠心性に出力され、嚥下に関連する筋群が協調的に動かされます。感覚情報の一部は、視床を介して大脳皮質にも送られ、嚥下中枢の活動の閾値を調節しています。また、嚥下反射には大脳基底核も関与しています。大脳基底核に病変を有する疾患の患者さんでは、嚥下機能が低下していることが多いです。代表的な病態として、パーキンソニズムを有する患者さんでは、不顕性誤嚥の頻度が増加します。これは、黒質-線条体からのドーパミン分泌量が減少することに起因していると考えられています。高齢者では、薬剤によるパーキンソニズムや大脳基底核領域の脳梗塞の既往など、大脳基底核病変を既往に持つ方は少なくないので、明らかな麻痺がある脳血管障害やパーキンソン病の患者さんではなくても、嚥下反射が低下している可能性を考慮しておく必要があります。普段、姿勢が変わった時に唾液でむせる、最近活気が低くなってきた、微熱がだらだら続くなどがある場合には、嚥下反射が低下し、唾液誤嚥から誤嚥性肺炎を発症する、またはしている可能性が高いので、他の所見も確認することが大切です。

おわりに

 今回は、食べるために必要な認知機能や感覚、反射についてみてきました。認知機能、感覚、反射は、理学療法とは直接関係ないように思われるかと思いますが、理学療法を効率よく進めていくためには外せない確認ポイントです。食事場面を観察するだけでも、多くの情報を得ることができるので、食事観察はオススメです。

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✅記事監修(✅編集(てろろぐ

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参考文献

[1] 日本摂食嚥下リハビリテーション学会, eラーニングテキスト