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理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性 歩行① 歩行速度

歩行速度、評価、MCID|2023.8.11|最終更新:2023.8.11|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 今回からは、理学療法で用いられる評価について、その正式な測定方法とどれくらい改善すれば臨床的に意味のある改善と言えるのかについて見ていきます。意味のある改善は、「MCID(Minimal Clinically Important Difference」という指標が用いられます。MCIDとは、治療の有効性が得られたと判断できる評価尺度の変化量で、治療による変化量がMCIDを上回っていれば、意味のある変化が生じたと判断することができます。同じような言葉に「MDC(Minimal Detectable Change)」という言葉があります。こちらは「最小可検変化量」と訳され、測定誤差を超えて変化しているかを示す指標です。MCIDとMDCは近似することが多いですが、調査方法などによっては若干のズレが生じます。臨床で用いる場合には、患者さんが変化を感じることが大切なので、MCIDを用いる方が良いと思いますので、ここではMCIDに焦点を当ててまとめていきます。

本記事でわかること

✅ 歩行速度は重要な予後関連因子

✅ 測定距離は変えても良いが、その距離を用いた理由と根拠の明記が必要

✅ 疾患ごとに歩行速度のMCIDは若干異なる

歩行速度と予後

 歩行速度は予後予測因子として、複数の研究で有用性が認められています。65歳以上の地域在住高齢者を対象にした調査では、歩行速度が速いほど10年生存率が高くなることが報告されています[1]。また、65歳以上の地域在住高齢者のADL制限に関与する因子を調査したシステマティックレビューでは、歩行速度が遅いことがADL制限に対して最も強い予測因子だったことが報告されています[2]。さらに、60歳以上の高齢外来患者を対象とした調査では、入院によって歩行速度が低下すると、その後のIADLに制限が生じる危険性が高くなることが報告されています[3]。これ以外にも、多くの調査で歩行速度が予後の予測因子であることが報告されており、歩行速度を評価することの重要性が明らかになっています。

歩行速度の測定方法

 歩行速度は、平坦な路面を指定された距離を歩くのにかかる時間を示します。先行研究では、測定に用いている歩行距離は3-10mと幅があり、速度を測定する歩行路に加えて加速路2m、減速路2mを設定している報告が多いです(SPPBの歩行速度など、一部では加速路、減速路を設定しない方法もあります)。

 歩行速度の測定は、快適な速度(通常歩行速度や自然歩行速度とも呼ばれます)と最大歩行速度の2条件で測定します。スタート地点から歩き始め、加速路を通過し、測定範囲内に入った時点から時間を時間の計測を始め、減速路に入るところで計測を終わります。被験者は減速路を歩き終えたところで歩くのを止めます。減速路に入ったところで止まってしまう方も少なくないため、被験者には減速路の最後まで歩くように予め指示しておく必要があります。測定はそれぞれの条件で2回ずつ行い、各試行で測定に用いた歩行距離を実際に計測した歩行時間で除して歩行速度(m/秒)を算出し、平均快適歩行速度平均最大歩行速度を算出します。

 日本では測定に用いる歩行距離は10m+加速路2m+減速路2mを用いることが一般的ですが、クリニックや通所、在宅など合計14mの歩行路を確保することが難しい場面は多いと思います。3mや4m、6mなど10mよりも短い距離でも測定妥当性が検証されている距離はありますので、確保できる距離で測定しても問題ありません。測定距離を変えても10m歩行と全く同じとして比較することが適切かどうかは明らかではありませんので、記録に残したりどこかで報告する際には、測定で用いた歩行距離は結果のところに明記しておく必要があります。また、加速路と減速路については、できるだけあった方が良いと思われますが、設定せずに測定している調査報告もありますので、確保できない場合には確保していないことを評価結果に明記しておく必要があります。

歩行速度のMCID

 歩行速度のMCIDは、様々な疾患で調査が行われており、数値が示されています。

脳卒中

 初発の脳卒中の発症後から60日までのmodified Rankin Scale (mRS) の改善に寄与する歩行速度を調査した報告では、歩行速度のMCIDは0.16m/秒であることが示されています[4]。

 外来リハビリを受けている脳卒中患者さん(発症後平均56日)では、患者さんが「改善した」と自覚した歩行速度の変化は0.175m/秒だったことが報告されています[5]。

大腿骨近位部骨折

 大腿骨近位部骨折患者さんを対象として歩行速度を測定している3件の研究のデータを収集し、解析を行った調査では、習慣的な歩行速度が0.1m/秒改善することが臨床的に重要であることが報告されています[6]。

COPD

 呼吸リハビリテーションを行っているCOPD患者さんを対象とした調査では、患者さんが認識できる歩行速度の改善は0.08m/秒だったことが報告されています[7]。

心血管疾患

 75歳以上の急性心血管疾患患者さんを対象とした調査では、患者さんが治療が有効で予後が改善したと認識できる歩行速度の改善は0.1m/秒だったことが報告されています[8]。

おわりに

 今回は、歩行速度について、その測定方法とどれくらいの改善が意味があるのか、についてまとめました。疾患によって目安となる歩行速度は異なりますし、セッティングや何をアンカーにするかでも、どれくらい歩行速度が改善すると意味のある変化なのかは変わってくると思います。MCIDの研究はまだ限られた領域しか調査がされていないので、今後増えてくることが予想されます。

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参考文献

[1] Studenski, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011 Jan 5;305(1):50-8.

[2] Vermeulen, et al. Predicting ADL disability in community-dwelling elderly people using physical frailty indicators: a systematic review. BMC Geriatr. 2011 Jul 1;11:33.

[3] Sprung, et al. Gait Speed and Instrumental Activities of Daily Living in Older Adults After Hospitalization: A Longitudinal Population-Based Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2021 Sep 13;76(10):e272-e280.

[4] Tilson, et al. Meaningful gait speed improvement during the first 60 days poststroke: minimal clinically important difference. Phys Ther. 2010 Feb;90(2):196-208.

[5] Fulk, et al. Estimating clinically important change in gait speed in people with stroke undergoing outpatient rehabilitation. J Neurol Phys Ther. 2011 Jun;35(2):82-9.

[6] Palombaro, et al. Determining meaningful changes in gait speed after hip fracture. Phys Ther. 2006 Jun;86(6):809-16.

[7] Kon, et al. The 4-metre gait speed in COPD: responsiveness and minimal clinically important difference. Eur Respir J. 2014 May;43(5):1298-305.

[8] Tamura, et al. Minimal clinically important difference of the short physical performance battery and comfortable walking speed in old-old adults with acute cardiovascular disease: a multicenter, prospective, observational study. Disabil Rehabil. 2023 Mar;45(6):1079-1086.