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嚥下理学療法⑱ 脳卒中 座位編②

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頭頚部、呼吸機能、咳嗽力|2023.6.16|最終更新:2023.6.16|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回は座位レベルの脳卒中患者さんへの嚥下理学療法介入について、主に姿勢調整と上肢操作についてまとめました。今回は頭頸部の嚥下関連筋群や呼吸機能に対しての嚥下理学療法について見ていきます。頭部の重量は体重の約10%と言われており、抗重力姿勢では頭頸部の筋群がバランスよく働くことで支えられています。そのため、摂食嚥下のためには頭頸部の筋群が正常に機能することが大切になります。また、呼吸機能は嚥下の際の気道保護や咳嗽による誤嚥物の喀出のためにも重要な機能です。そのため、呼吸機能は安全に摂食嚥下を行うために重要な機能です。

本記事でわかること

✅ 頭頸部の筋群が姿勢保持のために過活動になると、嚥下機能が低下する

✅ 脳卒中患者さんでは、呼吸機能も低下する

✅ 呼吸機能は呼吸と嚥下の協調性に重要

頭頚部

 座位姿勢や上肢機能が改善しても、頭頸部の筋群の筋緊張異常や筋力低下があると、摂食嚥下はうまくいきません。片麻痺患者さんでは頭頸部の筋群にも筋緊張の左右差が生じます。また、上述したように筋緊張異常によって姿勢調節能力が低下するため、肩甲帯から頭頸部の摂食嚥下に関係する筋群も姿勢制御に参加するようになります。摂食嚥下に関係する筋群が姿勢制御に参加すると、摂食嚥下の際に十分に機能を発揮することができず、結果として摂食嚥下機能が低下してしまいます。頭頸部の筋群の柔軟性、運動機能、協調性が改善することで、円滑で機能的な摂食嚥下が行えるようになります。

 まずは、筋緊張異常や不良姿勢によって生じている頭頸部の可動域の改善を図ります。視診や触診で頭頸部周囲の筋緊張を確認し、自動・他動で前後屈、側屈、回旋の可動域を確認します。また、空嚥下や甲状軟骨を他動的に動かし、舌骨の可動性の確認も行います。筋緊張亢進や可動域制限があれば、ストレッチやモビライゼーションなどを用いて筋緊張および伸長性の改善を図ります。この時、椎骨動脈の狭窄や頚椎椎間板ヘルニア、環軸関節の不安定性などがないか、どこまで動かしても安全かを医師に確認する必要があります。特に、高齢の脳卒中患者さんでは加齢による血管や椎間板、関節、靭帯の脆弱性が存在している可能性が高いため注意が必要です。

 摂食嚥下に関連する筋群に麻痺や筋力低下がある場合には、機能改善のために筋力強化運動を行います。舌骨上筋群に対しては頭部挙上運動、顎引き運動、嚥下おでこ体操、開口運動などの有効性が認められています[2]。また、呼気トレーニングにも舌骨筋群の機能向上効果が認められています[3]。筋力強化をする際には、代償動作に注意する必要があります。頭頸部屈曲動作では、負荷量が過度に強いと胸鎖乳突筋などのアウターマッスルが活動してしまい、舌骨上筋群などの小さい筋の活動が生じにくくなってしまいます。また、脳卒中患者さんは、過度な努力が必要な状況では共同運動パターンが出現しやすくなるため、共同運動パターンが生じない程度の負荷量で調整することも必要になります。

 脳卒中患者さんでは姿勢反射や平衡反応が障害されていることが少なくありません。身体の傾きや重心移動に対して頭頸部を正中位に維持することは、摂食嚥下に関係する筋群が正常に働くために必要な要素です。頭頸部の立ち直り反応が正常に機能していない場合には、鏡などを利用して身体の動きに対して頭頸部正中位を保つ練習を行います。自動または他動的に身体を傾け、頭頸部の動きを確認してもらいながら立ち直り反応を促します。バランスマットやバランスボールなど不安定な条件下での練習も、頭頸部の姿勢反射の練習に有用です。

呼吸機能

 嚥下をする際には、気道に食物が入らないようにするために喉頭によって蓋がされます。そのため、嚥下をする際には呼吸を一時的に止める必要があります。また、万が一喉頭に食物が侵入したとしても、咳嗽力があれば喀出することができ、誤嚥を防ぐことができます。そのため、呼吸機能は嚥下障害による誤嚥性肺炎を予防するために重要な機能です。

 脳卒中患者さんでは、横隔膜や肩甲帯・頸部周囲の呼吸補助筋の運動麻痺や筋緊張異常が生じ、麻痺側の肺の呼吸機能が低下します。また、脳卒中患者さんでは喫煙歴がある方も少なくないため、既往歴に呼吸器疾患が無くても、呼吸機能が低下している可能性があります。さらに、脳卒中は脳の血管の疾患であるため、心血管系の機能も低下している可能性があります。心血管系の機能低下は呼吸機能の低下にもつながるため、既往歴や心電図などの検査結果の確認が必要です。

 急性期は、意識障害による嚥下障害、安静臥床による下側肺障害、口腔環境不良による誤嚥性肺炎など、様々な要因で呼吸機能が低下する危険性が高い状態です。患者さん自身で体位変換を行うことが難しい場合には、誤嚥を予防するポジショニングが必要です。具体的には、唾液誤嚥を予防するためにヘッドアップ30-45度で管理することが推奨されています[2]。また、側臥位や半側臥位にすることで、口腔内の唾液や痰を口腔外に出しやすくすることも誤嚥性肺炎予防に有効です[3]。

 意識障害や循環動態が改善してきたら離床を進めていきます。臥位から座位になるだけでも、重力の影響で全体的に肺が広がりやすくなり、背側の肺区域の換気も改善されるため、呼吸機能が改善していきます。また、脳卒中患者さんでは呼吸筋力と体幹機能は関連しており、呼吸機能トレーニングによって体幹機能が改善します[4]。姿勢を修正することも、呼吸機能の改善に有効です。脳卒中患者さんでは筋緊張異常によって脊椎後弯や側方傾斜などの不良姿勢になりやすく、不良姿勢は胸郭の可動性を低下させます。姿勢制御や筋緊張をコントロールすることで姿勢を修正し、胸郭の可動性を改善することで換気が改善されます。

 経口摂取を進めると同時に、呼吸と嚥下の協調性の改善も必要です。嚥下の際には、呼気→嚥下→呼気のパターンが正常です。これは、食べ物が吸気と共に気道に侵入するのを防ぐためです。誤嚥性肺炎を発症するリスクが高い方は、嚥下の前後どちらかまたは両方で吸気が行われていることが多いです。また、嚥下中は誤嚥を防ぐために気道が閉鎖される必要があります。しかし、呼吸機能が低下している方では、嚥下の際に呼吸を止めておくことができないため、誤嚥のリスクが高くなります。この呼吸と嚥下のパターンを改善させるためには、深呼吸や胸郭可動域運動などの換気量を増やす練習や息こらえ嚥下、呼気→嚥下→呼気のパターンの練習などを行うことが有効です。

 

おわりに

 座位レベルの脳卒中患者さんに対しての嚥下理学療法例として、頭頸部の筋群と呼吸機能への介入についてまとめました。今回記載したものはあくまで一般的な例なので、実際の患者さんの能力や介入による反応を見ながら、介入内容を調整していくことが大切です。

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参考文献

[1] 吉田剛, 他. 理学療法実践レクチャー 栄養・嚥下理学療法. 医歯薬出版株式会社, 2018.

[2] 志馬 伸朗. 「成人肺炎診療ガイドライン2017」を読み解く 人工呼吸器関連肺炎(VAP), 呼吸臨床, 2017年1巻3号.

[3] Vangelis G Alexiou, et al. Impact of patient position on the incidence of ventilator-associated pneumonia: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Crit Care. 2009 Dec;24(4):515-22.

[4] Hsiang-Chu Pai,et al. Impact of patient position on the incidence of ventilator-associated pneumonia: a meta-analysis of randomized controlled trials. Asian Nurs Res (Korean Soc Nurs Sci). 2023 May;17(2):61-69.