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口腔期、咽頭期、食道期|2023.3.3|最終更新:2023.3.3|理学療法士が執筆・監修しています
序文
前回は先行期から準備期までの理学療法士も確認した方が良い観察のポイントについてみていきました。今回は口腔期から食道期までの観察ポイントをみていきます。
✅ 口の中の食べ物を動かすには、舌の機能が重要 ✅ 喉頭の動きは要チェック ✅ 飲み込んだ後も逆流に注意 |
口腔期
口腔期は、準備期で形成された食塊を咽頭まで送り込む時期です。固形物や液体など、飲み込む物の形態によってこの時期では、舌の運動機能が重要な役割を持っています。観察するポイントとしては、
- 上を向くなどして代償していないか。
- 嚥下前にむせないか。
- 嚥下をした後に、食物残渣が口腔内に残らないか。
などが挙げられます。
舌の運動機能が低下すると、口腔内の物を奥に移動させることが難しくなるため、上を向くなど重力を利用して代償しようとします。しかし、上を向くと気道が開いてしまうため、誤嚥のリスクが高くなります。また、上を向いて代償できるだけの頸部の可動域があれば良いですが、円背ですでに頸部伸展位になっている高齢者や、頚椎症などで頸部の動きが制限されてい方では、代償することができません。そういった方々に対しては、ポジショニングや用具の工夫などによって、代償機能を補うことで改善できる可能性があります。
また、舌の運動機能が低下することで、水分を保持しておくことが難しくなります。保持ができなくなると、嚥下反射のタイミングよりも早く水分が流れていってしまうため、誤嚥につながります。水や水分量の多い食べ物を食べた際に、「ゴックン」の前にむせるような場合には、水分を保持しておく能力が低下している可能性が考えられます。
嚥下の後に口腔内に食物残渣が残っている場合には、食塊形成や送り込みが十分に行われていないことが疑われます。舌を中心とした口腔内の機能が低下していると、送り込む過程で舌上から落ちてしまい、口腔内に食物残渣が貯留しやすくなります。嚥下の後に口腔内を観察することも大切です。
咽頭期
咽頭期は、嚥下反射によって食塊を咽頭から食道に送り込む時期です。この時期は約0.5秒で行われますが、誤嚥が生じる時期であるため、重要なポイントです。この時期の観察ポイントとしては、
- 鼻腔に食べ物が逆流しないか。
- 口腔に食べ物が逆流しないか。
- 嚥下反射が適切なタイミングで生じているか。
- 喉頭が十分挙上しているか。
- 嚥下反射の前後で呼気が行えているか。
などが挙げられます。
鼻腔や口腔に逆流しないためには、鼻腔と咽頭腔、口腔と咽頭腔を閉鎖する必要があります。鼻腔と咽頭腔の閉鎖には軟口蓋や上咽頭収縮筋の働きが必要です。鼻腔と咽頭腔が閉鎖できないと、嚥下のために咽頭圧を高めようとした際に、圧が鼻腔に逃げてしまい、食べ物も鼻腔に流れてしまいます。鼻腔の閉鎖ができていない人は、発語をする際にも空気が鼻腔に漏れてしまいやすくなるため、聞き取りにくくなります。会話をしていて、鼻から空気が漏れている場合には、嚥下の際に逆流する可能性を考慮する必要があるかもしれません。
口腔と咽頭腔の閉鎖には、舌の働きが必要です。食べ物が咽頭まで移動すると、舌根を咽頭後壁に押し付けることで咽頭内圧を高め、食べ物を食道に送るための圧力を生み出します。この時に舌の可動性が低かったり、舌の筋力低下によって咽頭内圧を高めるために十分な筋力を発揮できなかったりすれば、食道に送り込むための圧が作れず、食べ物が逆流してしまいます。逆流することがなくても、喉頭蓋谷や梨状窩に食べ物が残ってしまい、嚥下後誤嚥の危険性が高くなってしまいます。舌が萎縮していたり、動きが悪くなっていたりしないか確認することで、逆流や残留のリスクを予測することが大切です。
嚥下反射は、以前記載したように、感覚機能の低下やドーパミンの分泌不良で遅延する危険性が高くなります。また、延髄の嚥下中枢が障害されている場合にも、嚥下反射が誘発されず、食道入口部が開かないという症状が出現します。咀嚼をして飲み込もうとしているのに、なかなか「ゴックン」が生じない場合には、嚥下反射惹起が遅延している可能性があります。嚥下反射が遅れると、喉頭が塞がる前に食べ物が流れてしまうため、気道の方に食べ物が侵入してしまい、誤嚥につながります。
喉頭挙上は、気道に食べ物が侵入しないようにするために重要なポイントです。高齢者では、喉頭の位置が下方に偏位していることが多く、喉頭挙上の際に移動する距離が長くなってしまいます。移動距離が長いということは、嚥下反射の際に、必要な喉頭閉鎖に必要な高さまで挙上させるのに時間がかかってしまうため、食べ物が喉頭に侵入し、誤嚥を生じる危険性が高くなります。また、喉頭の位置が正常範囲でも、舌骨上筋群の筋力低下や舌骨下筋群の緊張が高い状態では、喉頭挙上が十分に行えないため、誤嚥の危険性が高くなります。
嚥下と呼吸は協調して行われることが大切です。呼気ー嚥下ー呼気が正常なパターンで、これは気道に食べ物が侵入するのを防ぐ役割があります。これは「嚥下性無呼吸」とも呼ばれます。呼吸機能が低下していると、嚥下の際に呼吸を止めることができず、嚥下の前後で吸気を行ってしまうため、誤嚥の危険性が高くなります。呼吸機能の低下が疑われる場合には、呼吸を止めて保持できるかを評価してみてください。
食道期
食道期は、食道に入ってきた食塊を蠕動運動で胃まで運ぶ時期です。食道には3つの狭窄部位があり、そこを問題なく通過する必要があります。また、上下の食道括約筋によって逆流が防がれています。この時期の観察ポイントとしては、
- 飲み込んだ後に、喉頭より末梢でつまり感が生じていないか。
- 嚥下後にえづくことはないか。
などが挙げられます。
食道には第6頚椎の高さの食道起始部、第5胸椎の高さの気管分岐部、第11胸椎の高さの横隔膜貫通部の3か所に、通路が狭くなる狭窄部位が存在しています。これらの狭窄部位は、疾患の影響で狭くなることがあります。例えば、大動脈瘤や肺がん、頚椎の変形は、生じた場所によっては食道を外側から圧迫し、食べた物の通過障害を生じる可能性があります。また、逆流性食道炎やその他の原因による食道の炎症によって食道が損傷されると、食塊の通りが悪くなります。食道周辺の病変や胃食道逆流症などの既往がある場合には、飲み込みにくそうにしていないかの確認が必要です。
胃まで食塊を運ぶことができても、食道括約筋が働かなければ、食べた物は逆流してきてしまいます。食べた後に嘔気が出やすい方は、逆流してきている可能性が考えられます。また、食事とは関係なく胃酸が逆流しやすい方では、食事によって症状が増悪する危険性があるので、事前に本人から聞き取りをして、医師に相談する必要があります。
おわりに
今回は、口腔期から食道期までの観察ポイントについてみてきました。今回記載してきたポイントに加えて「何か変」と感じることがあれば、医師や看護師、言語聴覚士さんに相談し、対応を検討してください。
本記事の執筆・監修・編集者
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参考文献
[1] 日本摂食嚥下リハビリテーション学会、eラーニングテキスト