会員登録はこちら

まずは14日間無料体験
すべてのコンテンツが利用可能です

嚥下理学療法⑳ パーキンソン病 摂食嚥下障害の特徴

[no_toc]

パーキンソン病、固縮、振戦|2023.6.30|最終更新:2023.6.30|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回までは脳卒中患者さんに焦点を当てて、嚥下理学療法の視点での評価、介入例をまとめてきました。今回からは、パーキンソン病患者さんの摂食嚥下障害について、理学療法士の視点での評価、介入例をまとめていきます。パーキンソン病患者さんは、高齢化に伴い年々増加しており、「パーキンソン病パンデミック」の状態になりつつあると言われています。パーキンソン病患者さんは摂食嚥下に問題を抱えることが多いため、理学療法士も関われるようになることが大切です。

本記事でわかること

✅ パーキンソン病患者さんの摂食嚥下障害有病率は高い

✅ パーキンソン病患者さんでは呼吸機能も低下している

✅ 摂食嚥下の各段階で、パーキンソン病の影響が見られる

パーキンソン病と摂食嚥下障害

 パーキンソン病患者さんでは、嚥下障害を有する割合が高く、報告によってバラつきはありますが、50%以上と言われています[1]。パーキンソン病が重症なほど嚥下障害を有する危険性は高くなりますが、嚥下障害の重症度とパーキンソン病の重症度とは必ずしも関連していません。ヤールstageのⅠから嚥下障害を有する方もいるため、注意が必要です。パーキンソン病患者さんでは、嚥下障害の有病率が高いにも関わらず、嚥下障害を自覚している人は30-80%と自覚していない患者さんも一定数存在しています[2]。そして、唾液貯留によって不顕性に誤嚥している患者さんは15%存在しているとも言われています。パーキンソン病患者さんの摂食嚥下障害が把握しにくいのは、日内変動があることも一因です。パーキンソン病患者さんでは、1日の中で運動機能や自律神経系の症状の出方に変動があります。また、抗パーキンソン病薬を服用している場合には、薬剤が効いている時間と効果が切れた時間では、症状に変化が生じます。抗パーキンソン病薬では、薬剤の副作用も摂食嚥下に悪影響を与えます。ジスキネジア、口腔内の乾燥、ウェアリングオフなどには注意が必要です。

 パーキンソン病患者さんでは、呼吸機能の低下も認められます。%肺活量、努力性肺活量、1秒量、1秒率が低下しており、閉塞性および拘束性の換気障害を有することが多いことが報告されています[3]。また、呼吸筋力についても低下しており、咳嗽力も低下しています。咳嗽力が低下すると、誤嚥した際に誤嚥物を喀出することができないため、誤嚥性肺炎の危険性が高くなります。パーキンソン病患者さんの呼吸機能低下の一因として、パーキンソン病患者さんに特徴的な姿勢異常が関係しています。パーキンソン病患者さんでは、体幹が前傾しやすいため、前方を見ようとして頸部が伸展し、顎を突き出した姿勢になります。また、ピサ症候群と呼ばれる体幹側屈が生じ、姿勢反射障害も生じるため、体幹・頭頚部を正中に修正することが難しくなります。さらに、頭頚部が過度に屈曲する頸下がり現象も生じやすくなります。これらの姿勢異常は、いずれも胸郭の可動性を制限するため、換気量の低下につながります。姿勢だけでなく、パーキンソン病やその治療によって生じる筋強剛やジスキネジアも、呼吸筋の正常な筋活動を阻害するため、呼吸機能や咳嗽力の低下を誘発します

 このように、パーキンソン病患者さんでは摂食嚥下障害や呼吸機能低下を有する危険性が高いため、誤嚥性肺炎の危険性が高く、パーキンソン病患者さんの死因の24-40%は誤嚥性肺炎と言われています[2]。パーキンソン病患者さんでは、摂食嚥下障害とそれに伴う誤嚥性肺炎は重要な課題です。

パーキンソン病の摂食嚥下の特徴

 

先行期

 

 パーキンソン病患者さんでは、先ほど記載したような姿勢の異常が認められます。体幹前傾・頭頚部伸展位を呈しているため、椅子やテーブルの高さを姿勢に合わせて調節しなければ、視点を食事に向けることができず、食事の認識が難しくなります。食事の認識が難しくなると、どんな食べ物が提供されているのかがわからないため、食欲の低下食材に合わせた食事動作の制限を誘発します。食材を取れたとしても、姿勢異常のために口に運ぶ軌跡が変化するため、上肢の可動域や筋力、巧緻性、リーチ能力がより高いレベルで必要になります。口に取り込む際には、頭頚部伸展位となっているため、皮膚や舌骨上筋群が伸長されてしまい、下顎が後下方に引っ張られ、口腔の取り込みの際に取りこぼしをしてしまう危険性が高くなります

 姿勢以外では、認知機能の低下も先行期に影響します。パーキンソン病患者さんでは、病識が低いことが多く、自分の能力を過信してしまうところがあります。そのため、摂食嚥下機能が低下してきているのに、自分の能力よりも高い食事形態の食べ物を選択してしまったり、口腔内に目一杯食べ物を頬張ってしまったりしてしまうため、誤嚥や窒息の危険性が高くなります。パーキンソン病患者さんでは、ご自身のこだわりを強く持っている方が多く、指導や教育内容の受け入れが良くない場合が少なくありません。また、精神心理症状として抑うつ状態になりやすいため、精神的な落ち込みによる食欲低下も認められることが多くあります。

 筋強剛や振戦、ジスキネジアも円滑な食事動作を阻害します。筋強剛によって上肢の動かしにくさが生じると、円滑な食事動作が行えなくなります。特に、食べ物を食具で取る際には細かい手指、手関節、前腕の動きが重要になります。パーキンソン病患者さんでは、このような細かい操作が苦手になることが多く、細かい操作が必要な食材や食器、食具の使用が難しくなります。

 

準備期

 

 準備期は、口腔内に取り込んだ食物を咀嚼や舌の運動で唾液と混ぜ合わせることで、食塊を形成する過程です。咀嚼や舌の動きも筋活動で行われているため、パーキンソン病患者さんでは筋強剛、振戦、ジスキネジアといった筋活動の異常によって円滑な食塊形成が難しくなります。また、先ほど記載したように、パーキンソン病患者さんでは、食物を口一杯に入れてしまうことがあるため、食塊形成に時間がかかります。パーキンソン病患者さんが服用する薬剤の中には、唾液分泌を低下させる副作用を有する薬剤があるため、口渇による食塊形成不全や味覚低下も生じる危険性があります。

 

口腔期

 

 口腔期では、舌によって食物を咽頭まで運ぶ動きが必要になります。パーキンソン病患者さんでは、先ほど記載したように、舌にも筋強剛や不随意運動が生じるため、口腔内圧を高め、奥舌に送り込むことが難しくなります。また、タイミングよく送り込むことができないため、早期の咽頭流入口腔内の残留が多くなり、咽頭期以降の過程に影響していきます。

 

咽頭期

 

 咽頭期は嚥下反射が生じる過程です。パーキンソン病患者さんでは、この咽頭期に問題を抱えることが多くあります。まず、パーキンソン病患者さんでは、姿勢異常によって、頭頸部の位置に変化が生じます。下顎を突き出して頭頸部伸展位になっている姿勢、首下がり症状で過度に頭頸部が前屈してしまっている姿勢、体幹が側方傾斜して頭頸部も一緒に側方傾斜してしまっている姿勢など、パーキンソン病患者さんに特徴的な姿勢によって、舌骨筋群を始めとした嚥下関連筋群の円滑かつ機能的な活動を阻害されてしまいます。結果として、嚥下がスムーズに行えず、誤嚥の危険性が高くなります。また、パーキンソン病患者さんでは、嚥下反射の遅延咽頭残留を早期から認めることが報告されています。この原因として、パーキンソン病患者さんでは迷走神経背側核を中心とした下部脳幹にαヌクレインが蓄積しており、その影響で迷走神経などが障害されて感覚障害が生じることが考えられています[4]。さらに、この迷走神経の障害による喉頭の運動障害や筋強剛による嚥下関連筋群の円滑な筋活動の障害によって、嚥下をスムーズに行うことが難しくなることも、咽頭期の障害の原因となります。

 

食道期

 

 食道期は、食べ物が食道を通り、胃に運ばれるまでの過程です。パーキンソン病患者さんでは、食道の入り口である上部食道括約筋が十分に機能しなくなり、開大不全が生じることがあります。また、食道の蠕動運動が減弱することで食塊の移送が円滑に行えなくなることもあります。さらに、体幹の過度な前屈位などの姿勢異常によって胃が圧迫されやすく、胃食道逆流が発生してしまう危険性も高い状態になります。

おわりに

 今回はパーキンソン病患者さんの摂食嚥下障害の全体像についてまとめました。パーキンソン病患者さんで見られる摂食嚥下障害の特徴は、パーキンソニズムを呈する類似疾患や薬剤の副作用でも見られる場合がありますので、パーキンソン病ではなくても注意して観察する必要があります。

本記事の執筆・監修・編集者

✅記事執筆者(宇野先生)のTwitterはこちら↓↓

✅記事監修(✅編集(てろろぐ

関連する記事 

✅ 前回記事はこちら

✅ 栄養に関する人気記事はこちら

あなたにおすすめの記事

参考文献

[1] 内田学, 他. 姿勢から介入する摂食嚥下 パーキンソン病患者に対するトータルアプローチ. MEDICAL VIEW社, 2020.

[2] 日本神経学会監修. パーキンソン病ガイドライン. 2018.

[3] Guilherme, et al. Respiratory Disorders in Parkinson’s Disease. J Parkinsons Dis. 2021;11(3):993-1010.

[4] 日指, 他. パーキンソン病における嚥下障害. 臨床神経学, 56(8); 2016.